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映画・演劇のレビュー

Axle『11人いる!』

2008-12-29 19:43:08 | 演劇
 昔、高校生だった頃、貪るようにして萩尾望都のマンガを読んでいた。あの頃、どうしてそんなに夢中になったのか、今ではよくわからない。もちろん、少女マンガであるにも関わらず他の誰のよりもおもしろかったのは事実だ。だいたい僕はマンガはあまり好きではなかった。だから少年漫画なんかほとんど読まなかったが、つげ義春と萩尾望都、そして手塚治虫の3人だけは別格だった。

 あれから30年もの月日が経ち、なぜか今、彼女の『11人いる!』を舞台化した作品が上演される。正直言ってなんだか不思議な気分だ。なぜ今、この作品を舞台化するのだろうか。このお話自体、今の時代に於いてかなり古いものになっている。これを今見せることに違和感を感じないではいられない。もちろん詰まらない話だなんて言わない。だが、時代の気分は、こういう諍いと反目の中から、友情が生まれてくる、なんてものを信用できないという雰囲気ではないか。なのに敢えてこういう話を今見せることの意味がわからない。下手をすれば、噴飯もののリアリティーが欠如した作品になりかねない。

 密閉された宇宙船という空間の中で、ほんとうは10人しかいないはずの船内になぜか11人いる。なぜこんなことになったのか、わからない。疑問と不安の中、53日間の航海に出る。これは宇宙大学入学試験の一環である実技テストだ。最後まで1人として脱落することなく航海を終えなくてはならない。彼らは無事にテストに合格できるのか。

 ストーリー自体はたわいないものだ。単純で、ありきたりですらある。これを今、やることの意味がわからない。今だからこそこういう物語が必要なのだ、なんて単純な思考をしたわけではあるまい。この芝居の必然性は芝居を見終えても疑問として残った。この芝居の作者からの答えは見えない。

 だが、作品自体はきちんと作られてあるし、見ていて飽きささない。11人の男優たちは舞台上でとても魅力的だし、それぞれのキャラクターの描き分けもしっかり出来ている。ファンの女の子たちにとってはたまらない作品だろう。(客席の95%は若い女の子たちだった)

 この題材をストレートに見せて、こんなにも気持ちよく仕立てたのは見事だ。それは簡単そうに見えて実は必ずしもそうではない。今時、この話を絵空事ではなく、説得力を持って見せきるなんて、かなりの困難を伴う。11人もの見知らぬもの同士が、同じ目的のもと、共同生活を通して連帯感を抱き、友情が芽生える、だなんて話は噴飯ものになりかねない。だが、作、演出を手掛けた吉谷光太郎さん(教官役で出演もしている)はうそ臭くなることもなく、説得力のある舞台に仕上げる。ウエルメイドを目指したのではなく、ただ誠実に芝居を作ったのが、成功の理由だ。

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