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映画・演劇のレビュー

『プリンセス・トヨトミ』

2011-07-01 20:48:47 | 映画
 こういうファンタジータイプのお話をリアルに映像化するのは、かなり難しい。現実の大阪を舞台にして、ここが実は精神的な独立国だった、という破天荒な物語が展開する。次号イマージュの原稿で、劇団太陽族のことを書いたのだが、その時この映画の原作に触れて、ついつい調子に乗り、筆が滑って「大阪国独立を描く」なんて書いてしまったが、本当は嘘だ。ここで描かれるのは、明治政府が既に「大阪の独立を認めていた」という事実が明らかになる、ということなのだ。それは、おおっぴらにはされていないが、大阪のある特定の人間なら誰もが知っているという事実(公然の秘密ってやつだ)として描かれる。そんなアホなこと、がこの物語の根底にあるのだ。それを公にすると、いろんなところに支障が出てくるから、敢えて政府も隠している、ということらしい。そういう設定を根底に持ちながら、物語はミステリ・タッチで綴られていく。
 
 大阪城の真下には東京の国会議事堂と全く同じ物があり、ここで大阪国の会議が開かれている、とか。こんな突拍子もないホラ話を映像として見せていくのは至難の業だ。小説としてなら大丈夫だが、実際に映像化すると、なんだか嘘くさくなる。しかも、映像で見せるべき大スペクタクルの要素がここにはない。ラストで、大阪国民が大挙して大阪府庁の前に集まってくるシーンもそこで「何か」があるというわけではなく、大阪国総理大臣(中井貴一だ!)と会計監査院の役人である堤真一が対決(対話)するのをみんなが見守るというだけで、一触即発の危機感はない。もちろん暴動は起きないし。

 もともとこの話はミステリ仕立てで、ストーリーテリングの面白さで見せるものだから、印象上のスペクタクルな要素から何かを期待しても詮無い話で、視覚的な映像としては多くを望めない。財団法人OJO(大阪城址整備機構)の地下から大阪城の地下へと続く議事堂までの長い廊下をちゃんと見せるとか、まぁよく頑張ってはいるのだが、映画を見終えた後の印象はやはり地味目だ。この小説のストーリーの面白さをコンパクトに見せるとこんな感じになるのは当然で、映画としてはこれでもよく頑張っていると思う。だが、それ以上のものはない。

 トヨトミ家の末裔であるプリンセスが立ち上がり、大阪が、日本から独立するために戦うとか、そういうのは、最初から期待する方が間違いだろう。だいたい原作はあの万城目学である。彼のホラ話につきあって、楽しめばいいだけの小説で、エンターテインメント・スペクタクル大作をこの話から期待するのは無理。

 そういうわけでこの映画を見て、やっぱり欲求不満の残るものになったのは、仕方がないことなのだ。なんだか見るのが怖くて、封切りから5週間、ようやく見たのだが、思った通りの映画だった。僕はこれでいいのだが、きっと何も知らないであの予告編のイメージから劇場に足を運んだ観客をかなりがっかりさせたことだろう。

 欲を言えば、せめてファンタジーとして、もう少しいろんな仕掛けが欲しかった。大体これだけの大事件が起きているのに、全国民に対して秘密にしておけるはずがない。ならばいっそのこともっと大嘘にして、これを「不思議の国オオサカ」の話として徹底させればいい。もう少しファンタジーの意匠を凝らして見せたなら、よかったのだ。それなのにリアルの地平から描こうとしたから上手くいかないのだ。気持ちはわからないでもないのだが、なんとも難しい。


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