ザ・クアトロ

クアトロの父のたわごと

桜の花のむこうで

2010年03月05日 | パスタの話

PhotoPhoto_3 クアトロのカウンターに置かれた盆栽のような桜の木がある。暖房の効いた室内でこの桜の木には花が二輪ほどすでに開いている。
桜の花に気を取られていると厨房からはパチパチパチとなにかがはじける威勢の良い音がする。
ペスカトーレの調理が始まっていたのだ。
多めに使ったオリーブオイルに唐辛子が泳いでいるように見える。
すでにオイルは熱せられている。
そこへアサリ、ムール貝、ホタテの稚貝、ヤリイカ、ホタテ、エビ、カニツメ、魚の切り身が次々と投入される。
ブラックオリーブとアンチョビもいつのまにか加わっている。
そしてそれらは強火で炒められ、先ほどからパチパチパチと音をたてていた。
特にアサリたち貝類がオイルに熱せられて大きな音を立てているようだ。
そこへ白ワインも威勢良く加わり、それぞれの魚貝からしぶきがあがるように旨味を発散している。
魚貝たちのざわめきが収まらないうちに、これまた大量のトマトソースが加えられる。
まだ火力は強いままだ。
中心に魚貝があり、そのまわりをトマトソースが囲み、さらにその外郭をオリーブオイルがブツブツと煮えたぎる。
しばらくは、その三層構造を維持している。
スパゲッティがアルデンテに茹であがると、三層構造もいつのまにかひとつにまとまり、それぞれの素材の旨味がトマトソースの中で渾然一体となっている。
そのソースがスパゲッティ一本一本に絡みついていく。
出来上がったペスカトーレがお皿に盛りつけられ、お客様の前に登場するとたいがい歓声が上がる。
それからは、お客様は無言の修行に入ったようにペスカトーレを堪能することに専念する。
この海老が美味しいとかアサリが美味しいとか、そういう表現は似合わないパスタがクアトロのペスカトーレだろう。
それぞれの旨味が総合されて、ペスカトーレという味わいを作っているように思える。
桜の花の向こうで作っていた鍋の中で何かテクニックがあったのだろう。
火力の使い方がひとつのポイントだと話すクアトロのシェフである。

コメント (1)
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