タキさんの押しつけ映画評・41
『85thアカデミー賞』
この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ
これは悪友の映画評論家・滝川浩一が身内に流しているアカデミー評ですが、もったいないので、本人の了解を得て転載したものです
なんともバラバラの受賞で選考の混乱が見て取れる授賞式でした。
今年はユダヤテーマの作品が無かったので、ユダヤ贔屓をしようがなかったのだが、司会のセスが やたらと「お前はユダヤ人か」とか「ユダヤ人に逆らったらノミネートもされないぜ」とか言っていた。これは民族絡みと言うよりは政治絡み発言のようだ。今年のアカデミー賞は政治的な暗闘が 裏側で相当あったと思われる。
それは“アルゴ”(作品賞・脚色賞・編集賞)“0dark30”(音響編集賞のみ)“リンカーン”(主演男優賞・美術賞)と言う結果と、作品賞プレゼンターに大統領夫人が起用された事に見て取れる。
今回「アカデミー賞は俳優の投票に拠って決定される」と数回テロップが流れた。それなら“俳優協会賞”と大差ない結果になるはずながら微妙にノミネートのメンバーが違っている。 アカデミー賞の実質決定者は“ユダヤ系高齢白人”である(大物プロデューサー/配給会社)事に違いはなく、彼らが各派閥のボスとして君臨して差配している。司会のセスは、このピラミッドからは多少距離が有り、かつ「毒舌エンタティナー」でもあるので、今回のような司会が可能だった。しかも、ある程度毒舌を封じ(あれでも)、未来からカーク船長(カークはユダヤ人)が警告にやって来てセスの司会に忠告を与えるという形で中和している。 かなり裏でギリギリまで揉めたが、時間切れ手打ちになった様子が窺える。
“0 dark 30”は「現実を反映していない」との批判が政治家からかなり出ていた。これの厄介な点は民主・共和双方から別々の視点から唱えられた点(賞賛も双方から出ている)で、これに対処出来なかったため、キャサリン・ビグローは監督賞にノミネートされなかった。“アルゴ”のベン・アフレックは、その煽りを食らって道連れになったのだと思う。但し、作品賞と一体になっている脚色賞・編集賞(アルゴ) 脚本賞・編集賞(0 dark 30)に各々ノミネートされている(w・ゴールドバーグは両作品共に編集している)事でバランスを取った。結果はご存知の通り“アルゴ”の完勝、wノミネートの脚色賞は“アルゴ”での受賞、脚本賞は“ジャンゴ”にとられた(未見なのでコメントしません)
同じく微妙な政治テーマだが“0 dark30”はまだまだ生臭かったと言う事である。 この経緯からして、アカデミー協会内の「リベラル」vs「保守」の力関係は拮抗(本来「リベラル」が伝統的に強い)していると見て取れる。
この点以外は監督賞と主演女優賞が全く違う個性のぶつかり合いで、これは混乱ではなく、まさしくデットヒートであったが、その他は順当な受賞と見える。 主演男優賞D・D・ルイス(リンカーン)は未見ながら雷のごとき評価 まるで“GOD”を見るごとき物があった。まぁ“リンカーン”“フライト”“ザ・マスター”未見なので これ以上コメント出来ません。
助演男優賞 C・バルツも“ジャンゴ”を見るまで態度保留(名優だとは認めます) この人 3年で2回助演にノミネートされ2回とも受賞 しかもどちらもタランティーノの映画! こんな事も有るんですねェ。 監督賞も荒れたと見えるが準主要部門 その他の受賞数からして当然と言えるのではないだろうか。
撮影賞と視覚効果賞が“ライフ オブ パイ”なのは大納得、ところが視覚製作の「リズム&ヒューズ社(他に ジャンゴ/ハンターゲーム)」は破産していたらしい。授賞式でのスピーチから救済されたようだが、海外の同類との価格競争は今後も不安材料として残る。“レ・ミッズ”の録音賞は撮影後のアフレコではなく同時録音という新技術による。スタジオ内に限らず、ロケシーンもそうだと言うから驚異的技術である。これで外部ロケシーンの長回しに革命が起こる。
D・D・ルイスの3回の受賞は総て主演男優賞でおそらく今後破られる事はないだろう。破られるとすれば、ルイス自身が4回5回と伸ばして行く可能性だけである。プレゼンターのメリル・ストリープに「あなたのやるリンカーンが見たかった、私は変わりにサッチャーをやるよ」ってなスピーチはさすがってか このクラスにしか言えないジョークであります。
ショーアップも毎度の事ながら素晴らしく(殊に“レ・ミッズ”キャスト総出の歌は圧巻だった。スカイフォールを歌ったアデル(歌曲賞)が グラミーでは女王然としていたのに、アカデミーでは勝手が違ったのか膝ガクガクだったですねぇ、緊張したんでしょう。 昨年のアメリカ映画は 1100億近くの興行成績(勿論$)でメジャー各社が制作現場に戻ってきている(資金調達がしやすくなった) 今後、お馬鹿作品も増えるが 良質な作品も作り易くなるという事で、いやぁめでたい!…と脳天気にチヤンチャンでござる〓
