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映画・演劇のレビュー

『ミヒャエル』

2013-05-12 20:55:49 | 映画
こんな変態的な映画を撮るのは、ミヒャエル・ハネケ作品でキャスティングディレクターを務めたマルクス・シュライツァーという人だ。こんな恐ろしい映画を、こんなにもさらっと作る。まぁ、これを猟奇的に作ると、ただのキワモノ映画になる。

 主人公の名前がミヒャエルなのでこのタイトルなのだが、偶々なのだろうが、わざわざこんなところにハネケの名前を取らなくてもいいじゃないか、と思う。(主人公の少年を演じた子役の名前もミヒャエルだが)

 映画のタッチはハネケととてもよく似ている。淡々としたタッチでこの異常者の日常を描いていく。猟奇的には描かない。ただの普通の勤め人。無口でなんか地味だが、人付き合いは決して悪くはない。しかも職場では有能。でも、小心な普通の人。だが彼は自宅の地下室に誘拐した10歳の少年を監禁している小児性愛者なのだ。

 子どもは彼に従順。でも、それはそんな風にしなくては、生きれなかったからだろう。彼がここに連れてこられてここに監禁され、今日まで、どう過ごしたかは一切描かれないし、語られない。映画が始まった時間から彼の犯罪が明るみに出るまでが描かれる。少年が抵抗しないのは描かれない時間で、そういう行為は既に終わっているからだろう。必要以上のことは一切描かない。

 この映画はとんでもなく無口だ。彼を断罪するのではない。ただ、ありのままに見せるだけだ。だからこそ、怖い。こんな人間が僕等の生きるこの世界にひっそりと、何食わぬ顔で暮らしているのかと思うと、それだけで震えあがる。この男ののっぺりとした存在が、なんだかとてもリアルなのだ。映画はまるでドキュメンタリーのようにこの2人の生活を描く。その姿勢は最後まで崩さない。


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