大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・150『青信号になるまで……』

2020-06-02 13:16:36 | ノベル

せやさかい・150

『青信号になるまで……』ソフィア         

 

 

 任務なのだからウキウキなんかしてはいけない。

 

 自分を戒めてみるのだけど、制服に身を包んで姫と並んで歩くと、日本での生活に心が弾んでしまう。

 そのうち慣れるからと姫はおっしゃるのだけれど、狎れてはいけないと意訳して胸に収める。

 あくまでも姫のガーディアンなのだ。

 姫の身に万一のことがあれば、この身を挺してお守りしなければならない。

 狙撃の気配があれば、果敢に姫の前に立ちわが身を盾にして凶弾を受けなければならない。道行く車に、万一テロリストの車が混じってひき殺そうとすれば、姫を突き飛ばして、わが身をテロリストの贄(にえ)としなければならない。

 制服の内ポケットには家伝のニンバス。ハリーが持っていたのと同型の魔法の杖。目立ってはいけないので万年筆に擬態してある。スマホはバッテリーの容量が大きく、いざとなればスタンガンの働きをする。ローファーの爪先には十二ミリの刃が仕込んであって、回し蹴りをすれば一閃で敵の頸動脈を切ることができる。指輪とピアスには毒針が仕込んであるが、学校の規定で装身具を身に着けることは叶わない。

 他にも任務遂行のため、日本の忍者には負けないくらいの装備は身に着けているが、この数日通学して、そういうものは使わなくて済みそうな感触。

 コロナウィルスに関する備えと緊張感は感じるが、姫の身に及ぶような危機感は一ミリもない。

 このままでは、先祖代々ヤマセンブルグ公国に仕えてきたガーディアンとしての技術も魔法も失ってしまうのではないか?

 身も心も引き締めなければ!

「また、任務の事考えてる」

 今まさに渡ろうとした横断歩道の信号が赤になって、立ち止まると同時に姫が呟く。

「いえ、そんなことは……」

「ソフィアはご学友なのよ」

「ご学友? 友? いえ、友などと横並びの存在ではありません。あくまで、ソフィアは姫の臣下であります、ガーディアンであります」

「Stalking horseとも云う」

「ストーキングホースですか!?」

「そう、当て馬。わたしを一人前の王位継承者にするためのね。ソフィアが楽しく日本で過ごしてくれて、勉強の上でも生活の上でも実り多い経験をしてくれたら、わたしの良い競争相手になる。お婆様の企み」

「は、はあ」

「だから、もっと気楽に、留学生として……ううん、女子高生としてやってちょうだい。遊びとか……遊びとか……遊びとか」

「遊びばっかりですか?」

「たまにはお勉強とか……も?」

「疑問形ですか」

「そうそう、いろんなことに疑問もってチャレンジしてみる。わたしもソフィアもね」

「はい、それが姫のお為になるのなら」

「なるわ、なります。できたら、その『姫のため』っていうのは領事館の金庫にでもしまってね」

「はい、でも……」

「デモは無し。ほら、青になったわ」

「はい、ありがとうございます。こういう話をするために、赤信号にひっかかるように歩調を合わせてくださったんですね。さすがは姫君!」

「あー、友だちと喋るためのテクニックよ、姫じゃなく女子高生としてのたしなみ」

「はい」

「ああ、やっぱヤマセンブルグの言葉は微妙に時間がかかる。これからは日本語でいくからね」

「承知しました! です!」

 

 信号を渡り終えると、交差点角のベーカリーショップから焼き立てパンのいい匂いが漂ってくる。

「ね、焼き立てパン買っていこうか!?」

「あ、はい、です!」

 どうも、読まれているのはわたしの方のようだ。

 プリンセス、恐るべし。

 

 

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あたしのあした10『一件落着』

2020-06-02 06:21:09 | ノベル2

10

『一件落着』         


 

 覗き魔事件があったにかかわらず、プールの補講は続けられた。

 むろん学校も無策ではない、更衣室の外で水野先生が竹刀を持って立っている。
 犯人が同じように現れたら、すぐさまシバキ倒されて警察に突きだされるだろう。

 もう一度犯行が行われるとは思われなかった。

 でも、犯人は、もう一度やってくるだろうと、あたしは踏んでいた。

 なぜかというと、犯人があげた動画のアクセスが多いからだ。
 ヤラセではない女子高生の生着替え。顔やNGの部分にはボカシが入っているけど、なんとも生々しい。
 こういうのは愉快犯だから、アクセスが多ければ必ずやると思ったのよ。

 ギャーーーーーー!!

