大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・『私家版・父と暮らせば・3』

2016-09-02 06:48:29 | エッセー
大人ライトノベル
『私家版・父と暮らせば・3』
 
    


 若い頃の父は、青年学校の同窓会などでは割を食っていた。

 大人の宴会であるので、当然二次会がある。
 その二次会に、父は二つの理由で参加できなかった。

 一つは、ほとんど下戸であることで、それに加えて話し下手なので、行っても、アルコールの勢いで喋っている仲間のテンションには付いていけなかった。
 わたしも父の体質を受け継ぎ、肝臓がアセトアルデヒドを分解する能力が低く、ほとんど下戸である。しかし学園闘争時代の最後尾にいるわたしは話に酩酊することは得意である。相手を酔わしては、その言語能力を奪い、話をひっくり返したり、お茶にしては喜んでいる。「並の酒飲みより始末が悪い」と言われる。
 で、父である。一次会でサヨナラする父は料理や、お寿司の残り物を折に詰めてもらい家に持って帰った。
 すこぶるつきの料理下手である母の料理に慣らされたわたしと姉は「世の中に、こんな美味い物があるのか」と感動した。
 で、今度こそ父である。昔の男の宴会は、いろんな二次会があったが、陸軍組と海軍組に分かれるのが、標準であった。社宅の二軒隣のTさんなどは陸軍なのに、陸軍の航空母艦(正式には空母型の飛行機輸送船)に乗っておられて、陸軍では珍しい銀蠅(ぎんばえ=ちょろまかし=員数を揃えるとも言う)の話などしてくださった。

 戦争の善し悪しは別にして、大正末年生まれの男に兵役というのは、独特の意味合いがある。徴兵制度のない今の日本では例えがむつかしい。
 例えば、わたしは六十になろうというのに、野球が分からない。中学や高校のホームルームで、やることがなくなると、グランドや、近所の公園で野球やソフトボールをやったが、わたしは、ほとんど参加したことがない。サッカーはむろんのこと水泳、テニス、ゴルフ、等々やらないだけではなく、ルールも選手も分からない。だから、子供のころから、そういう話題には付いていけなかった。

 ちょっと分かってもらえるだろうか。

 大げさな物言いになるかもしれないが、兵役はイニシエーション(通過儀礼)であり、これを経ていない者は、どこかコミュニケーションする上でトッテの掴みようがないようなところがある。そんな印象の父であった。

 現役のころは、ずっと職工であった父は器用な人で、戸棚や縁台はもちろんのこと茶箪笥、本箱、わたしの勉強部屋まで作ってしまった。特にうちの父だけが器用なのではなく、同世代の男達は、おしなべて器用であった。
 だから、その息子である我々は、その点では遺伝子を受け継いでいる。欲しいモノがあると、買ってもらおうと思う前に「作れないだろうか?」と思った。
 当時はゴミの不法投棄などは当たり前で、空き地があれば、なにかしら捨ててあったり落ちていたりした。
 そういうところから、木っ端や金属材料を拾ってきてはいろんなものを作っていた。その時に、カナヅチやカンナ、ノコギリの使い方を学び、そう言う点、父は、わずかに偉かった。中学で技術家庭を習うころには、たいていの男子は、当たり前に工具が使えるものが多かった。

 先日、エアコンの掃除をやろうとして、椅子に載り、クリーナーをかけようとしたところで、ひっくり返った。持病のメニエルが復活したようだが、その、ひっくり返ったところが父の骨箱の前であった。もう少しずれていたら、骨箱の祭壇の上に落下しているところで、そうなれば父も無事では済まなかっただろう。エアコンを、ある程度バラして掃除しようというのは、確実に父の遺伝子である。息子ならダスキンさんか何かを呼んで、さっさと何千円也を払って涼しい顔だろう。落ちる瞬間、父が「危ない!」と言ったような気がする。しかし、哀れ骨箱に入ってしまっては、助けることも出来ない「もうちょっと早よ言うてえな」と骨箱にグチった。

 骨箱というと、こんなことがあった。葬儀会館から帰って祭壇を組み立て、骨箱を安置、お花などの飾りも、おさおさ怠りなく済まして、上の部屋で家族三人三日ぶりに安眠しようとしたところ、無人の下の部屋で人の気配がして、カミサン、息子が飛び起きた。
「な、なんやろ……!?」
 驚愕の息子。
「あんた、ちょっと見てきてや」
 警戒のカミサン。
「どうせ、親父やで」
 わたしは、ごく自然に、そう思い階下に降りた。
『すまん。慣れん家で勝手が分からんよって』
 父が骨箱の中でそう言った。見ると祭壇の湯飲みに水が入っていなかった。
「ごめん、て……ちゃんと入れたはずやのに?」

 父が緊張すると、やたらに水や、お茶を飲んでいたことを思い出した……。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評・22『サイボーグ009/アルゴ』

2016-09-02 06:31:10 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評・22
 『サイボーグ009/アルゴ』


