読む小説がことごとく面白いから、それは(もしかしたら)自分の選択が素晴らしいのではなく、自分の満足感がおかしくなっているのではないか、と不安になってきたのだが、大丈夫だった。ここ数冊読む本がなくて少し守備範囲を広げたら、つまらない小説が数冊続いた。なんと僕が途中で読むことを断念したものまである。(もちろん、それをどれ、とは言わないけど)そういうわけでこの小説もあまりに惨くて途中でやめよう、と思ったのだけど、あとがきを読んで、それからネットで作者のインタビューを読んで、考えを変えた。やはり、これは最後まで読もう、と。
これはこの作者が高校生の時に書いた本だという事を知り、ラスト以外は書き直していないという事も知った。高校生がどこまでやってくれるのか、見届けようと思ったのだ。そういうことで我慢して読むことにしたのだが、それはそれで正解だった。よかった。ラストが、すごくいいのだ。ここまで読まなくては作者の意図は伝わらない。
こういうことがやりたかったのか、と知れた。そこに描かれるのは、「その後」と「エピローグ」だ。そこまでの本編は読むのが地獄だったけど、これはこれで確信犯だったのかもしれないと理解した。
嘘くさい展開や設定。無理して作ったお話。ふたりの美少女とのやり取りは少女漫画で噴飯ものだが、そこも確信犯的行為。父親と母親、さらには出奔した兄。バラバラになった家族を、父親に従属するというフリで、彼がつなぎとめる。全編に挟まれる殺した猫とのやりとりもあざとい。だけど、そんな欠点を補ってあまりある。20代前半のまだまだ若い作家が気負いながら背伸びして丁寧に作り上げた小説である。悪くはない。