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映画・演劇のレビュー

『マンガ肉と僕』

2017-01-16 02:40:52 | 映画
杉野希妃の第1回監督作品。2作目のほうが先に公開されていて、そちらはもう見ているけど、実は、あまりおもしろくなかった。だが、こちらは実に刺激的な作品だ。8年間の歳月の中で、3つの恋愛を3つの時間のなかで描き、そこにひとりの男の姿を切り取る。



ただの恋愛映画ではない。面倒くさい女たちに弄ばれる男を描くように見せかけて、弱いつまらない男の当然の帰結を描く。杉野監督の視線は辛辣で、怖いくらいだ。3人の女たちはそれぞれ実に勝手で、翻弄される彼が被害者のようにも見えないでもない。だが、それはこの男のいいかげんさ(それは優しさのようにも見えるけど、断じてそうではない)のせいだ。男女のことだから、どちらかに責任があるわけではないけど、なんだか、どちらもなんだかなぁ、という感じ。恋愛の熱のようなものとは、遠く離れて、ここには、ため息のようなものしかない。





こんなにも醒めた映画をよく作るよな、と思う。最初はタイトルでもある「マンガ肉」のエピソードだ。これは実に強烈だ。杉野希妃が演じるデブ女(マンガ肉ばかり食べる)のアンニュイとした姿がこの映画全体を象徴する。主人公である僕(三浦貴大)は、見た目がすごい彼女に対して、拒否することなく、ふつうに接する。その結果彼女に付きまとわれる。やがて、家に入り込んできて一方的に同棲されてしまう。もちろん、一切恋愛感情なんか、もてない。(お互いに、だけど)ただ、住むところがない彼女が居ついただけ。どれだけ、追い出そうとしても、出ていかない。災難だ。でも、彼はそれを受け入れている。新しい彼女が出来て、(というか、マンガ肉の女は彼女なんかではないけど)いいけげん、この女を追い出さなくてはえらいことになる、と思う。追い出そうとして刺されるけど、なんとか、追い出せた。



3年後。新しい彼女と同棲している。(新しい、というけど、さっきの彼女だ。本人にとってはこの子が初めての「彼女」)でも、嫉妬深い彼女を持て余している。なんだか、うざい。大学の4年生になっている。



さらに5年後。3人目の彼女は大学の後輩で、弁護士を目指している。彼はもう弁護士は諦めた。夢を失い、毎日の生活に埋もれる。やがて、試験に通った彼女は、上から目線であなたももう一度弁護士を目指したら、なんて言う。28歳になっている。





京都を舞台にした。京都の何とも言い難い一面がちゃんと描かれているのが、すごい。じっとりして、粘つくような映画だ。要するに嫌な感じが残る。だが、それが何とも言い難いこの映画の魅力で、面白い。3つのエピソードを通して、ひとりの青年の恋愛模様を描くだけではなく、普遍的な人の姿すらそこに描きこむ。90分ほどの短い映画なのに、実に豊かな映画だ。ラストでお決まりのようにちゃんと痩せていつものきれいな杉野希妃が登場するけど、それも嫌味ではなく、映画の終わらせ方としては、悪くない。こういうとりとめのない映画にはそういうしっかりとしたけじめがラストに必要だからだ。
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