習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

空晴『32年生の8時間目』

2012-03-31 22:36:31 | 演劇
岡部尚子さんはどんどん進化している。その事実を確かに実感させられる空晴の最新作である。今年結成5周年を迎え、これが第9回公演となる。三都市、23ステージのロングランというのも、すばらしい。最初に目指したビジョンからぶれることなく、着実に前進していく。しかも、牛歩の勢いで、である。マッハのスピードで走り抜けることは、簡単だ。でも、こんなにも、1歩1歩前進するのは、本当は難しい。彼女は、慌てない。ランニングシアター・ダッシュのころから、変わらない。大塚雅史さんのもとで、しっかり学んだことをもとに、自分のスタイルを作り上げ、それを実践していく。

 空晴の旗揚げ公演を見たとき、わざとらしい作劇ではないか、と思ったことを覚えている。最初の印象はあまりよくはない。こういうとってつけたようなホームコメディーは好きではない、とも思った。それはダッシュでの番外公演の時に感じたものと同じだった。これが岡部さんの好きなパターンなのは、わかるけど、作りすぎていて、嘘くさい、と感じた。数人の男女がひとつの場所に集まり、出入りしながらのドタバタ劇。基本は家を舞台にするホームドラマだ。だが、何度か見ていくうちに、この単純な図式が、ひとつのパターンとして定着していき、徐々に快感になりだした。しかも、少しずつ洗練され、ドラマの構造に則り安心して見ることが出来るし。さらには、「これって、山田洋次の『男はつらいよ』のパターンではないか。」とそんなふうに、思い始めた頃からだ。僕はもう彼女の作品世界の虜だ。

 今回は小学校が舞台になる。今までが寅さんなら今回は『学校』シリーズのような感じだ。(でも、「はっこき鍋」は今回もちゃんと出てくる!)タイトルの「32年生」とは、小学校の6年生から数えて今は32年生になった子供たちが主人公となるからだ。そして、「8時間目」も同じ理由で、6時間目の、後の後。放課後ではなく、あくまでも8時間目であるところが、いい。

 お話のほうはいつものように、ほのぼのとした、でも、ミステリアスな展開を見せる。小学校での同窓会の後片付けをする。みんなはもう2次会のほうに移動している。そこに遅れてやってきたかつてのクラスメート。だが、彼の名前が思い出せない。さらには、もうひとり遅れてきた女性。彼らが繰り広げるお話である。そこに病気で参加できないはずの担任の先生も、やってきて、20年前から続くあの頃の彼らの物語が描かれていく。忘れられない心の痛みを引きずる。でも、それが、思いがけないことで氷解する。

 とてもよく出来たお話だ。オチもいい。1時間半という上演時間も、適切だ。彼女の芝居はいつも80分前後に設定される。長くもなく、短くもない。奇抜な話に見せかけて、常識的なところにちゃんと落ち着く。その収め方も実に上手い。こんなにも、安心して楽しめる。今回の特別ゲストの泉敬子さんがとてもいい。彼らの担任の先生を、演じる。そこに彼女がいるだけで、なんだか暖かい気分にさせられる。さすがだ。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『アーティスト』 | トップ | 三崎亜記『決起! コロヨシ2』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。