大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・『魔法科高校の優等生・4』

2016-09-18 06:08:43 | ノベル
高校ライトノベル
『魔法科高校の優等生・4』
        


 ライターを探して、いらついているマスターのタバコに火を点けてやった。

「おおきに、麗奈ちゃん……」
 そう言ってマスターは新聞を広げた。

 今の火が麗奈の指先から出ても、このマスターは何も言わない。

 あの魔法学校……もう「あの」としか言えない。歴史から完全に抹殺された学校。
 あれから三年たった。わずかに残った学校関係者は社会的に抹殺された。関係者と分かれば仕事がない。従って食べていくことができない。下手に細かい魔法を使って食料を得ようとしても、政府は全国ネットで調べ、十数分後には対魔ジャケットを着た警官に抹殺される。

 麗奈は元々政府の調査員として魔法学校に潜入していたが、政府の露骨な学校潰しに反発。学校側について戦い、公には戦死したことにされ、地下に潜伏していた。で、いろいろあった末に、この『志忠屋』という店でパートで働いている。マスターは麗奈が魔女であることにこだわりはない。
『志忠屋』は二時半から五時半までアイドルタイムと言って店を閉じる。
 本来は、ディナータイムのための準備の時間なのだが、麗奈が来てからは、魔法で五分ほどで片づける。でもって店では重宝がられている。ま、それでギャラが倍になることはないが、地上で、こんなに気楽な場所はないと、麗奈は当分世話になるつもりであった。

 マスターは、このアイドルタイムに新聞を読んだり、副業の映画評論の原稿を書いたり、居眠りしてイビキをかいたりと、忙しい。

「ご準備中に申し訳ありません……」
「はい、どちらさんで?」
 マスターが半分ほどになったタバコをもみ消した。
「あの、映画評論家の滝川浩一さまでいらっしゃいますよね……」
「うい、さいですが」
「わたし、映画公論の佐瀬部と申します」
 いかにも、業界人らしいジャケットから名刺を出した。
「映画のことでっか?」
「ええ『融点の地球』という映画について、お話を伺えればと思いまして」
「ああ、あの映画ね……」

 麗奈は、男をうさんくさく思ったが、マスターの客なので、魔力隠しを兼ねてタバコをくゆらせた。もちろんライターで火を点けている(カウンターの中に器用に手を突っこんであたりをつけて取りだしたライター……はガス切れになっていたので、近くのコンビニまで行った)

「あのストーリーはよくできていましたね。温暖化で海面が上昇。北極の氷が溶けて、船が転覆する所なんか圧巻でした」
 ライターを買いに行く前は、こんな話題だった。帰ってみると……。
「ガハハ。そんなこと信じて、あれ見てたん?」
「ええ、もちろん。だからCO2の排出権売買の証券をさっそく買いましたよ」
「なんぼほど?」
「安月給なんで百万ちょっとですけど」
「ほんで?」
「こうやって、映画のお話をさせていただいたのも、何かのご縁。滝川さんも一口いかがですか?」
「あの映画の本質は、地球温暖化のプロパガンダ。エンドロール見た? 証券やら保険の会社がズラッと並んどる」
「地球の温暖化を信じないんですか?」
「なにを根拠に?」
「だって、北極の氷は溶けてますよ」
「あれは、端の方から溶けていくもんなん」
「でも、パンフにも載っていましたけど、北極の氷は確実に小さくなっていますよ」
「それはね、何度で氷と感知するか、人工衛星いじったら、なんぼでも変えられる」
「でも、ラムダジオグラフィックの資料ですよ!?」
「あそこの株の半分はC国が持っとる。昔のあの会社とはちゃう」

 麗奈が、思わず言った。

「その話し、ショバ変えて、あたしが聞くよ」
 そうやって男を連れ出すと大通りまで出た。
「あんた、魔法学校の生き残りだろ。魔法の臭いがする」
「僕は……あんた?」
「魔法よりシケたサギなんかやるんじゃないよ。なんだったら、直ぐ後ろの交番に入ってもいいのよ」
「麗奈さん……だったよね。だれもがあんたみたいには生きられないよ」
「最後の誇りは捨てるんじゃないよ。ま、困ったときは……」
「訪ねてきていいですか?」
「ばか、自分で道を開くんだよ。いいね」
 男はすごすごと、地下鉄の入り口に消えていった。

「ごめん、マスター。類が類を呼んじゃったみたい」
「せっかく遊んでたのに。あいつあれからスマホに電話かかってきて、先客がきまりそうや言うて、オレに迫る用意しとってんで。そこから話はおもろなんのに!」

 下手な魔法使いの上をいくオッサンである。麗奈は、ますます居心地が良くなった。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評・38『脳男』

2016-09-18 05:43:40 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評
『脳男』


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

 これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が身内に流している映画評ですが、もったいないので、本人の了解を得て転載したものです。


 微妙~にバランスを保ってました。

 ストーリーのリアリズム、オーバー過ぎない狂気の表現、世界の正常さを担保する医師と刑事……と コマは揃っている。
 まず、松雪泰子……下手とは言わない、これは100%彼女の責任じゃないかもしれないが、毎度お馴染みの泰子さん。似たような役がこの所続いている。このまま行くと、ほんまにこれしか出来なくなりまっせ。
 江口っちゃん…なかなか好演ながら、久し振りの癖が出ている。なにも江口に限らないが、こういう役が回ってくると殆どみんな松田優作に成ってしまう。しかし、どうしても優作を超えられない。その優作からして原田芳雄にあがれて、越えようとして足掻いて足掻いて、一時勘違いの泥沼に落ちて、這い上がって またもがいて…結局超えられなかった。原田芳雄恐るべしであります。
 生田斗真は褒められてしかるべし、異常者の演技ってのは半分以上メイクで作れるが、後半の正常者として覚醒したのか 元々スイッチの切り替えが出来るのか…この微妙さを上手く表現、しかもあまりメイクには頼っていない。
 この意味で染谷将太の演技も怖い。染谷と「ヒミズ」以来のコンビ、二階堂ふみは堂々たる狂気の人。
 テレビ特番ではない、確かに映画として成立しているのだが、だから安心して見ていたのだが……ここまで積み上げておきながら、本の失敗なのか監督の不手際なのか、なんたることをサンタルチ~ア。 生田斗真のキャラクターは感情と痛覚を持たない。だからといって、人間 スーパーマンに成れる訳じゃない。許容量以上のショックを受ければ身体は動かない。例えゾンビであろうが足が折れたら立ち上がれない。キャラ設定として超えちゃいけない一線って奴があるのだが……越えちゃいましたねぇ~軽々しく 嗚呼。せっかくのラストシークェンスの入り口で、この後江口最大の見せ場が……染谷の重要シーンも控えているのに、なにより生田の正念場が…なんもかんもぶち壊し! なんて勿体無い。
 せっかく積み上げてきたのに、たった一つの嘘で全てオジャンであります。アクションの作り方一カ所でカバー出来るのに……誰も気付かなかったんでしょうか。
 さて、この私がこだわっているミスがおわかりいただける否か……これは、見ていただくしかない…あれ?

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