 予測は当たった。
 なんと犯人は、補講が始まる何時間も前から更衣室の掃除用具ロッカーに身を潜めていた。
 そして、補講女子たちが水着に着替え終わったところで飛び出して、堂々と更衣室のドアから脱出。正門から悠然と出て、待たせていた軽自動車に乗って逃走してしまった。
 水野先生に説得されて、しぶしぶ参加していた補講女子たちは、リアルに怯えてしまって、次回以降の補講を拒否した。

「先生、犯人捕まえましょう!」

 あたしは水野先生に申し入れた。
「……田中ぁ?」
 先生は申し入れよりも、言ってきたあたしに驚いてしまった。
「おまえ、辞めたんじゃないのか?」
 正直むかついた。三か月以上も不登校やっていたので、水野先生は、とっくにあたしは退学したものだと思いこんでいたのだ!

 うちの学校は、教師の連携がまるでできていない。

 でも、とりあえずは覗き魔だ!

 横田智満子を凹ませたので、補講女子たちは、あたしの言うことにコクコクと頷いた。
 もっとも対策は万全だ。あらかじめ空き教室で水着に着替えて、その上で制服を着る。
 更衣室では上に着た制服を脱ぐだけだ。更衣室内を念入りに調べてから取り掛かった。

「けっきょく来なかったわね」

 無事に補講を終えて更衣室に戻りながら関根が言う。さすがにホッとしている。
 安心して肩から水着を外したところだった……。

 ガサガサ

 更衣室の屋根裏で音がしたかと思うと、学校出入りの清涼飲料業者のユニホームを着た男がクルリンパと下りてきた。

 ウギャーーーーーー!!

 補講女子たちが悲鳴を上げ、胸を押えながらしゃがみ込む。

「待てーーーーーーー!!」

 すかさず、あたしは男を追いかけた。
 男は業者のユニホームを脱ぎながら校舎の裏を縫うように逃げていく。
 変電室の裏に回ったところで、これは旧館の裏からゴミの集積場に行くんだろうとふんだ。
 集積場は、やっと人が通れるだけの校外へのゴミ出し口がある。きっとそこから脱出するつもりなんだ!
 集積場へは旧館の廊下を突っ切って出た方が早い。
 ドタドタドタドタ……!
 廊下を突っ切ってドアを開けると、ドンピシャで集積場! 予測通り男と鉢合わせした!

「オリャーーーーー!!」

 向かってくる男の足元で仰向けになると、右足を立てて巴投げにしてやった!
 男はあっさりとノビてしまい、駆けつけた水野先生たちにグルグル巻きにされた。
 
 一件落着。

 で、気が付いた。あたしってば水着の上半身を脱いだままだった。
 なんちゅうか……追いかけている間、あたしは女であるという意識が完全に無くなっていたのだ。
 
 

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メタモルフォーゼ・11『メタモルフォーゼの意味』

2020-06-02 06:07:08 | 小説6

メタモルフォーゼ

11『メタモルフォーゼの意味』       

 


 ショックだった、道具がみんな壊されている……!

