希望ヶ丘青春高校有頂天演劇部の鉄火場⑦
一掛け二掛け三掛けて……①
一かけ 二かけて 三かけて
四かけ 五かけて 六かけて
橋の欄干(らんかん) 腰かけて
遥か向うを 眺むれば
十七八の 小娘(こむすめ)が
片手に花持ち 線香(せんこ) 持ち
お前はどこかと 問うたれば
わたしゃ九州 鹿児島の
西郷の娘に ございます
明治十年 戦争に
討死なされた 西郷さん
お墓参りも せにゃならぬ
このわらべ歌ご存じでしょうか。ご存じで「セッセーノヨイヨイヨイ」の掛け声で手遊びができる人は、まあ、還暦を超えた……そう、関東、山陰、南九州あたりでしょうか。
あたしは、これが出来ます。102歳になるひい祖母ちゃんに教えてもらった……というより、お相手をさせられているうちに覚えてしまったようなわけです。
むろん子どもの頃です。
手遊びなんて、今の子どもはしないでしょう。子どもの手遊び……スマホかゲームを連想するのが並の神経なんでしょうね。
でも、あたしは好きなんです。
演劇部なんてオタク部活に入った最大の理由は、演劇部のみんなができたからです。実に変なクラブです。
どこから話そう……あたし西郷さんが好きなんです。西郷さんて写真が一枚もないんです。みんな上野の山の銅像を西郷さんと思っているようですが、除幕式の時、奥さんが言いました。
「宿んしはこげんなお人じゃなかったこてえ」
でも、上野の西郷さんは、あそこに百年以上も立っているんです。あたしの西郷さんは、あの西郷さんです。
右足がわずかに短いので、五ミリほどの銅版をかましてあります。それから連れている犬の名前は「ツン」と言います。薩摩犬はもっと小さいのですが、少し大きめに作ってあります。表情、体格、ちょっと右足を踏み出したところなど、絶妙なフォルムです。
役者で、このフォルムがとれる人はいません。姿勢がとても自然で、演劇のことばでは「ぶら上がった姿」と言います。平たく言えば、その人が一番その人らしく力を抜いて立ち上がった姿とでもいいましょうか。
ぶら上がっているのに山のように静かで大きな人格を感じさせます。
みなさん西郷さんの名前は「隆盛」だと思っていますよね。本当は「隆永」っていうんです。
明治になって国民全員の戸籍を作ることになったとき、西郷さんは無頓着な人で「おはん、ついでにおいのもやってたもんせ」ということで代理に友人をたてました。
「西郷様の忌み名は、なんと申される」
江戸出身の役人が聞きます。西郷さんは日常は「吉之助」で、周囲からは「せごどん」や「吉之助さー」と呼ばれていました。
で、友だちは忌み名が思い出せず、とっさに出たのが「隆盛」でした。
「そりゃあ、おはんジ様(祖父)ん忌み名じゃが。ガハハハハ」
で、特に訂正もせずに通してしまいました。
弟さんを西郷従道といいますが、これも間違いです。ほんとうは「隆道」と言います。ところが薩摩弁は江戸の人間には分かりにくく、何度も聞きなおされ、音読みで「リュウドウじゃ!」と言いました。江戸の役人は「ああ、ジュウドウでござるな。ならば従道でしょう」と一人合点に決めてしまいました。いいかげんくたびれた友人は訂正もせずに西郷兄弟のところにもどってきました。
あたしは、こういう薩摩人が好きです。また、こういう西郷さんのような人物を演じられる役者がいないことが残念です。
ほんとは、この手遊び歌について語りたかったんですが、長くなるので次にします。
演技組 筧 十世(かけい とよ)
一掛け二掛け三掛けて……①
一かけ 二かけて 三かけて
四かけ 五かけて 六かけて
橋の欄干(らんかん) 腰かけて
遥か向うを 眺むれば
十七八の 小娘(こむすめ)が
片手に花持ち 線香(せんこ) 持ち
お前はどこかと 問うたれば
わたしゃ九州 鹿児島の
西郷の娘に ございます
明治十年 戦争に
討死なされた 西郷さん
お墓参りも せにゃならぬ
このわらべ歌ご存じでしょうか。ご存じで「セッセーノヨイヨイヨイ」の掛け声で手遊びができる人は、まあ、還暦を超えた……そう、関東、山陰、南九州あたりでしょうか。
あたしは、これが出来ます。102歳になるひい祖母ちゃんに教えてもらった……というより、お相手をさせられているうちに覚えてしまったようなわけです。
むろん子どもの頃です。
手遊びなんて、今の子どもはしないでしょう。子どもの手遊び……スマホかゲームを連想するのが並の神経なんでしょうね。
でも、あたしは好きなんです。
演劇部なんてオタク部活に入った最大の理由は、演劇部のみんなができたからです。実に変なクラブです。
どこから話そう……あたし西郷さんが好きなんです。西郷さんて写真が一枚もないんです。みんな上野の山の銅像を西郷さんと思っているようですが、除幕式の時、奥さんが言いました。
「宿んしはこげんなお人じゃなかったこてえ」
でも、上野の西郷さんは、あそこに百年以上も立っているんです。あたしの西郷さんは、あの西郷さんです。
右足がわずかに短いので、五ミリほどの銅版をかましてあります。それから連れている犬の名前は「ツン」と言います。薩摩犬はもっと小さいのですが、少し大きめに作ってあります。表情、体格、ちょっと右足を踏み出したところなど、絶妙なフォルムです。
役者で、このフォルムがとれる人はいません。姿勢がとても自然で、演劇のことばでは「ぶら上がった姿」と言います。平たく言えば、その人が一番その人らしく力を抜いて立ち上がった姿とでもいいましょうか。
ぶら上がっているのに山のように静かで大きな人格を感じさせます。
みなさん西郷さんの名前は「隆盛」だと思っていますよね。本当は「隆永」っていうんです。
明治になって国民全員の戸籍を作ることになったとき、西郷さんは無頓着な人で「おはん、ついでにおいのもやってたもんせ」ということで代理に友人をたてました。
「西郷様の忌み名は、なんと申される」
江戸出身の役人が聞きます。西郷さんは日常は「吉之助」で、周囲からは「せごどん」や「吉之助さー」と呼ばれていました。
で、友だちは忌み名が思い出せず、とっさに出たのが「隆盛」でした。
「そりゃあ、おはんジ様(祖父)ん忌み名じゃが。ガハハハハ」
で、特に訂正もせずに通してしまいました。
弟さんを西郷従道といいますが、これも間違いです。ほんとうは「隆道」と言います。ところが薩摩弁は江戸の人間には分かりにくく、何度も聞きなおされ、音読みで「リュウドウじゃ!」と言いました。江戸の役人は「ああ、ジュウドウでござるな。ならば従道でしょう」と一人合点に決めてしまいました。いいかげんくたびれた友人は訂正もせずに西郷兄弟のところにもどってきました。
あたしは、こういう薩摩人が好きです。また、こういう西郷さんのような人物を演じられる役者がいないことが残念です。
ほんとは、この手遊び歌について語りたかったんですが、長くなるので次にします。
演技組 筧 十世(かけい とよ)