『85thアカデミー賞』
この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ
これは悪友の映画評論家・滝川浩一が身内に流しているアカデミー評ですが、もったいないので、本人の了解を得て転載したものです
なんともバラバラの受賞で選考の混乱が見て取れる授賞式でした。
今年はユダヤテーマの作品が無かったので、ユダヤ贔屓をしようがなかったのだが、司会のセスが やたらと「お前はユダヤ人か」とか「ユダヤ人に逆らったらノミネートもされないぜ」とか言っていた。これは民族絡みと言うよりは政治絡み発言のようだ。今年のアカデミー賞は政治的な暗闘が 裏側で相当あったと思われる。
それは“アルゴ”(作品賞・脚色賞・編集賞)“0dark30”(音響編集賞のみ)“リンカーン”(主演男優賞・美術賞)と言う結果と、作品賞プレゼンターに大統領夫人が起用された事に見て取れる。
今回「アカデミー賞は俳優の投票に拠って決定される」と数回テロップが流れた。それなら“俳優協会賞”と大差ない結果になるはずながら微妙にノミネートのメンバーが違っている。 アカデミー賞の実質決定者は“ユダヤ系高齢白人”である(大物プロデューサー/配給会社)事に違いはなく、彼らが各派閥のボスとして君臨して差配している。司会のセスは、このピラミッドからは多少距離が有り、かつ「毒舌エンタティナー」でもあるので、今回のような司会が可能だった。しかも、ある程度毒舌を封じ(あれでも)、未来からカーク船長(カークはユダヤ人)が警告にやって来てセスの司会に忠告を与えるという形で中和している。 かなり裏でギリギリまで揉めたが、時間切れ手打ちになった様子が窺える。
“0 dark 30”は「現実を反映していない」との批判が政治家からかなり出ていた。これの厄介な点は民主・共和双方から別々の視点から唱えられた点(賞賛も双方から出ている)で、これに対処出来なかったため、キャサリン・ビグローは監督賞にノミネートされなかった。“アルゴ”のベン・アフレックは、その煽りを食らって道連れになったのだと思う。但し、作品賞と一体になっている脚色賞・編集賞(アルゴ) 脚本賞・編集賞(0 dark 30)に各々ノミネートされている(w・ゴールドバーグは両作品共に編集している)事でバランスを取った。結果はご存知の通り“アルゴ”の完勝、wノミネートの脚色賞は“アルゴ”での受賞、脚本賞は“ジャンゴ”にとられた(未見なのでコメントしません)
同じく微妙な政治テーマだが“0 dark30”はまだまだ生臭かったと言う事である。 この経緯からして、アカデミー協会内の「リベラル」vs「保守」の力関係は拮抗(本来「リベラル」が伝統的に強い)していると見て取れる。
この点以外は監督賞と主演女優賞が全く違う個性のぶつかり合いで、これは混乱ではなく、まさしくデットヒートであったが、その他は順当な受賞と見える。 主演男優賞D・D・ルイス(リンカーン)は未見ながら雷のごとき評価 まるで“GOD”を見るごとき物があった。まぁ“リンカーン”“フライト”“ザ・マスター”未見なので これ以上コメント出来ません。
助演男優賞 C・バルツも“ジャンゴ”を見るまで態度保留(名優だとは認めます) この人 3年で2回助演にノミネートされ2回とも受賞 しかもどちらもタランティーノの映画! こんな事も有るんですねェ。 監督賞も荒れたと見えるが準主要部門 その他の受賞数からして当然と言えるのではないだろうか。
撮影賞と視覚効果賞が“ライフ オブ パイ”なのは大納得、ところが視覚製作の「リズム&ヒューズ社(他に ジャンゴ/ハンターゲーム)」は破産していたらしい。授賞式でのスピーチから救済されたようだが、海外の同類との価格競争は今後も不安材料として残る。“レ・ミッズ”の録音賞は撮影後のアフレコではなく同時録音という新技術による。スタジオ内に限らず、ロケシーンもそうだと言うから驚異的技術である。これで外部ロケシーンの長回しに革命が起こる。
D・D・ルイスの3回の受賞は総て主演男優賞でおそらく今後破られる事はないだろう。破られるとすれば、ルイス自身が4回5回と伸ばして行く可能性だけである。プレゼンターのメリル・ストリープに「あなたのやるリンカーンが見たかった、私は変わりにサッチャーをやるよ」ってなスピーチはさすがってか このクラスにしか言えないジョークであります。
ショーアップも毎度の事ながら素晴らしく(殊に“レ・ミッズ”キャスト総出の歌は圧巻だった。スカイフォールを歌ったアデル(歌曲賞)が グラミーでは女王然としていたのに、アカデミーでは勝手が違ったのか膝ガクガクだったですねぇ、緊張したんでしょう。 昨年のアメリカ映画は 1100億近くの興行成績(勿論$)でメジャー各社が制作現場に戻ってきている(資金調達がしやすくなった) 今後、お馬鹿作品も増えるが 良質な作品も作り易くなるという事で、いやぁめでたい!…と脳天気にチヤンチャンでござる〓