原作はまるで知らない。大長編のマンガの映画化らしい。こういうタイプの映画は中国映画ならもう山盛りあるから、これがどれだけスケールの大きな映画になろうとも、またそうであろうとも、どこかで見た中国映画と大同小異だと思われることは必至だろう。そんな「中国の王宮を舞台にしたスペクタクル映画を日本映画として作る」という多大なリスクを追いつつもそれにチャレンジして、本国の映画に負けないスケールと面白さを提示できるのか。最初から困難ばかりで、得るものは少ない。だけど、この映画はそれに挑んだ。そして、成功している。
壮大なスケールの大作なのだが、それだけでは物足りないし、意味はない。この映画が成功したのは、ストーリーの面白さゆえだ。しっかりとしたお話が作品を引っ張っていく。エンタメであるから、ある種のパターンからは逃れられないし、そこを踏まえなくては共感は呼べない。わかりやすさと、意外性。テンポの良さ。大河ロマンの序章なのだが、まず、これだけで独立した1本の映画として完結しているのがいい。お話の途中で終わるという愚を犯さない。大作映画は得てしてお話を完結できないまま、エンドロールを迎える。最初から3部作として企画しました、とかいう言い訳で始まる映画が多い。だが、この作品はそうじゃない。秦国の内乱を描くドラマに主人公2人がしっかり関与していき、単なる長編の幕開けにはしない。そして芯となるのは、ひとりの少年の成長物語であり。それとして完結すると同時に彼の旅立ちのドラマとしても成り立つという構造になっている。
まぁ、それだって大概なパターンでしかないのだが、その王道をちゃんと歩きながらも、マンネリにはならず、新鮮な映画として成立する。人物造形が魅力的だからそうなるのだ。山﨑賢人と吉沢亮(お話の重要な要となる二役を演じる)が素晴らしい。「海賊王に俺はなる」という感じのノリで「大将軍に俺はなる!」という山﨑演じる奴隷の少年、信の単純なキャラクターに共感できるだけの陰影をつけたのは見事だ。
お話のテンポもいい。早すぎず遅すぎず、緩急も見事だ。2時間14分という上映時間も実に適切。佐藤信介監督が今まで培ってきたすべてをこの1作に注いだ渾身の力作。アクションシーンもすばらしい。スペクタクルとの兼ね合いもうまい。お話を展開していくうえで必要なアクションとスペクタクルなのだ。だから、無理がないし、安心してドキドキさせられる。娯楽超大作の見本だろう。お約束を順守してストーリーは展開するからそりゃ突っ込みどころは満載されている。だけど、気合でそこは乗り切る。心情的に納得できるから僕は大丈夫だった。興ざめするという意見は確かに出るだろうけど娯楽活劇はこれでいい。面白かったので続編はいらない。