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映画・演劇のレビュー

彗星マジック 『定点風景』

2011-07-10 20:50:49 | 演劇
 1年間続いた連作短編集の劇場版長編である。残念ながら評判の短編集は一度も見ることが叶わなかった。火曜日はダメだからだ。仕事が9時まであるから、不可能なのだ。せめて1度でも見ておきたかった。あんなに塚本さんが褒めていたのだから、きっと素敵な作品だったのだろう。ということで、今回初めてこの作品と対面した。期待しすぎて、ちょっとがっかりだ。

 よくあるエンタメ芝居と異口同音で、ことさらそれ以上のものはない。でも、小さなお話を丁寧に紡いでいき、大きなドラマへと昇華していく語り口の巧みさは大したものだ。だが、これまで何本か見た彗星マジックの作品から、期待出来たレベルで、突き抜けるものはない。

 少年と少女が広場で出会い、お互いを意識する。でも、塔の上と、その下の広場という距離が2人を隔つ。彼らの恋はどうなるのか。この距離感がどうドラマに活かせるのかが、この作品の眼目だ。彼らを中心にして様々な人々のドラマが描かれる。一種の群像劇になっている。その中心にある森に行く話は興味深いのだが、それがこの世界の成り立ちや、それがどう進化していくのか、といった大きなお話と絡み合い、どこに向かうのか、興味津津だったのに、思ったほどには広がらない。主人公の恋物語の方も進展しない。

 ルックスはいいし、目の付けどころも悪くはないのだが、ドラマの作り方が、安直過ぎた。森が広がる。森で迷子になる。森に入ってはいけない。中心となるこの「森を巡るお話」を、2人のドラマにつなげ、全体を集約させることが必要なのだ。なのに、後半の混乱が作品をつまらなくした。全体の構成力が弱いのが惜しい。ここには『天空の城ラピュタ』に代表される初期のジブリ映画のような心地よさがあるだけに、なんとも残念だ。

 象徴的かつ抽象的なドラマと、この世界におけるリアルとの融合が、ドラマ自体の世界をどこまでも広げていく時、この作品は果てしない想像力の翼を持つはずだ。作、演出の勝山修平さんの中にある宇宙が力を持つためには、人と人との関係に対する奥行きの付与が最重要課題だと思う。自分の中で感覚的に理解しているものをもっと具体的に提示仕切れないことにはひとりよがりのものになってしまう。とても魅力的な設定を持つ一人一人が、芝居の中できちんと立ち上がり、動き出したなら、これは傑作になり得たことだろう。

灯台守の少女と時計台の少女がオーバーラップし、森で行方不明になった女性と対比されたその先に何を提示すろか、そこがこの作品にとって一番大切な部分であり、そこからこの宇宙の謎を解明してみせる力業が必要だった。


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