ヤッさんシリーズの完結編になる。サブタイトルに「ヤッさんファイナル」とちゃんと銘打たれている。中編小説3作連作だが、全体で1本の長編作品になっている。
ヤッさんの弟子であるふたりが主人公になる2作品(『マリエの覚醒』『タカオの矜持』)のあと、タイトルでもある『ヤスの本懐』で満を持してヤッさんが登場するという体裁だ。
そうなのだ、今回はヤッさんが行方不明になったところから、お話は始まる。主役が不在のまま、事件が起こり、マリエが立ち向かい、さらにはタカオが戦う。以前ならヤッさんがしていたことを彼らが自分一人でやることになる。
そして、なぜ、ヤッさんがいなくなったのか。彼の事情が明らかになり、最後の戦いが始まる。オモニの病気との闘いも含めて、みんながそれぞれ目の前の敵と向き合い、乗り越えていく。そんなふうに書くと、なんだか「バトルもの」みたいだけど、もちろんそうじゃない。誰かのために何ができるのか、をしっかりと見つめていく。それはもちろん自分のためでもある。オモニの死を描く部分のさりげなさがいい。感傷過多にはしない。理不尽を受け入れる。それは運命だ。だけど、そこで倒れない。ちゃんと前を向いていく。この小説は、自分らしく生きることが大事、というそんな当たり前のことをきちんと伝えてくれる。