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映画・演劇のレビュー

エイチエムピー・シアターカンパニー『阿部定の犬』

2015-08-10 19:19:15 | 演劇
熱い芝居である。オリジナルの熱気をそのまま再現しようとした。そんな「ザ・アングラ」をいつもクールな笠井さんが相変わらずクールなタッチで見せる。なのに、それが水と油にはならない。

とてもスリリングな作品に仕上がった。3幕3時間半に及ぶ作品を2時間50分に仕上げた。全体のテンポをあげていくと、どんどん短くなった。本当なら2時間20分にだって出来た。いや、もう出来ている。でも、そうはしなかった。僕は2時間20分バージョンが見たかったな、と思う。これは今なら休憩なしで見せきれる。笠井さんの演出なら5章を一気に見せても長くは感じないはずだ。

今回の2時間50分という上演時間は2度の休憩を含んだ時間なのである。今時、3幕構成の芝居はない。オリジナルがそうだったから、踏襲したようだ。熱い芝居をクールなタッチで見せたのに、熱い芝居の上演形態を変えない。敢えてそこは譲らない。

内容に関しては、わからないところだらけの芝居である。提示されるさまざまなイメージは、ひとつに結ばれない。結ばれそうで結ばれない、という危うさ。舞台には巨大な「上野、浅草、向島」の地図が、ある。それを背景にして演じられる。昭和11年、ここは日本晴れ区安全剃刀町オペラ通り。そんな架空の町、場所。そこにやってくる女。全編には16曲もの歌が収められ、それらの歌には深い意味はない(わけでもない)。これはまずミュージカルなのだ。だが、お話のほうは単純ではない。しかも、そこには、どこにも中心がない。群像劇か、と言われると、そうでもない。阿部定が主人公というわけでもないし。だいたい「あたし」という女は好きな男の陰茎を切り取り、持ち歩いているようだが、そのことを巡るお話にはなっていない。彼女と、女なのに陰茎を持つ春野春夫という女がネガポジ関係にあり、彼女たちの関係性からドラマが浮かび上がる、わけでもない。幻の町で演じられる享楽のドラマ。そこには幻の歴史が描かれる。

芝居のラストで昭和天皇の死が報じられる。これは衝撃のラストだ。それだけで、僕たちはすべてを納得する。これこそがアングラ演劇なのだ。それまでの3時間の意味なんか必要ない。このラストのインパクトがすべてだ。

僕が初めて68/71黒色テント(黒テント)の芝居を見たのは精華大学で上演された『ブランキ殺し 上海の春』だった。あの時の衝撃は今でも忘れられない。あまりに芝居が長すぎて、家に帰れなくなりそうだった。まだ20歳前の子供だったからそれだけでも衝撃的だった。確かその前年に唐十郎の赤テント(『唐版犬狼都市』)を初めて見た気がする。もともと寺山修司(『田園に死す』)が好きだった。(彼の舞台は『奴婢訓』まで見れてない。その後はもう『レミング』だ!)その先には佐藤信がいた。なんだか、懐かしい。

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