これってヤクザ映画と同じじゃないか、と。お話の骨格はそうである。新宿のスカウトマンの話なのだが、敵対する2つの組織の抗争で、やるか、やられるか、とか。彼らのバックには悪徳政治家がいて、彼に踊らされているだけで、とか。もうこういうのは散々東映映画で見せられてきた。
さらには、『クローズ』他の、学園ものも、同じパターンだ。てっぺんとってやる、とかいうやつね。あれも元をただせば、やくざ映画の変化球でしかない。エンドタイトルのクレジットを見て知ったのだが、この映画のプロデューサーが山本又一朗で、やっぱりね、と思った。彼がいかにも好きそうな映画だ。というか、これ、『クローズ』と同じ。監督が三池崇史ではなく、園子温に変わったから、幾分テイストは違うけど、お話の骨格は同じ。キャストもなんか被る。(山田孝之だけか? そんなことないよな。金子ノブアキとか、ね)
主人公の綾野剛のちゃらさが、新鮮だ。あのはしゃぎすぎは凄いとしか言いようがない。あの異常なテンションなくてはこの映画は見ていられなかったはず。彼のこの怪演が、作品の方向性を示す。ばかばかしさを感じさせない(もちろん、ちょっと考えたらすぐにそう感じるけど、でも、それでも見てしまう!)迫力と説得力だ。狂気のドラマは、つべこべ言ってる暇を与えない。性産業を支えるのは、やくざもどきの彼らの献身だ。風俗業界の構造を描くとか、そんなのではなく、女を食い物にした彼らのギラギラした狂犬のようなたたずまい。それだけで映画を成立させてしまう。
それにしても、この暴力はなんだ。そこまでする必要はない。なのに、もう殴る蹴るのてんこ盛り。エロはまるでない。そこもいい。女たちは体を資本にして、稼ぐ。これは労働だ。そこに悲惨な姿はない。のし上がってやる、とか、言うけど、しゃぶに手を染め、金を荒稼ぎしていく山田孝之の演じるヒデヨシは、やくざから絞め上げられないのか?
風俗に身を沈めても、それによって女を幸せにする、なんていうほんまか、というような信条を待つ主人公を、中心にした群像劇はなんだか、おとぎ話のようだ。リアルではなく、ファンタジーを見ている気分。それは『星の王子さま』のパクリの絵本に憬れて、主人公を王子さまと呼ぶアゲハ(沢尻エリカ)とのエピソードに象徴させる。ここはちょっとした「不思議の国」なのである。アリスではなく、白鳥(主人公の名字)が迷い込んだこのワンダーランドで、彼が本物のスワンになっていく姿を描く、のだろうか。じゃぁ、本当の白鳥ってなんだ? 歌舞伎町の雑踏の中をふらふら泳ぐように女の子に声をかける。その先には何が見えるのか。なんだかよくわからないけど、実に面白い映画だった。なんもないしょぼい映画なのに。