シドニ・ルメット84歳の新作である。『12人の怒れる男たち』でデビューし、社会派映画で鳴らした巨匠は老いてなお盛んだ。今でもまだ若々しい映画を作る。実験精神も旺盛で、今回のスタイルにもうならされる。フラッシュバックで、時間は前後していき、その度、彼らの関係性が明確になり、さらにはそこから事件の顛末も見えてくる。繰り返しが効果的で、同じ描写がよりスリリングになる。そして、そこからこの小さな宝石強盗事件を通して、彼ら家族の事情が見える。兄と弟。彼らの父親。3者の問題が周囲の人々との関係のなかでクリアになっていく。
上手い映画である。だが、頭の中で作っただけ、という印象を残す。きちんとした映画だが、あたりまえすぎて後に残らない。完全犯罪のはずが、綻びが出来てそれをどうしようもなくなる。兄と弟の確執もよくあるパターン。行儀よく、きちんとまとめた映画だが、これでは、今時の行儀の悪い映画を見慣れた観客には物足りないのではないか。
昔、『セルピコ』や『オリエント急行殺人事件』を見た時は、とても面白いと思った。社会派から、娯楽大作まで、自由自在のフットワークが素晴らしかった。特に彼の最高傑作『狼たちの午後』を見た時は感動で震えた。まだ、10代の高校生だった、ということを差し引いてもあれは素晴らしかった。映画であることの感動があそこには確かにあったのだ。
彼が変わったのではない。それどころか彼はまるで変わらない。今もこんなに力強い映画を作る。なのに、時代が変わってしまった。彼の良心的な映画はもう受け入れられない。この映画を見ていて、映画後半の主人公となる兄弟の父親であるアルバート・フィニーがなんだかルメット自身に見えてきた。
上手い映画である。だが、頭の中で作っただけ、という印象を残す。きちんとした映画だが、あたりまえすぎて後に残らない。完全犯罪のはずが、綻びが出来てそれをどうしようもなくなる。兄と弟の確執もよくあるパターン。行儀よく、きちんとまとめた映画だが、これでは、今時の行儀の悪い映画を見慣れた観客には物足りないのではないか。
昔、『セルピコ』や『オリエント急行殺人事件』を見た時は、とても面白いと思った。社会派から、娯楽大作まで、自由自在のフットワークが素晴らしかった。特に彼の最高傑作『狼たちの午後』を見た時は感動で震えた。まだ、10代の高校生だった、ということを差し引いてもあれは素晴らしかった。映画であることの感動があそこには確かにあったのだ。
彼が変わったのではない。それどころか彼はまるで変わらない。今もこんなに力強い映画を作る。なのに、時代が変わってしまった。彼の良心的な映画はもう受け入れられない。この映画を見ていて、映画後半の主人公となる兄弟の父親であるアルバート・フィニーがなんだかルメット自身に見えてきた。