習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

劇団息吹『缶詰』

2007-05-27 07:43:41 | 演劇
 観客の平均年齢は軽く60歳は超えている。はずだ。あまりの凄さに何度も客席をチェックしてしまったから間違いない。プラネットで全席椅子席興行なんて始めて見たが、さもありなんと思う。お年寄りには桟敷とか段差だけの客席はきつい。

 そして、芝居である。主人公の3人もまた60代くらいではないか?筋金入り老人パワー全開のお芝居を久々に見た。もちろん見る前からある程度は想像していたし、それなりの心積もり(それって何?)も出来ていたが、あまりの僕が見慣れた芝居の世界との差異にちょっとした衝撃を受けた。世の中は広い。いろんなものがある。もちろんそんなことはわかっているが、普段は自分のテリトリー外のところには行かないからこんな事にすら感動する。

 水谷龍二の台本はつまらないドタバタ騒動を描いただけの凡作だが、これを達者な役者が腹芸で見せたなら、それなりに楽しめるものに仕上げることも可能であろう。文学座が上演した演目らしいが、いかにも<今では死語となった>新劇の人たち向けの芝居だ。

 今回の息吹バージョンもベテランの役者たちがきちんと自分のペースで芝居を作っており、文句の言いようのない作品だ。こんなにもきちんとした舞台美術をみたのも久しぶりで、大人のための演劇はそれなりには心地よい。だが、ここにはウエルメイド以上のものは何もない。(もちろんこれをウエルメイドと呼ぶには本当は異論があるが)

 だいたい台本段階から破綻だらけのものを、たとえ上手くまとめたところで、面白い芝居なんて出来るわけがない。ストーリーの表層をなぞるだけでなく、まず、昔からいつもつるんでいた3人組の思いを、もっと繊細に描かなくては意味がない。今では初老となり、会社の重役である彼らが退陣を迫られ首が回らなくなり、温泉に逃げ込みうだうだ過ごしている、という状況から、何を伝えるべきなのかを演出家はしっかり把握した上で舞台作りをしなくてはならない。これは彼らがかっての若き日を取り戻すまでのお話なのである。ちょっとした再生のドラマという大事な部分をおざなりにしているので、このつまらない映画騒動をなぞって見せるだけの、シチュエーション・コメディーにすらならないもので終わっている。さらには細部に関しても穴だらけで、観客はこの状況を楽しむことすら出来ない。

 言い出したらきりがないから、例をひとつだけ書く。村役場の助役が映画作りのために1億円をポンと出すなんていうバカな設定をよく考えたものだ。田舎を馬鹿にしているのだろうか。ありえない状況でストーリーを展開してはならない。だいたい1億円くらいでは映画は出来ません。出来たとしてもしれてます。(どこの馬の骨ともわからない奴らに、ほいほいお金をだすのはよくないことです。気をつけてください。)細部の説得力がゼロなので、芝居には乗れないのだ。

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