そこへ通っていたのは、もう何年も前のことだがその香りはまだ思い出せる。
柏駅に丸井新館がある。その先へ行くとマクドナルドがある。その隣はコロラドという喫茶店だ。銀行の用事を済ませて、この界隈へ足を向けるとマクドナルドのポテトフライと喫茶店のコーヒーの香りをおしのけてカレーの良い香りがする。柏の名店「ボンベイ」のカレーの香りだ。ここのカレーを知ってしまった者にとっては、ポテトフライやコーヒーの香りを排除してこのカレーの香りを嗅ぎ分けるものだ。「銀行の用事も済んだしカレーを食べていくか」もう、この方面に足を向けた時から決めていたのに、カレーのよい香りがしたからと自分に言い訳をして寄り道する。
昼も3時近くなると行列もなくなって、すんなり店内に入れる確立は高い。その時間は男ひとりのお客が多い。高めのイスのカウンターにぎっしりと詰め込まれて、みんな黙々と食べている。食べ終えたらすぐに帰る客には、マスターが何かしら声を掛けてくれる。たわいのない話題である。食べ終わってもカウンターにねばってマスターと会話したがっている客も多い。僕は、寄り道しているのだから、さっさと帰る口だ。マスターに声を掛けられる「お店の景気はどうですか、うちはこのところヒマでね」疲れた顔に見えるマスターにはヒマにさせてあげたいと思ってしまうものだった。
そのボンベイのマスターが亡くなったと聞いた。心からご冥福をお祈りしたい。ボンベイのマスターが作ったカレーの味と、マスターの人柄はたくさんの人を魅了している。