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映画・演劇のレビュー

『春江水暖』

2021-03-03 21:16:51 | 映画

今更僕がここに書かなくても映画ファンなら、誰もが知っていることだろうけど、これは素晴らしい映画だ。先週公開直後に見てきて、感心した。2時間半があっという間だった。とても豊かな気分になれた。美しい風景を背景にした人間ドラマはとてもよく出来ていて心ひかれる。中国の躍進のなかで、この自然はやがて失われていく。そんなことも含めて、ある家族の歴史であると同時に、さまざまなこともこの映画は描いていく。傑作である。でも、なんか引っかかる。

映画を見た直後、すぐに感想を書こうとしたけど、なぜか書けなかった。何を書いたらいいのか、よくわからないからだ。あまりに完璧で、文句のつけようもない。(というか、文句なんかないのだけれど。)ただあまりに優等生過ぎて、眩しすぎる気がした。

 

こんな立派な映画を、まだ若い監督が作るんだ、と思うと、胸がいっぱいになる。凄い時代がやってきた。でも、さっき市川崑の『恋人』を見たから、「今」が凄いのではなく、いつの時代でも凄い人はたくさんいる、という当たり前の事実に直面しただけ。それもなんか、うれしい。

 

評判の長回しはどこまでするのかと驚嘆させられるほどだ。横移動でどこまでもカメラが追いかけていく。二人の姿を追いかけるのだけど、同時にいろんなものを掬い取っていく。船の上までやってきたときにはこれはもう参ったなと思った。このシーンが映画全体を象徴する。確かな技術に裏打ちされた安心感。その中でじっくりと自分が描きたいものを見せていく。

 

母親の誕生日を祝う4人の子どもたちとその家族。長男の経営するレストランでの盛大な宴のシーンから映画は始まる。その席で母親が倒れて救急車で運ばれる。映画は彼女の入院から死までを背景にして、母親の介護をどうするか、そこに問題の焦点を置いて、彼ら4人兄弟のそれぞれの想いを描いていく。壮大な絵巻物だ。

 

お話は、長男の娘の結婚問題を中心に描かれる。彼女の選んだ結婚相手を母親は受け入れられない。娘は自分の意志を貫いて家を出る。もちろん、描かれるのはこの長男の家族だけではなく、4人兄弟の家族、そのそれぞれの事情や現実も丁寧に描いていく。それらが川の流れのように悠々としたタッチで綴られていくのを僕たちは見守ることになる。

いろんな意味で野心的な作品なのに、なんだかとてもさらりとしていて無理がない。この監督は老成している。そんな気がした。自由自在ともいえる。だけど、なんか、そこに釈然としないものもある。

このささやかな家族のお話を(同時にそれが壮大な大河ドラマとなるのだが)監督のグー・シャオガンは、奇を衒うことなく、ひそやかに見せてくれる。でも、三部作として仕上げる覚悟なのだ。映画のラストで第1部終了と出る。それにも驚かされる。ただ、そんなこともこんなことも含めて、なんだかあまりに完璧で、つけいる余地のないこの映画にやはり僕は少し戸惑っている。手放しで大絶賛できない。

 

 

 


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