高校ライトノベル
『魔法科高校の優等生・4』
ライターを探して、いらついているマスターのタバコに火を点けてやった。
「おおきに、麗奈ちゃん……」
そう言ってマスターは新聞を広げた。
今の火が麗奈の指先から出ても、このマスターは何も言わない。
あの魔法学校……もう「あの」としか言えない。歴史から完全に抹殺された学校。
あれから三年たった。わずかに残った学校関係者は社会的に抹殺された。関係者と分かれば仕事がない。従って食べていくことができない。下手に細かい魔法を使って食料を得ようとしても、政府は全国ネットで調べ、十数分後には対魔ジャケットを着た警官に抹殺される。
麗奈は元々政府の調査員として魔法学校に潜入していたが、政府の露骨な学校潰しに反発。学校側について戦い、公には戦死したことにされ、地下に潜伏していた。で、いろいろあった末に、この『志忠屋』という店でパートで働いている。マスターは麗奈が魔女であることにこだわりはない。
『志忠屋』は二時半から五時半までアイドルタイムと言って店を閉じる。
本来は、ディナータイムのための準備の時間なのだが、麗奈が来てからは、魔法で五分ほどで片づける。でもって店では重宝がられている。ま、それでギャラが倍になることはないが、地上で、こんなに気楽な場所はないと、麗奈は当分世話になるつもりであった。
マスターは、このアイドルタイムに新聞を読んだり、副業の映画評論の原稿を書いたり、居眠りしてイビキをかいたりと、忙しい。
「ご準備中に申し訳ありません……」
「はい、どちらさんで?」
マスターが半分ほどになったタバコをもみ消した。
「あの、映画評論家の滝川浩一さまでいらっしゃいますよね……」
「うい、さいですが」
「わたし、映画公論の佐瀬部と申します」
いかにも、業界人らしいジャケットから名刺を出した。
「映画のことでっか?」
「ええ『融点の地球』という映画について、お話を伺えればと思いまして」
「ああ、あの映画ね……」
麗奈は、男をうさんくさく思ったが、マスターの客なので、魔力隠しを兼ねてタバコをくゆらせた。もちろんライターで火を点けている(カウンターの中に器用に手を突っこんであたりをつけて取りだしたライター……はガス切れになっていたので、近くのコンビニまで行った)
「あのストーリーはよくできていましたね。温暖化で海面が上昇。北極の氷が溶けて、船が転覆する所なんか圧巻でした」
ライターを買いに行く前は、こんな話題だった。帰ってみると……。
「ガハハ。そんなこと信じて、あれ見てたん?」
「ええ、もちろん。だからCO2の排出権売買の証券をさっそく買いましたよ」
「なんぼほど?」
「安月給なんで百万ちょっとですけど」
「ほんで?」
「こうやって、映画のお話をさせていただいたのも、何かのご縁。滝川さんも一口いかがですか?」
「あの映画の本質は、地球温暖化のプロパガンダ。エンドロール見た? 証券やら保険の会社がズラッと並んどる」
「地球の温暖化を信じないんですか?」
「なにを根拠に?」
「だって、北極の氷は溶けてますよ」
「あれは、端の方から溶けていくもんなん」
「でも、パンフにも載っていましたけど、北極の氷は確実に小さくなっていますよ」
「それはね、何度で氷と感知するか、人工衛星いじったら、なんぼでも変えられる」
「でも、ラムダジオグラフィックの資料ですよ!?」
「あそこの株の半分はC国が持っとる。昔のあの会社とはちゃう」
麗奈が、思わず言った。
「その話し、ショバ変えて、あたしが聞くよ」
そうやって男を連れ出すと大通りまで出た。
「あんた、魔法学校の生き残りだろ。魔法の臭いがする」
「僕は……あんた?」
「魔法よりシケたサギなんかやるんじゃないよ。なんだったら、直ぐ後ろの交番に入ってもいいのよ」
「麗奈さん……だったよね。だれもがあんたみたいには生きられないよ」
「最後の誇りは捨てるんじゃないよ。ま、困ったときは……」
「訪ねてきていいですか?」
「ばか、自分で道を開くんだよ。いいね」
男はすごすごと、地下鉄の入り口に消えていった。
「ごめん、マスター。類が類を呼んじゃったみたい」
「せっかく遊んでたのに。あいつあれからスマホに電話かかってきて、先客がきまりそうや言うて、オレに迫る用意しとってんで。そこから話はおもろなんのに!」
下手な魔法使いの上をいくオッサンである。麗奈は、ますます居心地が良くなった。
