この圧倒的な劇世界をそのまま、受け止めよう。盗賊団たちの野卑な世界に迷い込んだ女は、自分の価値観をそこに持ち込み、頑なに心を閉ざす。しかし、火男はそんな彼女をそのまま受け止め、愛す。だが、彼のそんな優しさは彼女には伝わらず、彼は死んでいくことになる。
この悲劇を「バカな男の愚かな行為」と受け止めるのは簡単だ。だが、そんな理屈を越えたモノがここにはある。不条理ともいえる物語をそのまま受け止め、そこに理由とか、理屈とかを介在させず、彼ら(火男だけではない)の不器用な生き様を、そのままに受け入れること。そうするとそこから見えてくるものがある。
キンラン・エンゲキ3度目の『火男の火』である。僕は20年前の作品も、2度目の再演も見ているから、これで3度目になるのだが、話は十分に知っているはずなのに、まるで初めて見るように「なんなんだ、これは!」と、この理不尽さに唖然としている。何度見ても、ここにはそんな新鮮な驚きがある。
山本篤先生は、新チームとなった金蘭演劇部とともに、全く新しい『火男の火』を作り上げた。それは彼女たちのスローガンである「pawer & passion」に充ち満ちた劇世界である。混沌とした時代のなかで何を信じたらいいのかわからないまま、それでも、自分を信じて生きていこうとする、この芝居の彼ら(彼女ら)の姿は、僕たちを感動させる。理屈ではなく、本能でこの劇を受け止めるといい。