○サモスード指揮ソヴィエト国立放送交響楽団(melodiya)LP
音色変化は少ないが音量や技巧的な変化はばっちり。それほど踏み外した発声もなく、技巧だけでいってもロシアの標準的なレベルには十二分に達している。いきなり唐突に雪崩れ込む始まり方には抵抗を感じるかもしれない。スノブ様の中にはいちいちザッツが揃わず表現の粗さが聞くに堪えないと一蹴する向きも多いと思うが、こんなの録音条件次第だ。マイクセッティングや会場設定でこのくらいのザッツの揃わなさは十分吸収されるものであり、通常客席の人の耳には届かない。その点一本マイクが固定的で弦楽に近くリアルに捉えられすぎているのである。ベルリン・フィルなりN響なり、ソリストでない弦楽器奏者の演奏を間近で聴いてみ。少なくとも20年近く前までは、お上品な人にはとても聴くに耐えないであろう雑味の多さだった。雑味を取り除くのは「会場の役目」でもある。雑味は強靭でしなやかな生命力を生み出すうえで飛び散ってしまう埃のようなもの、音響的にうまく操作すれば・・・たいていのホールでは普通に何もしなくても・・・弓の弦にぶつかる音とか指盤の軋みとか野太い音に弾かれたギリギリガツンガツンいう雑音なんて壁や天井に吸収されてしまう。そういう音を出さないと、アンプなんてものを使わないアコースティック楽器では表現できないものってのがあるのだ。大抵の曲には一,二箇所いやもっとそういう個所がある。弱弱しい音で綺麗に聞きたい耳のヤワな人は自分でそういう演奏をしてみ。人を集められたらの話だが。ちなみに、私はかつてそういうスタンスで結局ソロしかないという結論に達し、ソロとしては余りに下手すぎるので断念し聴く専門の側に回りました。