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映画・演劇のレビュー

又吉直直樹『劇場』

2018-04-27 23:01:37 | その他

『火花』に続く又吉直樹の第2作なのだが、前作の「漫才」に続いて今回はなんと【小劇場演劇】を取り上げた。余計なお世話だろうけど、こんなマイナーな題材で大丈夫か、心配する.お話は前作と同じパターンなのだが、背景が芝居となると、なんだか気恥ずかしい。自分が芝居をしているわけではないけど、芝居をしている人たちをよく知っているから、ついつい現実をスライドして見てしまう。あまりに身近すぎて、冷静に読めない。

 

大阪で小劇場の芝居を見て、嵌まって、東京に出て劇団を旗揚げするけど、上手くいかず、くすぶり続ける。支えてくれる彼女に完全に寄生してしまい、彼女を苦しめる。なんだかとんでもなく、いやな話なのだ。彼が芝居を通して何がしたいのか。それでも、芝居でなくてはならないと思う動機は何なのか。原動力となるものが見えてこないから、嘘くさい。

 

たった5人の劇団員が、3人辞めてしまい、ふたりになる。大阪からふたりで出てきて劇団を始めたのだから最初に戻っただけなのだが、小説はここからどういう展開を見せるのか、と期待するのだが、なぜか彼ら2人のお話にはならない。あくまでも主人公である男とその彼女のお話なのだ。そこが又吉にとっては新機軸なのだろうけど、そのせいで芝居の話としては中途半端になる。友情物語が前面に出たなら又二番煎じと言われそうでそこを避けたのか。でも、『火花』が漫才ならこれは小劇場演劇なのだ。そこをもっときちんと描かなくてはこの題材を取り上げた意味がないのではないか。芝居で食べていくのは困難だ。そんなこと誰だって知っている。なのに、芝居をやり続ける輩はいる。彼らが何を求め、なぜ芝居に拘るのか。そこに踏み込んで貰わなくては納得がいかない。

 

全体的に中途半端な仕上がりで、がっかりした。この暗さと重さは確かに又吉直樹の世界だと思う。2作品に共通するものは多いし、作品から確かに彼の個性は伝わる。でも、それだけでは納得はしない。

 

 


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