魔法少女マヂカ・160
宇都宮の釣り天井は徳川初期の謀反事件として有名だ。
天一坊事件、由井正雪事件と並ぶ謀反で、戦前は講談や活動写真で取り上げられ、戦後も市川歌右衛門の旗本退屈男の天然色映画になっている。
市川歌右衛門というのは北大路欣也の父親だ、ほらスマホのCMに出てる犬のお父さんの声をやってる。
友里が?顔をしているので、思わず語ってしまったが、天井は刻一刻と降りてくる。
「天井が降りてくるとどうなるの?」
「普通の天井なら簡単に突き破れるだろうけど、たぶん製鉄所のプレス機ほどの圧力だろう」
「それって、どれくらい?」
「金の指輪をプレスしたら学校のグラウンドくらいの広さになる圧力」
ヒエーー!
友里とツンが悲鳴を上げる。
魔法を使えば、わたし一人なら何とかなるだろうが、友里とツンを置いていくわけにはいかない。
ズシーーーーーン! ズシーーーーーン!!
圧の違う二つの地響きが近づいてくる。
わん!
「東京タワーと宇都宮タワーが近づいてくる!」
ドボボーーーーン!
「堀に落ちたな」
ガシーーーン! ガシャーーーン! グゥアッシャーーーン!!
「もつれ合っている」
「わたしにしがみ付け、少しは紛れる。ツンも来い」
わん!
返事はするがお座りの姿勢のまま天井を見上げている。さすがは西郷さんの猟犬だ、最後まで戦う姿勢なのだ。女子中学生の姿のままなので四つん這いで身構えてパンツ丸出しなのが可笑しくも健気、この危機を乗り越えられたら、ちょっと考えてやろう。
ドガドガ! ドッガーーーン!! グゥアッシャーーーン!!!
二つのタワーがもつれ合って倒れたのだろう、木造の建物が微塵になる音が震度マックスの地響きと共にした。
「マヂカ、壁に亀裂が!」
わん!
友里の発見にツンが気づいて駆けていく。
わんわん!
亀裂から抜けられるかもしれないと、ツンが吠える。
「今行く!」
亀裂に近寄ると、ツンは器用に身をくねらせて亀裂を抜けて見せた。西郷さんと狩りに行って藪やら兎の穴に潜ったりするので、お手の物なんだろう。
「友里、ツンに続け!」
「う、うん」
ツンほど体が柔らかいわけではないが、つかえながらも抜けていく。
「マヂカ、来て!」
「わん!」
差し出される二人の手に助けられて抜け……ようとしたが、胸がつかえた。
「マヂカ、胸おっきすぎ……」
「わん!」
「Dカップになってきたか?」
「ちょっと、嫌味」
「そういうつもりはないんだが……よし、息を吐きだした瞬間に引っ張ってくれ!」
セイ!
「おお!」
「わん!」
「胸は抜けた……がな」
今度は尻がつかえてしまう。
「マヂカ、ちょっとダイエットを……」
「うるさい!」
千年以上も魔法少女をやっている、いつのまにか少女という体型ではなくなってきたのだろうか……いや、考えている場合ではない。
ズッゴーーーーーーーーーン!! ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーン!!
聞き覚えのある衝撃音、同時に御殿が崩れ始め、亀裂が広がって、友里とツンを両脇に抱えて、本丸の端まで跳躍した。
北斗だ!
特務師団高機動車の北斗がパルスガ発射直後の残光を身にまとって南の空に浮かんでいる。
ゴ ゴゴ ゴ ゴゴゴ ゴ ゴ ゴゴ…………ゴーーーーーー!!
フリーズ寸前のゲーム画面のように、コマ落ちしながら近づいてくると、急にバグが直ったように高速で北の空に消えてしまった。二つのタワーは姿が見えない。城の北側が破壊されているので、そこから日光街道沿いに進んでいったのだろう。
とりあえず、釣り天井に圧殺される恐れが無くなって、一息つける。
「みんなが手を振ってたよ!」
北斗はC58の姿をしているので、キャブ以外に人の姿は見えるはずも無いのだが、わたしもハッキリ見た。安倍隊長が、ノンコが、清美が、ブリンダとサムがわたしたちに手を振ってくれていたのを。