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が仲間内に流しているホットな映画評ですが、もったいないので、本人の了承を得て転載したものです。

☆サイボーグ009

 石森章太郎の009/第1シーズン 「ブラックゴースト 黄泉編」及び、最終章「神々との戦い編」を知悉し、あのラストを受け入れた人にのみお薦めする。それ以外の人には絶対納得出来ない。
 神山監督は石森ワールドを知り尽くし、その美点も欠点も 石森章太郎の先見性・作品世界に提示される思想・それ故の苛立ち…総てを神山の理解の中で昇華して本作の製作を行っている。
 従って、原作世界(石森ユニバースと言い換えても良い)の肯定的視点に立たなければ、本作の良し悪しは解らない……どころか説明抜きのラストに怒りすら覚えるだろう。
 エヴァンゲリヲンのファンには理解いただけると思うが、エヴァテレビシリーズを全く見ずに 劇場版第一作を見た人間(私です)の理解不能と苛立ち・怒りを想像していただきたい。テレビシリーズを見ていて、ラスト2話の展開はファンを四分五裂に引き裂いた……あの混乱も思い出していただきたい。
 エヴァは今回の劇場版「序」・「破」
 そして間もなく公開の「Q」において再構築されるようだが、予告を見る限り その内容は不明であり、さらなる混乱も予想される。最終話が第4作として噂される「四」ないし「死」としてでるならば、それを見るまで評価は出来ないのだが……。
 
 さて、懐かしき「SFの集中と拡散」の時代を共有する兄弟姉妹たちよ、アタシャ石森が生きていて 脚本製作に携わったのかと思ってしまいました。あの懐かしきサイボーグ・島村ジョーが再び目の前に現出しようとは……これは奇跡と言って決してオーバーではない。決して神山監督の能力を見くびっていた訳ではないが、ここまで見事に石森ユニバースを再現されるとは思っていなかった。
 確かに、せめて2部作品にしてもっと丁寧に作ってくれと思わんでもないが(途中で姿を消すメンバーがいたり、結局 最期まで正体不明の少女がいたりする) この唐突なぶった切り感……我々も当時「石森の中途半端」として怒り狂った、いわばご都合主義にしか見えないストーリー展開を是正して「石森ワールド」の完成(当然、神山解釈による)を目指して欲しかった。
 
 ではあるが、本作の在り方を認めたいと思う。

「彼の声」という存在(現象)が現れる。何らかの陰謀なのか、「彼」が「神(唯一神・創造主)」なのかは解らない。この謎に解答を与える為のストーリーの切断なのだが、それにしても、何故009只一人だけがその結論に至ったのか……そこんところのセンテンスがいくら何でも不足している。或いは、極めて熱心なキリスト教信徒なら、考えるよりもっと直感的に理解してみせるかもしれない。
 石森がクリスチャンであったかどうかは知らないが、彼の作品世界にキリスト教的思想が深く関わっているのは間違いない。神山の仕事はそこまで斬り込んでいるという事なのだろう。 作画は見事と言う他ない、3DCGと手描きアニメの合体の おそらく最高作品である。3D映像も問題ない、これなら差額を支払っても文句は無い。原作「黄泉編」のラストにシンクロするシーンがある。私の中には 悲しむフランソワーズを抱き留めたハインリッヒがジョン・ダンの詩を口ずさむシーンが浮かんだ。009フリークなら滂沱の涙必至であります。どちらかと言えば「貧乳タイプ」の003が「攻殻~」の素子並みに爆乳に成っているのは神山サービス? そうそう、イワンの両目がチャンと出ていて なかなかハンサムな赤ん坊でありました。これもサービス?♪


☆アルゴ

 イランのアメリカ大使館占拠時の実話です。全く忘れていました。ベン・アフレックの監督としての手腕は本物です。「ザ・タウン」でも唸りましたが、今作でも唸りっぱなしです! 完全脱帽。話は実話である分 結果は知れている訳で(大成功だった)、それをこれだけサスペンスフルにハラハラドキドキさせながら見せる手腕は物凄いの一言。本作は今年度アカデミーの一角を狙っていると言われますが 納得であります。映画に含まれる政治性・アメリカ政府の欺瞞・アメリカ人の正義・原理主義への嫌悪感……総てのバランスがギリギリに線引きされている。
 このバランス感覚が素晴らしい、まさにBRAVO~!!であります。
 にしても、原理主義ってのは嫌ですねぇ、反吐が出ます……いやいやイスラムだけじゃありませんキリスト教だってコミュニズムだって一緒です。世の中、中庸で自由なのが一番、イラン人のパーレビに対する憎しみや 何故パーレビがそこまで嫌われるか その裏でアメリカが果たした役割……そんな事は全部理解した上で、ヤッパリ原理主義は受け入れられない。そんならお前の個人的な怨みはどうなんだって?…そんな痛い事は聞いては成りませぬ。アハハハ 勝手勝手~チャンチャン。
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