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映画・演劇のレビュー

『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』

2024-03-21 14:45:00 | 映画

若松プロダクションの黎明期を描いた『止められるか、俺たちを』の続編である。今回は映画作りの話ではなく、映画館を作る話。スケールは小さくなる。しかもこの映画の監督である井上淳一の自伝。名古屋のシネマスコーレが舞台となる。若松孝二は前作に引き続き井浦新が演じる。こんな地味でマニアックな題材で映画を作るなんて大胆。

若松は名古屋に自分の映画館を作ることにした。自前の映画館を持つという画期的な映画監督となる。まず若松は支配人として以前文芸坐にいて今は名古屋のビデオカメラメーカーで働いている木全をリクルートする。出会ったばかりの若松(井浦新)と木全(東出昌大)のやりとりが楽しい。

それにしても、こんな地味な映画がありなのか、と思いつつ見始めたが、これがまさかの大傑作だった。前作以上に面白い。まだ若い監督(というほどは若くはないけど)が作る自身の自伝映画って普通はないだろう。だが、それを井上は自分に対しての過剰な感傷はなく冷静になって、でも当時に対するしっかりした思い入れを込めて、2時間の映画にまとめた。

主人公を自分ひとりにはしないで、いやメインはどちらかというと、若松孝二監督とシネマスコーレ支配人の東出昌大、このふたりの大人とする。そこに井上(もちろん自分ね。杉田雷麟)と同世代の金本(芋生悠)という若いふたりを配する。彼らの大学受験や在日コリアンの指紋捺印を巡る話も挟みながら、この4人を中心にして82年から84年までの日々を描く。

名画座からミニシアターへ。ビデオレンタルが本格化して、映画が変わる時代。斜陽産業である映画に命をかけて挑む滑稽な人間たちの群像劇を描く。そこには映画への果てしない愛が溢れてくる。若松は助監督経験1本だけの井上を河合塾PR映画の監督に抜擢し、現場を自分で仕切りながら、彼に映画作りを伝える。そのわがまま過ぎる姿は何故か感動的だ。

前作の映画を作る話から、今回は映画も作るけど、表面的には映画館を作り運営する話になる。話はよりマニアックになるけど、前作に引き続き熱い。(暑苦しいくらいに)彼らは「自分の好きなこと」に邁進するバカな奴らだ。そんな奴らのドラマは、そこに「映画」という小さな括りを超えた普遍のドラマを見せる。好きを極めることの美しさと愚かさ。若松孝二の映画への想い。それが確かに伝わってくるから感動的なのだ。


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