ライトノベルセレクト・304
『僕たちは戦わない』
沖縄が独立した……たった二日と十時間で
「どうしよう、バイトがパーだぜ」
あたしたちは、サークルごと沖縄のホテルで一夏バイトするつもりだった。ギャラは高くないが、シフトを工夫すればバイトをしながら、マリンスポーツがエメラルドグリーンの海で楽しめるはずだった。一馬なんか、その間にスキューバダイビングのB級コーチのライセンスを取るつもりでいた。
あたしは、少し切羽詰っていて、後期の学費を稼ぐために、アゴ付きのバイトは魅力的で、寝る時間と正規の休憩時間以外休むつもりは無かった。そして別の理由が一つ……。
だから、バイトの動機としては、サークルのメンバーとは天と地ほどの隔たりがあると思っていた。
「すごいぜ、警察も放送局も独立派が占拠だって。やりたい放題じゃんよ!」
健介が無邪気に時めいている。
始まりは、去年民協党が絶対多数で政権を握ったことだ。衆参両院で多数を握っているので、なんでもあり。
あろうことか、一番最初に決めたのは日米安保の廃止を決めたことである。マスコミや文化人は偉そうな言葉で賛否両論戦わせたが、どれも机上の空論。実効性ゼロのものばかり。
日米安保は、日米のどちらかが破棄を通告すれば、一年後に自動消滅することになっている。
中国脅威論が右派の人たちから言われたが、中国は静観……どころか、南西諸島方面には近づかなくなった。
――あくまでも日本の国内問題なので、中国は、ただ静観する――
文字通り中国は動かなかった。それまで増加傾向にあった中国軍機へのスクランブルも大幅に減った。
そして、あろうことか、尖閣諸島の領有権を撤回した。
国内で中国脅威論を唱えていた人たちは立場を失った。
先月には嘉手納基地が返還され、辺野古の工事は中断された。
夢のように平和な一年間が過ぎた。
そして三日前、市民たちによる独立デモが起こり、その規模は本土のシンパも含めて十万人に達した。平穏なデモだったので、油断があった。
今日、昼過ぎに、デモ隊の一部が武装し、警察、マスコミ、一部移転し始めていた自衛隊を襲った。その規模一万と言われた。
沖縄は、今日の午前十時をもって、琉球民主共和国になった。
瞬時に、中国を始めとする二十数か国が沖縄の独立を認めた。
日本には、国の一部が分離独立することに関しての法的な規定が無い。だから優先されるのは国際法で、独立が宣言され、それを承認する国が現れ、その数が多くなれば、事実上も国際法的にも合法的な独立ということになる。
中国は、尖閣は琉球領であると言いだし、臨時琉球政府も、そう宣言した。
ここにきて、お目出度い民協党も気が付いた。
数年前から、かなりの数のスリーパーが沖縄に送り込まれ、日本人の活動家といっしょになって一斉蜂起し沖縄の独立をやりとげたことを。
さすがに、民協党は追い込まれたが、いったん握った政権はなかなか手放さない。民協党以前の日本政府が、いかに沖縄を冷遇してきたかをばかり強調し、臨時琉球政府と話し合うべく、政府専用機を飛ばしたが、沖縄の北で領空侵犯ということで撃墜されてしまった。
乗っていた民協党の副総理は「とにかく話し合いましょう!」と撃墜される寸前まで、衛星放送を通じて呼びかけた。
この間抜けさかげんに、日本国民の心は民協党から離れ、半月間、毎日五十万という人々が、国会を取り巻き、大昔の安保デモの規模を超え、民協党は政権を放り出した。
手続き的には衆議院の解散になり、選挙で民協党は大敗。どの党も絶対多数を握ることはできなかったが、挙国一致内閣ができあがり、沖縄県奪還のために自衛隊が出動。ここまで決めるのに、三か月が浪費された。
その間に中国を中心に、国際琉球防衛軍が守りを固めたので、自衛隊も一回の出撃で沖縄を奪還することはできなかった。人的な損失も二十一世紀の感覚では容認できない数になり始めた。
政府は半年をかけて自衛隊を増強、自衛隊への志願を募った。
「あたし、自衛隊にいく……」
あたしの宣言に、サークルのみんなは背を向けた。
「……僕たちは戦わない」
一馬がぼそりと言った。
「もう一度言ってみなよ……」
「僕たちは……」
そこまで、聞いたとき、あたしは一馬をはり倒していた。一馬はまるでアナ王女にはり倒されたハンス王子のように無様にひっくり返った。他のみんなは、ただ驚いたようにあたしと一馬を見比べるだけ。
アナ雪なら、これでハッピーエンド。だけど、あたしの戦いは、ここから始まる。ここから戦うんだ……。
