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映画・演劇のレビュー

『探偵はBARにいる』

2011-09-18 08:53:34 | 映画
 なんだか懐かしい映画だ。昭和の香りがする。昔はこういう「探偵もの」が、けっこうたくさんあった。2本立の添え物タイプである。東映が盛んに作っていた。今ではめっきり影を潜めてしまったジャンル映画だ。今回の作品が2時間以上の上映時間になったのはディテールを重視したため、仕方なくそうなったのだろう。昔なら許されないことだが、今の時代なら反対にそうしなければ成立しない。これは元来、普通なら9〇分に収めさせられるはずのプログラムピクチャー映画なのである。

 だが、それを今の時代でするのなら、丁寧に作らなくては、成立しない。だから、2時間である。でも、あまりもたもたしていたら、それも飽きられるからダメだ。そのへんのバランスが難しい。大体、これは今の時代に作られた映画である。それも、それなりの予算のもと作られた大作でもある。失敗も許されない。

 そんなこんなであれこれ制約は多かったはずだ。だが、東映の生え抜きである橋本一監督はぎりぎりでなんとか、この作品のバランスを崩さずに成功に導いた。かなり危ないところだったが、セーフだ。

 この映画がいいのは、定番をちゃんと抑えた上で、今の時代にも通用するようにテンポよく軽快に見せる工夫がなされてあるところだ。ハードボイルドだが、ただの気取った映画にはしない。主人公の造型が新鮮だ。大泉洋のキャラクターに合わせて3枚目の線で作られてある。だが、そこがかっこいい、と思えるようにも作られてある。ルパン3世の線である。なんとも心憎い。

 さらには相棒役の松田龍平がいい。無口で、でもお茶目で、強い。一見文系で、ひ弱にも見える(眼鏡なんかをかけてるし)が、そのへんのマッチョよりもずっと頼りになるボディーガードだ。その見た目との落差がいい。先に公開された『まほろ駅前便利軒』での役と重なる。

 映画の中で描かれる事件自身はたいした話ではない。だが、大事なのはそこではない。こういう映画はその雰囲気を楽しめるかどうかが評価の分かれ目となる。謎の女は小雪が演じる。彼女なら充分雰囲気だけで勝負できる。途中、少しモタモタする部分もあるが、全体としては、気持ちよく見れた。札幌の町がいい雰囲気を醸し出している。作り手はこの町をよく知っている。話の内容ではなく、ムードが大事なのだ。そのへんも橋本監督以下スタッフ、キャストがよく心得ている。そういう意味でこれは大人の映画である。


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