これは楽しい。こんなライトノベルを読みたかった。文学を題材にしながら、ここまで軽くて楽しい。文豪たちの傑作を使って寅さんのような恋をする。しかも『ベルリン 天使の詩』のような設定だ。なんだかあり得ないけど,あり得た。もちろん軽いタッチ(ライトノベルですからね)で、なんとSF風味付け。(時をかける、ですから)取り上げた作品もあまりにポピュラーで、笑える。最初は漱石の『こころ』。最後は梶井基次郎は『檸檬』。ふたつとも教科書の定番だから,誰でも知っているはず。
ということで、まず『こころ』から。ワンエピソードが100ページほどでそれなりに分量はあるから読み応えもある。ただ、あまりに定番展開でまるで意外性はなく、さっそく2話目『春琴抄』でもう飽きてきた。残念だが企画倒れだ。ディテールが生きないからダメみたい。お話のキレも甘い。100ページが仇になる。約束事も煩雑なただの段取りになり、設定を生かしきれない。
同じくらいに企画倒れの一冊、吉田しく『思い出読みの憶絵さん』を同時に読んだ。若い作家(たぶん)のデビュー作。(2016作だからもう8年前だけど)こちらも設定を生かしきれていない。しかも中途半端なまま終わる。長編小説の第1章だけを読んだ気分。だからといって先を読みたいとは思えない。古物商で働く青年が主人公。高校の同級生の女の子、憶絵さんが同じ店で働いている。(この設定からしてあり得ないけど)彼女は物の思い出が見えてくる。これがメインの設定。ここから妖怪とか、あまりに安易な設定が続く。だから一応ファンタジー小説なのだが、お話を展開する力がない。
この作品よりはましだけど、『コイモドリ』も同じタイプ。設定からの展開がないから予定調和で終わる。今までこの手の作品はあまり読んだことがなかったけど、今回たまたま同時に2冊を並行して読んで、少しガッカリした。残念だ。新しい発見を期待したのに、これではせっかくの面白そうな設定がもったいない。
次は今年の芥川賞を読もうと思う。もちろんあまり期待していない。