この物語はフィクションです
『僕たちは戦わない』
沖縄が独立した……たった二日と十時間で
「どうしよう、バイトがパーだぜ」
あたしたちは、サークルごと沖縄のホテルで一夏バイトするつもりだった。ギャラは高くないが、シフトを工夫すればバイトをしながら、マリンスポーツがエメラルドグリーンの海で楽しめるはずだった。一馬なんか、その間にスキューバダイビングのB級コーチのライセンスを取るつもりでいた。
あたしは、少し切羽詰っていて、後期の学費を稼ぐために、アゴ付きのバイトは魅力的で、寝る時間と正規の休憩時間以外休むつもりは無かった。そして別の理由が一つ……。
だから、バイトの動機としては、サークルのメンバーとは天と地ほどの隔たりがあると思っていた。
「すごいぜ、警察も放送局も独立派が占拠だって。やりたい放題じゃんよ!」
健介が無邪気に時めいている。
始まりは、去年民協党が絶対多数で政権を握ったことだ。衆参両院で多数を握っているので、なんでもあり。
あろうことか、一番最初に決めたのは日米安保の廃止を決めたことである。マスコミや文化人は偉そうな言葉で賛否両論戦わせたが、どれも机上の空論。実効性ゼロのものばかり。
日米安保は、日米のどちらかが破棄を通告すれば、一年後に自動消滅することになっている。
中国脅威論が右派の人たちから言われたが、中国は静観……どころか、南西諸島方面には近づかなくなった。
――あくまでも日本の国内問題なので、中国は、ただ静観する――
文字通り中国は動かなかった。それまで増加傾向にあった中国軍機へのスクランブルも大幅に減った。
そして、あろうことか、尖閣諸島の領有権を撤回した。
国内で中国脅威論を唱えていた人たちは立場を失った。
先月には嘉手納基地が返還され、辺野古の工事は中断された。
夢のように平和な一年間が過ぎた。
そして三日前、市民たちによる独立デモが起こり、その規模は本土のシンパも含めて十万人に達した。平穏なデモだったので、油断があった。
今日、昼過ぎに、デモ隊の一部が武装し、警察、マスコミ、一部移転し始めていた自衛隊を襲った。その規模一万と言われた。
沖縄は、今日の午前十時をもって、琉球民主共和国になった。
瞬時に、中国を始めとする二十数か国が沖縄の独立を認めた。
日本には、国の一部が分離独立することに関しての法的な規定が無い。だから優先されるのは国際法で、独立が宣言され、それを承認する国が現れ、その数が多くなれば、事実上も国際法的にも合法的な独立ということになる。
中国は、尖閣は琉球領であると言いだし、臨時琉球政府も、そう宣言した。
ここにきて、お目出度い民協党も気が付いた。
数年前から、かなりの数のスリーパーが沖縄に送り込まれ、日本人の活動家といっしょになって一斉蜂起し沖縄の独立をやりとげたことを。
さすがに、民協党は追い込まれたが、いったん握った政権はなかなか手放さない。民協党以前の日本政府が、いかに沖縄を冷遇してきたかをばかり強調し、臨時琉球政府と話し合うべく、政府専用機を飛ばしたが、沖縄の北で領空侵犯ということで撃墜されてしまった。
乗っていた民協党の副総理は「とにかく話し合いましょう!」と撃墜される寸前まで、衛星放送を通じて呼びかけた。
この間抜けさかげんに、日本国民の心は民協党から離れ、半月間、毎日五十万という人々が、国会を取り巻き、大昔の安保デモの規模を超え、民協党は政権を放り出した。
手続き的には衆議院の解散になり、選挙で民協党は大敗。どの党も絶対多数を握ることはできなかったが、挙国一致内閣ができあがり、沖縄県奪還のために自衛隊が出動。ここまで決めるのに、三か月が浪費された。
その間に中国を中心に、国際琉球防衛軍が守りを固めたので、自衛隊も一回の出撃で沖縄を奪還することはできなかった。人的な損失も二十一世紀の感覚では容認できない数になり始めた。
政府は半年をかけて自衛隊を増強、自衛隊への志願を募った。
「あたし、自衛隊にいく……」
あたしの宣言に、サークルのみんなは背を向けた。
「……僕たちは戦わない」
一馬がぼそりと言った。
「もう一度言ってみなよ……」
「僕たちは……」
そこまで、聞いたとき、あたしは一馬をはり倒していた。一馬はまるでアナ王女にはり倒されたハンス王子のように無様にひっくり返った。他のみんなは、ただ驚いたようにあたしと一馬を見比べるだけ。
アナ雪なら、これでハッピーエンド。だけど、あたしの戦いは、ここから始まる。ここから戦うんだ……。
この物語はフィクションです