習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』

2007-04-14 09:10:24 | その他
 去年この小説の第1章のみを読んでいる。どこで読んだか失念したが何かのアンソロジーで確かに読んだ。今回この小説を手にした時、実はこれが去年読んだということすら忘れていた。作者名も作品名も記憶になく、初めて読む気でページを開いた。でも2,3ページで「これ、俺読んでるよ!」とすぐ気付いた。でもこの装丁には記憶ないし、「これはデジャビュ?」なんて一瞬思う。「ん、な分けないし」とすぐに気を取り直すも、この本を手にした記憶ないし。それが思いつかないまま、かなり変な気分でもう1度読んでいくことになった。夢の中で読んだ本を現実で読む気分を味わえた。

 初読の衝撃は大きかった。一体これは何だ?と思った。その自由奔放な想像力と荒唐無稽なイマジネーションの広がり。なんとも言いがたい古臭い文体。(もちろんわざと)京都木屋町先斗町の夜を舞台にして、とてもありえない奇妙奇天烈な人物たちが織り成す妄想絵巻物が、どんどんエスカレートしていく。大学のクラブコンパからスタートして、新入部員のかわいい少女を追う先輩が、京都の夜の賑わいの中で、不気味で楽しい迷宮に巻き込まれていく。現実のようでいて、酒に飲まれた頭が見た妄想のようでもあり、でも、どうでもいいようなことが次から次へと展開していく。あれよ、あれよという間に話は流れ、何が何だかわからないまま、夜の闇の中に生じる眩い光の世界に取り込まれていく。

 なんて上手い語り口だろうか。読み終わったときには、きつねにつままれた気分。「何だったのだろう、これうぁ」という顔になってしまうこと請け合い。なんか青春小説の短編集に混じってたのだ。(調べると、それは角川書店から出ていた『SWEET BRUE AGE』でした。)

 さて、今回この小説の全体を通読して、確かに面白かったが、第1章のみのインパクトには及ばなかったのが少し残念。中篇連作というスタイルで、4話からなる作品。大学1回生の女の子と、彼女に恋焦がれる先輩が、京都の普通の町並みの中にある、でもへんてこな世界を冒険する、という基本ラインは一緒。そんな中で2人の恋のすれ違い(というか、先輩の一方的な思い込み)が語られていく。最初のインパクトがあまりに大きく後はその焼き直しにしか見えないのが辛い。糺の森の古本市、京大の学園祭、京都を覆う風邪の猛威、と様々な舞台を用意してくれ面白いが、ストーリーのパターン化は否めず、2章以降は安心して読める佳作になってしまった。

 この作品を覆う空気って、押井守のアニメーションを思わせる。この滅茶苦茶な世界を彼に映画化してもらったら凄い作品になるはず。ぜひ作って欲しい。

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