とんでもない女が主人公。オルガ・ヘプナロヴァー。チェコスロバキア最後の女性死刑囚として、23歳にして絞首刑に処された。彼女は1973年、プラハの中心地で路面電車を待つ群衆にトラックで突っ込み、8人を死亡させ12人が負傷するという事故を起こした犯人。なぜ、彼女がそんな狂気に至ったのか。
モノクロで、描かれる無口でクールな映画だ。いらぬ一切説明はしない。だが、映画はきちんと順を追ってオルガが犯行に至るまでの軌跡を丁寧に描く。
映画では彼女のアップが頻繁に挿入されていく。無表情で、無口。相手を拒絶して挑むような視線。だが自分からは何も語らない。反抗的な態度を示すわけではないが、誰をも受け入れない頑なさ。
さまざまな女性と(彼女は同性愛者だ)関係を持ち、相手を愛する。体での繋がりは持つ。だが、心を開くわけではない。酒とタバコに溺れる性的障害者。父からの虐待。学校での虐めもあった。だがそれが原因だというわけではない。彼女の内面は語られない。苦悩、疎外感。それらは秘められたまま、終盤の惨劇に至る。だが、あれもいきなりだ。追い詰められたらからの止むに止まれぬ行為、とは思えない。その時も相変わらずの無表情なまま、トラックで突っ込んでいく。
逮捕されてからの描写もあっさりしている。ただ、ラスト処刑直前の搬送では、さすがに取り乱す。唯一あそこだけは人間臭さを感じさせる。これはいったいなんだったのか。茫然とする。感情を露わにしなかったけど、死は耐えられないからか。そんなことではない気がする。ではなんだったのか。いろんなことが明確にはならない。だけど、どこか、納得している。