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映画・演劇のレビュー

熊谷達也『ティーンズ・エッジ・ロックンロール』

2015-07-23 20:58:09 | その他
こういう青春小説を読みたかった。これは典型的なボーイ・ミーツ・ガールなのだが、彼らの関係性がとても素敵で、誰かと(もちろん一生を、ともに過ごしたいパートナーと)こんなふうに出逢えたら、どれほど幸せか、とため息が出るほど。

高校二年生の男の子。バンドをやっていたけど、メンバーが脱退してひとりぼっちになる。いまさらだけど高校の軽音部に顔を出すと、そこで凄い美少女と出逢う。なんてベタな展開。しかし、それがこんなにも心地よいのは、彼らの付き合い方だ。先輩(彼女)と後輩(僕)。でも、その距離が少しずつ近付いて行く。彼女を通して、自分の世界がどんどん広がっていく。世界はこんなにも広いと知る。やがてあの震災が起こることが、わかっている。2010年の春から、2011年の3月に至る高校2年から3年になるまでの1年間。宮城県の、とある町(気仙沼市をモデルにした仙河海(せんが うみ)市なのだが)。そこに初めてのライブハウスを作る。そんな自分たちのささやかな、でも、とても大きな(だって彼らはまだ高校生なのだ)夢に向かって、全力で生きた時間が描かれる。

自分たちに何ができるのか。何がしたいと望むのか。小さな自分の存在をちゃんと認識して、だからこそ、自分に可能な限りのことに挑んでいく。夢というのは、願うだけでは実現しない。叶えるために、努力する。そんな当たり前のことをこの小説は教えてくれる。3・11というどうしようもない悲劇に向かって時間は突き進む。しかし、彼らには、そんなこと知ったことではない。

ラストで彼らは震災とどう向き合うのか、ドキドキしながら、最後の6ページを読む。あまりに穏やかな終わり方に感動を新たにした。作者がこの作品に込めた想いがしっかりと伝わるからだ。

       だから何? また最初から始めればいいだけじゃん。

その一言で号泣した。何があろうと、負けない。それだけのことを彼らは学んだのだ。少年は少女と出会い、彼女に気に入られるような男になるため全力で自分を磨く。そうすることで、少女もまた自分を成長させていく。子供だから、なんて誰にも言わさない。そのへんの大人たちよりもずっと彼らのほうが立派だ。


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