これはデイケアサービス施設を描くドキュメンタリー映画なのだが、そこはなんと船の上。セーヌ川に浮かぶ「アダマン」という名の木造建築の船が、デイケアセンターなのである。驚きだ。精神疾患を患う人たちを無料で受け入れている。
ここに集まってくる人たちと施設の職員たちとの交流が描かれる。朝、職員がやって来て船のすべての窓が一斉に開くシーンから始まる。そして同じように窓を閉めていくまで。ここでの日々のスケッチを、たくさんのスタッフ、受容者へのインタビューで綴る。地味な映画だ。
なのに、なんとこの映画がベルリン映画祭で、数ある劇映画を差し置いて金熊賞を受賞した。どんな凄い映画なんだと過大な期待をして、見たのだけど、普通にいい映画だった。ここには特別なことはない。どうしてこの映画が、と思うくらいに地味な映画だった。そして、だからこそ、これはいい映画だった。
精神疾患を持つから、ではなく、普通に生きる人たちがそこにはいる。彼らは特別ではない。普通の人だ。そして、それだけが実は大事なことではないか。当たり前を丁寧に描いている。監督は『ぼくの好きな先生』のニコラ・ファリベール。さらりと優しい眼差し。
ここに通う患者たちは治療のためだけではなく、絵画、音楽、ダンスなど、楽しみのためにやってくる。ここで生きがいを見つける。スタッフ、患者、それ以外の一般の人たちもここを訪れる。彼らが孤立することなく社会とつながり、毎日を楽しむ。そんなデイケアセンターがフランスにはある。それだけをしっかり伝える。そんな映画だった。