僕は、広告代理店勤務のグラフィックデザイナーだ。
そんな職種だからか、個人的にもよく知人から依頼される。
例えば・・・
「うちの年賀状のデザイン、考えて~

」とか、
「地域で使うポスターのデザイン、やって~

」とか、
「参加しているサークルの会報の表紙のデザイン、考えて~

」・・・etc.
その度に“まぁ、仕方ないか・・・ (^_^;)”と、ちょこちょこっと、創ってあげていた。
依頼してくる人たちは、普段お世話になっていたり、仲よくしてくれている人たち
だし、何よりも、僕がこういう仕事をしているからこそ、僕の元にお願いに来るわけで。
それは大げさかもしれないけど、僕がこの世に存在していることを肯定してくれている
ことと同等の意味だと僕は思っていた。
だから、むしろ喜んで創っていた感がある。
もちろん、ノーギャラで。
「お前、アホか」
その話をしたら、たったひと言、そう言われた。
もう1年以上前の話。
場所はとある小料理屋のカウンター。
ビールを挟んで並んで座っているのは、高校時代の同級生。
今は、親の跡を継いで水道会社の二代目社長としてがんばっている。
「お前、毎日仕事で広告のデザインをしてるんだろ?それで飯を食ってるんだろ?
それを知り合いだからってノーギャラでやって、どうするんだよ

」
同級生は吐き捨てるようにそう言うと、ビールを飲み干した。
「俺、お前に“代金はいいから

”って言ったことがあるか?」
自分でビールをグラスに注ぎながら、同級生は続けた。
「風呂や脱衣場のリフォームした時、・・・まぁ、同級生だから格安にしたけど、
それでも、ちゃんとお前にお金を請求しただろ」
今の家を購入した時、僕はこの同級生に水まわりのリフォームを依頼した。
その時の話だ。
「それにパイプのつまりで俺を呼んだ時も、人件費はサービスしたけど、
パイプ代の2000円は貰っただろ?」
僕は、無言で頷いた。
「それは、俺がプロだからだよ」
同級生は、そう言ってビールを口にした。
「お前も、俺が水道のプロだから俺に依頼したんだろ?」
その通りだ。
「だったら、それにちゃんと応えないとな。応えたら、友達といえども
その対価は少しであっても貰わなきゃ。もう、俺ら、大人なんだからな」
まったく反論できなかった。
僕の行為を正当化させるには、あまりにも寸分の隙もない、完璧な論理だった。
同級生は、2杯目のビールを飲み干すと、僕に向かってこう訊いてきた。
「お前、プロだろ?」
一昨日、旧友から電話があった。
同じ高校と大学に通い、大学時代は同じアパートに暮らしていた親友だ。
大学卒業後、インテリアメーカーに就職し、18年間、営業マンひと筋の男だ。
そんな旧友から、販売促進用のポップの制作を依頼された。
簡単な仕事だった。
依頼を受けて、パソコンを起動させ、10分足らずで済ませた。
旧友から依頼があった時、上述のような水道会社の同級生との経緯があったので、
正直言って、最初は少し戸惑った。
簡単な“作業”だけど、ギャラを請求すべきだろうか?
しかし結局、僕はノーギャラで受けた。
でも、仕方なく・・・ではない。
その旧友からは、よほどのことがない限り、ギャラを貰いたくないからだ。
別に彼に大きな借りがあるわけではない。
そしてジャイアンのように傍若無人ないじめっ子だったからでもない(笑)
上述したように、彼とは若い頃、学び舎も寝床も共にした仲だった。
だから19、20歳の頃から、僕が広告業界で働きたがっていたことを旧友は知っていた。
コピーライターやデザイナーを中心とした、クリエイティブな仕事を僕が渇望していた
ことを、誰よりもよく知っていたのだ。
もちろん、当時の僕には何もなかった。
スキルもキャリアもネットワークも、何もかも・・・・。
それでも、その旧友は、ハッキリとは口にしなかったが、僕の夢やビジョンを
肯定してくれていた。
陳腐な表現だが・・・あの頃は、夢しかなかったのだ。
そんな、お互いの人生の底辺の頃を知っている相手から、僕はギャラを請求するような
マネは、やっぱりできない。
でも、水道会社の同級生の言葉で目が覚めたのも事実だ。
今回の旧友の一件は、いわば、超法規的措置である(笑)
これからは、基本的にノーギャラでデザインの依頼は受けない。
有償か、もしくは会社を通して正式な仕事としてやらしてもらう。
添付の写真は、数年前に広島経済同友会主催の「広島観光ポスター」のコンクールに
出品して、特別賞を受賞した作品。
オリンピックでいえば、銅メダルだ

会社としてではなく、りきる個人として出品したのにもかかわらず、超一流の某大手
広告代理店や地元の有力広告デザイン事務所と同じ土俵で勝負して、受賞した。
今のところ、僕にとっては、このデザインコンテストでの受賞が最高レベルである。
自分でいうのもなんだけど、僕はそういう人間なのだ。
もっと、自分の仕事やスキルやキャリアに、僕は誇りとプライドを持った方が
いいのかもしれない。
でなければ、このコンクールで僕の作品を選んでくれた方々、そして落選した方々、
何よりも、今まで僕のデザインを採用してくださったお客様たちに失礼極まりない。
情けないけど、遅ばせながら、今ごろになってそんなことに気づいた。
バカだよなぁ・・・ (-_-;)