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映画・演劇のレビュー

あさのあつこ『バッテリー』5

2007-05-26 07:18:18 | その他
 あんなにも爽やかな映画の原作が、こんなにもドロドロした話だったなんて、まぁ、多分こんなことだろうとは、思っていたが、それにしても予想以上の展開で実は驚いている。児童向けの小説というジャンル分けすら可能なもののはずなのに、ここで描かれることはあまりに重く、つらくて、子供たちは、はたしてこれを楽しめたのだろうか、なんて不安になるほどだ。

 だが、もし、これをしっかり受け止めたのなら、それは凄いことだと思う。スポーツは楽しい。だけどそれを突き詰めていけばしんどいことばかりが見えてくる。だから、適当なところでやっているのが一番いい。しかし、それが出来ないのが、好きになってしまったものの弱みである。好きだからとことん遣ってしまう。自分を壊してしまうくらいに。好きなことが喜びではなく苦しみになる。

 この小説の3巻以降はそんな事ばかりが描かれて少しも楽しくない。特に横手2中の端垣が出てきてからは、ますますその傾向が強くなる。こいつが高校ではもう野球をやらないと言った気持ちがよく判る。こんな野球をしていたら、自分がダメになってしまう。彼の屈折した心情が5巻を大きくリードしていく。これは後日談『ラストイニング』へとつながっていく。

 映画の爽やかさとは、裏腹に小説はどんどんぬかるみに落ち込んでいく。それはとても自然なことである。ここには日常が描かれてあるからだ。それに対して映画は特別が描かれてある。その違いである。全く同じ話なのに似て非なるものになっていくのが面白い。

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