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映画・演劇のレビュー

かぶとむし団『かぶとむし』

2007-06-24 06:46:05 | 演劇
 アクスピと鉛乃文檎による共同ユニット。というか、「いっしょに芝居やらへん?」という軽いノリで始めた公演に見える。行き当たりばったりで、いいかげん。だけどそれが、ただの身内受けをねらっただけのものにはならないのが、いい。軽やかなフットワークと確かな技術で安心して見ていられる作品になった。

 全体は3部構成で、前半はアクスピによる『救世主伝説かぶとむし』。間に塚本さんによる紙芝居『かぶとむし団の冒険』(これが、呆れるほどしょーもなくて、笑える。公演の5日ほど前に急遽決まったらしい。《紙芝居》とは名ばかりの紙に字を書いただけのもので、しかも台本は覚えてないので横で読んでたりする。でも、これを塚本さんがするから許せるし、相変わらず面白い。インターミッションでしかないのだが、実はそれ以上にこの公演の姿勢を示す好編である。)が入り、後半は鉛乃文檎による『かぶとむしの日々』。

 アクスピは、40分程の作品のくせにとても大袈裟なオープニング。(と、エンディングも)スケールの大きい話を、思いっきりしょぼく見せる大作。こういうアホなアプローチは笑える。手を抜いているのではなく、この企画だからできることを楽しんでいる。こういう遊び心が大事なのだと思う。

 鉛乃文檎はいつもの武田操美さんの世界で安心して見れる。今回は<ひきこもり>をテーマにする。主人公にはNGRのめりさんを抜擢。本来なら自分がやりそうな役なのだが、彼女に振ることで、より自虐的な彩りを増幅する。めりさんが、実に怠惰で投げやりな女を見事に演じている。武田さんが演じたならどうしても愛嬌のある人物になり、この女の痛みが出なかったはずだ。カメラマンになるために東京に出てきたが、当然うまくいかない。いつの間にか、ひきこもり、ゲームに明け暮れ、その世界の中に生きがいを見出してしまう。もちろんこんな事でいいなんて思っていないが、どうしようもない。

 そんな女の日々を、いつものように、派手な衣装とおばかなアクションによる、ゲーム内の世界を見せると同時に、けだるい現実の時間と並行して見せていく。仕掛けは東京電力の爆破事故。この大事件を現実世界に起こすことで、彼女の不安を掻き立てる。この世界はいつ終わるかわからない。それなのに、何もせずだらだらと生きている。そんな、痛みがさらりと描かれる。劇中劇が派手で現実は地味、なんていうよくあるパターンから逸脱する事故のエピソードを、彼女のあずかり知らないところで描き不安を掻きたてるという劇構造は見事だ。

 これも40分ほどの小品だが、せっかくならこれを題材に長編として見せてもらいたかった。武田さんなら、充分このテーマで1本書けるはずだ。この芝居をこれだけで終わらせるのは勿体無い。ナマブンの最新長編作が「一刻も早く見たい」そんな気分にさせられる芝居だった。

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