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映画・演劇のレビュー

笑の内閣『名誉男性鈴子』

2015-05-18 21:12:35 | 演劇

チラシにあるストーリーとは微妙に変わった本編のストーリー。要するに台本を書いているうちに設定が変わってしまったのだろう。いつもタイムリーな時事ネタを取り込み、作品化する高間響さんは、大手企業で管理職コースに乗っていた女性、という設定を市長選に出馬した女性市会議員へと変更して、大阪都の住民投票の日にぶつけてきた。

「見た目は淑女、中身はおっさん」という「名誉男性」(この卑屈なネーミングのことを僕は知らなかった)をテーマとして取り上げた。男尊女卑が大手を振って今もまかり通る政治の世界に軽くメスを入れる。いつも、何を扱っても、鋭くメスを入れたりはしないのが、高間さんのやり方だ。今回もそう。シリアスに突き詰めてしまうと、冗談にはできない。もちろん、彼はふざけているのではない。冗談としてこういうネタを扱ってはいないことは明白だ。しかし、差し障りのないところで、軽く流す術も心得ている。けっこうしたたかでずるいのだ。

前作の福島原発への高校の修学旅行というとんでもないアプローチを、校内の内紛劇というつまらないところに落とし込んだのも、同じ理由であろう。今回もそう。地方都市における女性市長誕生という問題を、女同士の内紛にしてしまう。視点がいつのまにか、ズレてくるのだ。

政界における男性優位の歴史にメスを入れるつもりはない。そういう既成事実をまず受容する。当然ではないか、と。問題はすりかえられる。もともとは、大々的に問題と向き合うという意識もあったのかもしれないが、気がつくとそこから微妙に外してしまう。きっとわざとだ。なんか、ちょっとずるいなぁ、とも思うけど、それが高間さんのスタンスなのだろう。正面からぶつからない。だからしたたかなのだ。

主人公の鈴子を笑えない。彼女には彼女なりのポリシーがある。最終的に彼女と戦うことになる彼女の後輩である市会議員、恵梨香の勝利もけっして後味のいいものではない。政治家のオヤジたちの傀儡でしかないことには変わりない。そういうわかりやすい図式に落とし込むのだが、決してそれだけではない。すべてを笑い飛ばすでもなく、怒りをぶつけるでもなく、微妙なところで終る。そういう曖昧さが歯痒いような。でも、きっとそこが狙いだろうけど。そういう意味ではしてやられたことになるのか。


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1 コメント

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Unknown (大牧ぽるん)
2015-05-19 01:55:48
ご来場ありがとうございます!座間聖子ちゃんやりました、大牧ぽるんです!お楽しみいただけたようで幸いです
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