大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・学校時代・15『ごめんね……美優』

2016-09-09 09:47:56 | 小説3
学校時代 15『ごめんね……美優』

 ☆ 今回は小説です


 この春も定員を割っていたので覚悟はしていた。

 でも、現実に廃校が決定してしまうと凹んでしまう。
 そのせいじゃないだろうけど、補導委員会は、どこか力が抜けていたような気がする。
 終わったのが六時半を超えていたこともあり「電話でもええんちゃいますか」と生指部長は言ってくれた。

 でも、あたしはMの家に家庭訪問に行ってきた。生活指導上の家庭訪問は時間を置いてはいけないのがセオリーだ。

「きびしい懲戒になるでしょうけど、退学にはなりませんから」
 いろいろ話したけど、M本人も保護者も安心したことは確かだ。なんといっても三回目の喫煙、それも三回目の今日は、逃げる途中でOLに衝突して怪我をさせている。私学なら立派な退学の理由になる。それにMの兄時に懲戒を巡ってこじれたことがあるので、一晩置いておくわけにはいかない。ちょっとしたことが疑心暗鬼になり、場合によっては弁護士が乗り出してくることもあるのだ。
 
 さすがに疲れて、阪急電車が淀川を渡るころには舟をこいでしまった。

 カタンカタン、カタンカタン、カタンカタン、カタンカタン、カタンカタン、カタンカタン……。

 鉄橋を渡る音が小気味よくて、いっそうの睡魔が襲ってくる。
 膝の上……というよりは胸に抱きかかえていたバッグの中でスマホが振動した。

 あ……Mから? え……美優?

 スマホは、妹の美優からメールが入っていることを示していた。

――お姉ちゃん、今から会えないかなあ、話があるんだ――

 Mと同い年の妹はこらえ性が無い。思いついたら自分の都合であれこれ言ってくる。
 美優の年齢やここしばらくの状況を考えれば話し相手になってやらなきゃならないんだけど……さすがに今夜は辛い。

――明日の午後、年休とっていくから――

 鉄橋を渡り切るころには返事を打ち終えて、自分ちの最寄りの茨木駅に着くまで眠ることにした。

 あくる日は母の電話で起こされた。
「もしもし、お母さん?」
 疲れが取れていないので、我ながら声に棘がある。
「……ついさっき、美優が息を引き取ったの」
「え…………………」

 暗い後悔がみるみる胸を満たしていった。

 ごめんね……美優。
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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評・29『レ・ミゼラブル』

2016-09-09 06:02:26 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評・29
『レ・ミゼラブル』


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


 これは、友人の映画評論家滝川浩一が個人的に身内に流している映画評ですが、もったいないので本人の了解を得て転載したものです。


 ヒュー・ジャックマンとラッセル・クロウそしてアン・ハサウェイに神の祝福あれ。

 素晴らしい映画でした。まだ感動が身体の中に収まりきらない。とはいえ、万人にお勧めはしない。まず、キャラクターがいきなり歌いだす形式が苦手な人には苦痛だろう。冒頭から全体の1/3位までは ものすごいダイジェスト感がつきまとう、舞台だと(東宝舞台)同じ事をしていても そうは思わないが映画だとその様に感じる。一人一人がクローズアップされるので 作品世界に入り切る前だと表情のみに気を取られるからだろう、その意味、舞台のほうがスケール感があり、冒頭から観客を飲み込んで行く。
 この部分を乗り切って、1832年 革命前夜のパリに行きつければ、後には間違いなく感動が待っているのですがね。

 ユゴーの原作を読んでいる方には説明不要、舞台をご覧になった方も同じく。本作で初めて“レ・ミゼラブル”に触れられる方へ……当時のフランスの歴史など全く知らなくとも構いません。原作は間違いなく、そのフランスの歴史に根ざした物語ではありますが、その中心にあるのは人間の魂の尊厳・救済・浄化です。
 アニメ「フランダースの犬」のラストに涙する感性さえあれば無問題です。
“ミッズ”のストーリーを尚更に語るのはやめます、あまりにも無粋ですから。舞台に比べて映画の方が感動的に見える部分があります。それは先述とは逆に、キャラクターのアップによってもたらされる物です。 ジャン・バルジャンを執拗に追うジャベール警部の内実が 彼が選ぶ自己の身の処し方と共に分かりにくいのが舞台の弱点でもあるのですが、本作では一点の誤解も無く伝わってきます。それどころか、ユゴーの思惑さえ超えて ジャベール自身の浄化にも思い至ります。
 この映画で一番泣かされるポイント…3ヶ所(?)…コゼットの可憐、、、ブ~~!!ち~がいま~す。エポニーヌ(コゼットが預けられていた宿屋の娘)のマリウスに向けられる純愛、それはもう一切、混じりっけのない、正真正銘、天下無敵の純愛。神は時にとてつもない喜劇を演出され そしていきなり幕切れを見せ賜う…… 第二、革命の前章なる学生達の純粋、あまりにも無計画、無鉄砲、状況判断の甘さ……市民に見捨てられ、遺骸をさらすのだが……志しはあまりにも気高く、またあまりにも愚かしく、当然にして滅ぶ。その潔い馬鹿さ加減が美しい。そして最後は、全て受け入れられ、明らかになり愛する者の幸せを確信して旅立つジャン・バルジャンの笑顔、ファンテーヌが感謝と共に迎えにやって来る。 ジャベールの最期に涙を捧げてはならない、それが彼に対する礼儀。

 そろそろ引け時、書きたい事は10倍あるけどキリがない。後は映画館で堪能して下さい。パンフレットは購入必須、見事な解説が載っています。 来年、新演出の舞台があります。これは必見! 大阪は9月からフェスティバルホール…う~ん、新しくなったフェスティバルも魅力的だが 待ち切れそうにないので5月からの帝劇に行きてぇ!

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