この真摯な作品をしっかりと受け止めよう。今、学校の授業で、茨木のり子の詩、『わたしが一番きれいだったとき』を読んでいる。高校生の彼らとともに、空襲の日々、戦時下、戦後の時間を体験することで、10代の少女が、あの時代を生きることの痛みを自分たちのこととして、受け止めてもらうことが、目的だ。でも、それって僕だって、自分で体験したわけでもない時代の話だ。生半可な知識を受け売りしたくはないから、テキスト . . . 本文を読む
軽い小説だ。いかにも奥田英朗らしい。どこまで本気でどこから冗談なのか、わからないところが魅力の『空中ブランコ』と同じくらいのテイストだ。だが、これはちゃんと青春小説として成立している。21歳のチンピラ(一応ヤクザだが)である純平が新宿歌舞伎町で生きる姿を、敵対するヤクザの幹部のタマを取りにいくまでの3日間を通して描く。
ネットの掲示板に書かれる純平への様々な無責任な書き込み。暇な人間がこの世 . . . 本文を読む
忘れられないことがある。ある悲惨な事件のことだ。弁護士事務所を引退した男が、心に深い傷あとを遺すあの出来事を、もう一度振り返る。あれからもう何十年も経つのに、どうしても忘れられない。あの事件を題材にして小説を書こうとする。当時のことを確認するため、関係者のもとに行き、取材する。かつての職場である弁護士事務所を訪れる。そこにはあの事件を担当した女性弁護士が今もいる。彼の上司であった彼女への想いが甦 . . . 本文を読む
『Xメン』シリーズの最新作だ。アメリカ映画は飽きることなくこの手のヒーローもののコミックを映画化し続ける。その中からは時々はっとさせられるようなものも登場するが、大多数はゴミだ。今回、前作『ウルヴァリン』で気を吐いたこのシリーズが再びスピンオフ企画に挑む。これはXメン誕生秘話とでもいうべき1編だ。監督は自主制作の低予算映画『キックアス』でこのジャンルに新境地を開いたと言われるマシュー・ヴォーン。 . . . 本文を読む
昨年初めて彼女たちの芝居を見たときは、とてもびっくりした。こういう芝居があることは、想像できたし、知り合いが出ているものでなら、この手の芝居を何本か見たこともある。しかし、全く知らない人たちの集団によるこの手の作品を見るのは初めてだったので、免疫がなくて、最初はかなり困惑した。当然2幕構成の2時間以上の大作で、歌って踊って、みんな女性で、もちろん女性が男役をする宝塚スタイルで、前回はオスカー・ワ . . . 本文を読む
別役実の不条理劇を「劇団きづがわ」が作ると、なんだかとてもわかりやすいコメディーになってしまう。こんなにも、口当たりのいい別役作品なんて、今まで見たことがない。もちろん台本を改編しているわけではないから、演じる彼らのやりとり自体は、やはり不条理なのだが、それをきづがわの役者たちが演じると、ちゃんと理に落ちるように見せてくれることになる。納得のいかない展開は笑いに変えてくれるから、さらりと流して見 . . . 本文を読む
とても暑苦しい芝居だ。今時こういう芝居は流行らない。だが、芝居は流行り廃りでするのではない。自分たちの目指すものをひたむきに追求していけばいい。たとえそれがたくさんの人たちの支持を受けなくともかまわない。妥協することなく、臆することもなく、自分の信じた道を愚直なまでに邁進すればいい。
この芝居を見ていて気持ちがいいのは、先にも書いたように、作り手の側にはためらいも迷いもないからだ。面白いもの . . . 本文を読む
34,5歳の女性を主人公にする。彼女はもう若くはない。しかも毎日に疲れている。仕事に情熱を傾けるでもないし、恋をするでもない。一人暮らしの生活は快適なのかもしれないが、なんだか寂しい。妹が時々来る。それすら自分の生活を掻き乱す気がして、好きではない。そんな毎日である。じゃ、なんのために生きているのだろうか。生き甲斐のようなものもない。ただ、時を過ごしているだけ、に見える。
この映画はそんな彼 . . . 本文を読む
4話からなるオムニバス・スタイル。いずれも家族を巡る物語だが、ふつうの意味での家族とはちょっと違う。彼らは偽家族だったり、崩壊したあとの家族だったりもする。だけど、そこから垣間見えてくるものは、本当の家族以上の深い絆で結ばれたほんもののあるべき家族の姿だ。血のつながりなんかよりも、もっと大事なものがそこにはある。それは、そこが人間にとって一番大事な「帰るべき場所」である、ということだ。
それ . . . 本文を読む
久々に映画を見て、ワクワクドキドキした。まるで少年のように無邪気に映画の世界に溶け込んだ。まぁ正直言うと、そこまではのめり込めなかったのだが、ちょっと無理してでも、この世界を受け入れたくなったのだ。スピルバーグだって、もう子どもではないから、この手の映画を無邪気に作れるわけではない。だが、この気持ちを忘れてしまうくらいなら、もう映画なんかやめてしまう方がいい。そんなこと、誰よりも彼自身がよく知っ . . . 本文を読む
前作以上に心に沁みた。気持ちが弱っているとき、こういう小説はうれしい。『5年3組リョウタ組』もそうだったが、今度も小説からたくさん元気をもらった。
僕は医者と教師が主人公の小説や映画に弱い。この2つの仕事はとてもよく似ている気がする。どちらも無力である、という点が、である。もちろん医者は患者の治療を通してみんなから尊敬される仕事だ。それに対して、教師は生徒にいろんなことを教えてみんなを成長さ . . . 本文を読む
日本の7人の脚本家が書いた台本を韓国のスタッフ、キャストによりドラマ化(映画化)するテレシネマ7という企画の1本。北川悦吏子の台本はまるで少女マンガのような話だが、それをイ・ヒョンミン監督は、そのままパステルカラーで作り上げた。とても気持ちのいい1編。
もちろんそんなたいした映画ではない。嘘くさい話だし、イメージだけで、全体を構成しているから、説得力もない。だけど、ヒロインを演じたハン・ヒョ . . . 本文を読む
夢の中の夢の中の夢に入り込む。この4重構造によるラスト1時間に及ぶクライマックスは圧巻である。しかし、いかんせん1時間は長すぎる。最初の現実の6倍の時間が夢の中の時間で、その更に6倍がその内側の夢の時間だから、6×6倍ってことなのか? まぁ、ともかく夢の中の10秒が、もの凄い長さになるということだ。そこに生じる複雑な構造がこの映画自体をおもしろくすると同時に退屈にもしてしまう。これは両刃の剣だ。 . . . 本文を読む
このアニメーション映画が描くものは、本来なら、手塚治虫の描いたマンガの世界のはずだ。だから、タイトルも『手塚治虫のブッダ』とある。なのに、ここには手塚治虫の描こうとした世界がまるで感じられない。こんなにも手塚臭のしない映画になっていいのだろうか。
子供の頃ワクワクしながら、読んだ。中学、高校時代の頃に手塚治虫をむさぼるようにして読んだことが、今の僕たちの精神形成の大きな部分を担っていると言っ . . . 本文を読む
一番見たかった映画だ。制作が決まったときから、こんなにも待ち遠しいと思った映画は近年ない。原作は、川本さん自身が、封印してきた体験を綴った記録だ。朝日ジャーナルの記者として、ある過激派学生と接したことで、関わることになった事件を描く。評論家としての川本さんの大ファンだった僕にとって、あの本が描く川本さんの暗い影は衝撃的だった。70年代の川本さんの文章の背後にはこういう気分はあったのだ。出版された . . . 本文を読む