パキスタン映画なんて、もしかしたら初めてかもしれない。しかもこれはまだ若いサーイム・サーディク監督によるデビュー作。それがこんなにもしっかりした映画だったことにも驚く。彼はまだ33歳らしい。扱う問題はパキスタンが抱えるシビアな現実。同時にそれは普遍的な問題でもある。家族のあり方、変わりゆく生活。昔ながらの大家族はこの国からも失われていく過程にある。そんな過渡期の悲劇。
主人公の青年は、自分からは何もしたいことがない。夢や希望がない。だから流されているだけで、親の言いなりに結婚して、無職だから家事をしている。妻は仕事があるから、彼が家事や子育てに勤しむ。同居している兄の子どもたち4人の世話をして、車椅子の父親の世話もしている。兄夫婦は働いているし。兄嫁が5人目を産むがまた女の子だった。
さすがに働いて欲しいという圧力から仕事探しをするが、なんと不器用で踊れないのにバックダンサーの仕事をすることに。ダンサーに惚れてしまうが、彼女は男性だった。しかも、ふたりは愛し合うことに。トランスジェンダーの彼女を男だけど好きになる。彼女は女になりたいけど、彼は今のままの彼女が好きだ。とんでもない話になる。しかも最愛の妻は妊娠するし。さぁ、どうなる? なんだかいろんな意味でとんでもない映画だ。
同時にふたりの人間を好きになる誠実な男性。だけど、これでは彼はただのダメダメ男でしかない。そんな彼がどんな選択をするのか。ラストがあまりに悲しくて、こいつの優柔不断がみんなを不幸にしたとわかりつつも彼を断罪できない。それは強権を発揮していた父親に対しても同じだ。父は自分でトイレに行けず漏らしてしまう。ショックだ。仕方ないと周りは言うけど、本人は耐えきれない。
やがて誰もが、年をとる。時代も変わっていく。現状に合わさないと生きていけない。だけど、今まで自分が信じてきたことを変えたくない。優しさだけでは生きられない。強い気持ちを持ち、しっかりと生きること。未来はその先にある。
ジョイランド。遊園地である。人生はジョイランドだ。だけどここは時に過酷な場所にもなる。そこで全力で楽しめ。最後まで諦めるな。