『魔法科高校の優等生・4』
ライターを探して、いらついているマスターのタバコに火を点けてやった。
「おおきに、麗奈ちゃん……」
そう言ってマスターは新聞を広げた。
今の火が麗奈の指先から出ても、このマスターは何も言わない。
あの魔法学校……もう「あの」としか言えない。歴史から完全に抹殺された学校。
あれから三年たった。わずかに残った学校関係者は社会的に抹殺された。関係者と分かれば仕事がない。従って食べていくことができない。下手に細かい魔法を使って食料を得ようとしても、政府は全国ネットで調べ、十数分後には対魔ジャケットを着た警官に抹殺される。
麗奈は元々政府の調査員として魔法学校に潜入していたが、政府の露骨な学校潰しに反発。学校側について戦い、公には戦死したことにされ、地下に潜伏していた。で、いろいろあった末に、この『志忠屋』という店でパートで働いている。マスターは麗奈が魔女であることにこだわりはない。
『志忠屋』は二時半から五時半までアイドルタイムと言って店を閉じる。
本来は、ディナータイムのための準備の時間なのだが、麗奈が来てからは、魔法で五分ほどで片づける。でもって店では重宝がられている。ま、それでギャラが倍になることはないが、地上で、こんなに気楽な場所はないと、麗奈は当分世話になるつもりであった。
マスターは、このアイドルタイムに新聞を読んだり、副業の映画評論の原稿を書いたり、居眠りしてイビキをかいたりと、忙しい。
「ご準備中に申し訳ありません……」
「はい、どちらさんで?」
マスターが半分ほどになったタバコをもみ消した。
「あの、映画評論家の滝川浩一さまでいらっしゃいますよね……」
「うい、さいですが」
「わたし、映画公論の佐瀬部と申します」
いかにも、業界人らしいジャケットから名刺を出した。
「映画のことでっか?」
「ええ『融点の地球』という映画について、お話を伺えればと思いまして」
「ああ、あの映画ね……」
麗奈は、男をうさんくさく思ったが、マスターの客なので、魔力隠しを兼ねてタバコをくゆらせた。もちろんライターで火を点けている(カウンターの中に器用に手を突っこんであたりをつけて取りだしたライター……はガス切れになっていたので、近くのコンビニまで行った)
「あのストーリーはよくできていましたね。温暖化で海面が上昇。北極の氷が溶けて、船が転覆する所なんか圧巻でした」
ライターを買いに行く前は、こんな話題だった。帰ってみると……。
「ガハハ。そんなこと信じて、あれ見てたん?」
「ええ、もちろん。だからCO2の排出権売買の証券をさっそく買いましたよ」
「なんぼほど?」
「安月給なんで百万ちょっとですけど」
「ほんで?」
「こうやって、映画のお話をさせていただいたのも、何かのご縁。滝川さんも一口いかがですか?」
「あの映画の本質は、地球温暖化のプロパガンダ。エンドロール見た? 証券やら保険の会社がズラッと並んどる」
「地球の温暖化を信じないんですか?」
「なにを根拠に?」
「だって、北極の氷は溶けてますよ」
「あれは、端の方から溶けていくもんなん」
「でも、パンフにも載っていましたけど、北極の氷は確実に小さくなっていますよ」
「それはね、何度で氷と感知するか、人工衛星いじったら、なんぼでも変えられる」
「でも、ラムダジオグラフィックの資料ですよ!?」
「あそこの株の半分はC国が持っとる。昔のあの会社とはちゃう」
麗奈が、思わず言った。
「その話し、ショバ変えて、あたしが聞くよ」
そうやって男を連れ出すと大通りまで出た。
「あんた、魔法学校の生き残りだろ。魔法の臭いがする」
「僕は……あんた?」
「魔法よりシケたサギなんかやるんじゃないよ。なんだったら、直ぐ後ろの交番に入ってもいいのよ」
「麗奈さん……だったよね。だれもがあんたみたいには生きられないよ」
「最後の誇りは捨てるんじゃないよ。ま、困ったときは……」
「訪ねてきていいですか?」
「ばか、自分で道を開くんだよ。いいね」
男はすごすごと、地下鉄の入り口に消えていった。
「ごめん、マスター。類が類を呼んじゃったみたい」
「せっかく遊んでたのに。あいつあれからスマホに電話かかってきて、先客がきまりそうや言うて、オレに迫る用意しとってんで。そこから話はおもろなんのに!」
下手な魔法使いの上をいくオッサンである。麗奈は、ますます居心地が良くなった。