◎バーンスタイン指揮VPO(DA:CD-R)1971/5/9live
すごい。前半楽章の音質はアナログステレオ録音としては最高のレベルである。後半なぜか篭りピッチも下がりいつものエアチェック音質に戻るがそれでも美しい。これは程よいホール残響のためだ。舞台から離れた客席という位置でミキシングされて聞こえるそのままの形でしっかり収録できている。細かい瑕疵などほんらいホールが吸収するもので、とくにウィーンやベルリンのオケはそれをある程度想定して多少の雑味を表現力のための必要悪として出しているものである。正しい聴取方法を録音によって示してくれているのが有効にきこえる、エアチェック海賊盤としては稀有のものだろう。いや、VPOの精度も並ではない。バンスタの統制はここまで隅々まで行き届き、ここまでピリピリ緊張感があったのか、と叱驚する。ビデオではマイクが近く音だけだとかなりきつい生々しさ、デッドな感じがあるが、これには皆無である。
そしてやはりバンスタがとてもいい。過渡期というより、長らくタッグを組んできたNYPとの定期公演的マーラーから、VPO果てはBPOほかでどんどんディープなマーラーを追求していった晩年期のあいだにあたるこの時期こそ、バンスタのマーラーは汎世界的な表現を獲得していたのだと思う。即物的前進性と情緒的ルバートの最高にバランスがよい。ルバートも完全に制御がきいているからグダグダ感はゼロ。マーラー自らになりきったような解釈は、この時点では「マーラーを越えてマーラーにならんとする」ことがない。やりすぎがないのだ。怒れる足踏み(耽溺する鼻歌ではない!)くらいである。NYP時代に持ち味としていた力強い前進性は1楽章のみならず全楽章において保たれ、4楽章に一箇所非常に気になるソロミスがあるほかは極めてアンサンブル的なまとまりが保たれ非常に高精度にきこえ、ユニテルの映像音楽でもなかったような、まるでVPOでないかのような「大人の音」で、雄渾でかつ壮大な世界が、絶妙の手綱さばきに乗っかって開けていく。精度とひきかえに音色の個性的な艶が低いピッチ以外が失われているが、これは録音のせいだろう。それがゆえにまるでBBCSOとかSWRSOのような鋭い表現が「グダグダバンスタVPO」のイメージを完全に覆す。多分録音がちゃんとしたホール録音機材でおこなわれ、恐らくは市販されることを念頭にちゃんとなされていたのだろうということは想像つくが(じっさいここまでの名演なだけに既出でないのか?日付だと違うようにも見えるが検証する気ゼロ)復刻されてないならぜひ正規化すべきである。最後まで鋭く細い響きを保ち耽溺に流されないでいながらも、常にフレージング指示の見事さはバンスタの作曲家としての感性がマーラーとシンクロして一体化したころの、まさに空前絶後の、慟哭ではなく、美しく、仄かな哀しみを載せた世界である。ワルターの解釈の延長上にあるような結部の消え入るような音、ここにも注意深いテンポルバートが指示され、きちんと表現されている。しばしの沈黙の後拍手が入るがすぐカットされている。惜しむらくは後半楽章の媒体撚れ、でも◎。