 コンクール本番の早朝、道具を搬出しようとしてクラブハウスの前に来てみると、ゆうべキチンとブルーシートを被せておいた道具は、メチャクチャに壊されていた。秋元先生も、杉村も呆然だった。
「警察に届けた方がいいですよ」
 運送屋の運ちゃんが親切に言ってくれた。
「ちょっと、待ってください……」
 秋元先生は、植え込みの中から何かを取りだした。

 ビデオカメラだ。

「昨日『凶』引いちゃったから、用心に仕掛けといたんだ」
 先生は、みんなの真ん中で再生した。暗視カメラになっていて、薄暗い常夜灯の明かりだけでも、しっかり写っていた。
 塀を乗り越えて、三人の若い男が入ってきて、道具といっしょに置いていたガチ袋の中から、ナグリ(トンカチ)やバールを出して、道具を壊しているのが鮮明に写っていた。

「先生、こいつ、ミユのこと隠し撮りしていたB組の中本ですよ!」
 手伝いに来ていたミキが指摘した。
「そうだ、間違いないですよ!」
 みんなも同意見だった。
「いや、帽子が陰になって、鼻から上が分からん。軽率に断定はできない」
「そんな、先生……」
「断定できないから、警察に届けられるんだ」

 あ、と、あたしたちは思った。ウチの生徒と分かっていれば、軽々とは動けない。初めて先生を尊敬した。

 先生は、校長に連絡を入れると警察に電話した。
「でも、先生、道具は……」
「どうしようもないな……」

 みんなが肩を落とした。

「ボクに、いい考えがあります」
「検証が終わるまで、この道具には手がつけられないぞ」
「違います。これは、もう直せないぐらいに壊されています。他のモノを使います」
 杉村が目を付けたのは、掃除用具入れのロッカーと、部室に昔からあるちゃぶ台だった。
「ミユ先輩。これでいきましょう」

 学校には先生が残った。警察の対応するためだ。

 あたし達が必要なモノをトラックに積み、出発の準備が終わった頃、警察と新聞社がいっしょに来た。あたしはトラックに乗るつもりだったけど、状況説明のために残された。
「うちは、昼の一番だ。現場検証が終わったら、タクシーで行け」
 先生は、そう言ってくれたが、お巡りさんも気を遣ってくれ、ザッと説明したあとは、連絡先の電話番号を聞いておしまいにしてくれた。

 会場校に着いて荷下ろしをすると、杉村はガチ袋から、金属ばさみを出してロッカーを加工した。裏側に出入り出来る穴を開け、正面の通風口を広げてミッションの書類が出てくるように工夫してくれた(どんな風に使うかは、You tube で見てね)

 リハでは、壊された道具を使っていたので勝手が違う。道具をつかうところだけ、二度確認した。

 あたしは舞台上で五回も着替えがあるので、楽屋に入って、杉村と衣装の受け渡し、着替えのダンドリをシミュレーションした……よし、大丈夫!

 本番は、どうなるかと思ったけど、直前に秋元先生も間に合ってホッとした。なんといっても照明と効果のオペは、先生がやるのだ。イザとなったら、照明はツケッパで、効果音は自分の口でやろうと思っていた。

 幕開き前に、あたしの中に、何かが降りてきた。優香なのか受売の神さまなのか、ノラという役の魂なのか、分からなかったが、確実に、あたしの中に、それは降りてきていた。

 気がつけば、満場の拍手の中に幕が下りてきた。

 演劇部に入って、いや、人生の中で一番不思議で充実した五十五分だった。『ダウンロ-ド』は一人芝居だけど、見えない相手役が何人もいる。舞台にいる間、その相手役は、あたしにはおぼろに見えていた。そして観てくださっているお客さんとも呼吸が合った。両方とも初めての体験だった。

――ああ、あたしは、このためにメタモルフォーゼしたのか――

 そう感じたが、あたしのメタモルフォーゼの意味は、さらに深いところにあった……。

 つづく

 

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新・ここは世田谷豪徳寺・29《尾てい骨骨折・6》

2020-06-02 05:53:54 | 小説3

ここ世田谷豪徳寺・29(さくら編)
≪尾てい骨骨折・6≫     



 

「放送局が取材の申し込みに来てるんだけど、どうする?」

 朝礼のあとに担任の水野亜紀先生に、囁くような声で聞かれた。

「え、うそ!?」

 デカイ返事というかリアクションになってしまった。

 一時間目の準備をしていたクラスのみんなが聞き耳頭巾になってしまった。

 ただの放送局なら、たとえテレビ東京でもフジテレビでも断った。
「……分かりました」
 そう答えたのは、うちの理事長が会長を務めている帝都テレビだからだ。先生の顔にも――断らないで――と書いてあった。
「すごいよ、さくら。アクセス2万超えてるよ!」
 先生が機嫌よく教室を出て行ったあと、恵里奈がスマホを見せた。
「え、夕べは1000だったんだよ」
「いつの夕べよ。わたしが寝る前は1万近くにいってたわよ!」
 宵っ張りのマクサがいうと、みんながスマホでYouTubeを検索し始めた……。

 

 取材は、4時間目の数学から始まった。数学の沢野先生とは尾てい骨の一件から微妙な関係なので、渡りに船ではある。

 

「今日は、昨日からYouTubeで怒涛の3万件(朝から1万件増えてる)のアクセスを取っている『ゴンドラの唄 桜』を歌っている佐倉さくらさんがいる帝都女学院の2年A組からお送りしております。A組の皆さんでーす!」
 ウワーーー!!
 カメラがパンして教室をナメる。普段お嬢様学校で通っている帝都も、こういう状況では、ただのミーハーだ。双子の兄を亡くしたばかりの由美が元気そうなのは嬉しいけど、あたしは尾てい骨を庇いながら小さくなっていた。

 どうしよう、今日は勝負パンツじゃないのにい!

 MCは、局アナではあるけど、人気があって最近独立の噂がある二階堂健太だ。当然クラスのみんなもファンが多いし、また女子高生の興味をひくツボをよく心得ている。
「いやあ、昨日ってか、ほんの12時間前にはただの女子高生だった佐倉さくらさんが、たった一晩でYouTubeのスターになっちゃった。ほんの半日でアクセス3万……え、今3・5万。すごいね、これプロでCDの売り上げだったら、レコード大賞間違いなしだね。いったい、どういうつっかけ、いや、きっかけで……?」
 上手い誘導にひっかかって、いきさつのほとんどを喋らされた。
「そうなんだ。不思議な縁だよね。お彼岸にひいお祖母さんの夢を見て、音楽のテストで無意識に歌ってたなんてね。そいで校長先生のお母さんがお知りになって、動画でアップされて……なんか因縁めいたものを感じるんだけど、佐倉さん、今までは普通に歌えるだけって言っちゃ失礼なんだけど、それが突然でしょ。映画やテレビとかだったら、例えばひいお祖母ちゃんが憑依するっていっても、なんかきっかけあるよね。なんか特別なものを食べたり、衝撃的な出来事にあったり……」
 そのとき席変わりして、あたしの後ろに来ていた恵里奈が、あたしの尾てい骨をシャーペンでつついた。
「ウグ……ッ!!」
「あ、どうしたさくらちゃん?」
 親しみのこもった二階堂アナの声に、みんながクスクス笑う。
「さくらは、尾てい骨骨折してますねんわ!」
 恵里奈がただでさえ目立つ大阪弁の大声で、公共の電波でバラシてしまった。

 

「ひいお祖母ちゃんと尾てい骨骨折。これは決まりだ! 今年の都市伝説大賞! あったらあげたいね(^▽^)/」
 またクラスが大爆笑になった。
 そのあとの終礼は、あたしだけ免除されて音楽室へ。もうそこは音声さんや照明さんがスタンバイ。美音先生がピアノで前奏を弾き始めだした。

 

 あたしは、てっきり収録かと思っていたら、土曜の昼バラの生中継だった。帰り道、そんなに多くはいなかったけど、あたしのことを見てヒソヒソ言ってるオバサンたちがいた。まあ、YouTubeでは顔が出てるんだから、こんなもんかと思ったが、豪徳寺の駅前で出会った四ノ宮クンの一言が決定打だった。

「よう、昼の中継とってもよかったよ。商店街のスターだぜ!」

 あたしは、裏路地をひろうようにして家に帰った。

 

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