大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記 序・4『JQ』

2020-06-16 13:55:08 | 小説4

序・4『JQ』    

 

 

 

 やられた……ホログラムはホールの客たちの方だ。

 

 このカルチェタランのホールでリアルなのは、このテーブルで向かい合っているグランマと俺と、グランマの斜め後ろでつましく立ってる湖姫の踊り子だけだ。

「客席がイリュージョンだったとは、完全に負けてしまったな」

「明日にでも戦争が始まると言うのに、のんびりショーを楽しもうなんて人は……」

「ここに居るぞ」

「今日はね、ムッシュにだけ見てもらいたかったからクローズにしてるのよ。でも、こいうところのショーは、ほどよくお客が居なきゃ雰囲気が出ないでしょ」

「それは光栄なことだ。でも、プリマドンナを立たせたままにしておく光栄は身に余る」

「そうね、座ってJQ(ジェーキュー)」

「はい、グランマ」

「こちら、マンチュリー駐留軍司令の児玉少将」

「初めまして、カルチェタランの専属ダンサーをやっていますJQです。今日は拙いダンスを見ていただいてありがとうございます」

 古典的な言い回しだが、鈴を転がしたような声だ。それに……似ている。

「フフ、モデルはわたしだから似ていて当然よ」

「え……ロボットなのか?」

「そうよ、敷島先生会心の作」

「技研の敷島所長?」

「元所長、いくらわたしの崇拝者だっていっても、現役の技研トップには頼めないわ」

 敷島教授は、陸軍総合技術研究所の所長をやっていた人物で、軍用ロボットの世界的な権威だ。昨年、三年延ばした定年を、もう一年延ばそうと言う官邸筋の意向を丁寧に断って退官したと聞き及んでいる。

 その敷島教授の作品だ、俺のような現場一辺倒の軍人には見破れないだろうが、シャクだ。

「瞳孔が開きまくってるわよ。なんだか、初恋したばかりの男子高校生」

「グランマの前だからね」

「JQはね、わたしのスキルとパターンを完全にマスターしてるの」

「そう言えば、横須賀で出会った頃のグランマの雰囲気だ。ちょっと声が……」

「元々は、こういう声なのよ。無茶な生活で声を潰しちゃったけど」

「まあ、あのころのグランマは尖がっていて、そこがまた魅力だから隊長も班長も『美音には近づくな』って言ってたけどな」

「そうよ、陸さんは純情な人が多かったから……いい勉強になったわ」

 あ、ごまかした……と思ったが、咎めずにグランマの結論を引き出しにかかった。

「なにか無茶な頼みがあるんだろ? 敷島教授ほどではないが、俺もグランマには借りがあるからな」

「ありがとうムッシュ……実は、JQを預かって欲しいの」

「俺が?」

「明日、マンチュリーを離れる。最後の便に乗ってね。乗れるのは人間だけでしょ」

 紛争地域からのロボットの移動は禁止されている。ロボットは、どんな情報を持っているか知れないし、後方かく乱やテロに使われる恐れがあるので、国際的に禁止されているのだ。

 そこに驚くことは無いのだが、グランマはマンチュリーに残ると思っていたのだ。戦端が開かれれば、このカルチェタランは無事では済まないだろうからだ。ただ、マンチュリーは広い。贅沢を言わなければ身を寄せるところはいくらでもある。一般人ならともかく、政府や軍の上層部どころかロシアや北京にも顔の効くグランマなら、そうするだろうと思った。

「ステージ4のキャンサーなのよ」

「キャンサー!?」

 キャンサーとは癌の事である。並の癌ならば、いくらでも治療法がある。大昔のように外科手術をやることもなく、ナノリペアーの入ったカプセルを飲めば一週間余りで完治する。

 二十三世紀で言うキャンサーとはパルスキャンサーのことだ。

 二十三世紀の動力やエネルギーの元になっているのがパルスだ。このパルスの影響で、数百万人に一人の割で罹患するのがPC(パルスキャンサー)だ。

 ナノマシーンを使うことも出来ず、例外的に患部の手術に寄る治療しか道は無い。

 それも、ステージ4……マンチュリーの医療水準では治療は難しいだろう。

「なぜ、そこまで放っておいたんだ」

「気が付いたら遅かった。だから、敷島先生に頼んだのよ。PIのできるロボットを作って欲しいって」

「ピーアイ……パーフェクトインストール……!?」

 

 量子コンピューターや有機コンピューターが一般化した今日、ロボットに人間のスキルやパターンをインストールすることは当たり前にできる。軍隊のロボット兵士なら、過去の優れた兵士のそれをインストして、世界一のスキルを持たせることができる。

 しかし、人間の本質である狭義の人格(ソウル、スピリット、ゴースト、魂とかいうもの)はインストールできない。

 人格インストールをすると、インストールさせた人間は確実に死んでしまう。また、インストールされたロボットは、PCもOSも機能しなくなり、人間で言うところの死に至ってしまう。

 推定される問題はいくつかあるが、最後のカギに当る部分の移送が、今の科学技術では不可能ということになっている。

 もし、人格移送が出来るのなら、人間は機械の肉体を得て、理論的には永久に生き続けられるだろう。

 

「まだね、生きていたいのよ。生きて、自分の歌と踊りを磨きたいの。惟任美音の最後の賭けをやりたいの。そのためには、わたしもJQも生き続けなければなのよ」

「なら、機能を停止させて、安全なところに保管すればいい」

「ここに来る途中に孫大人に会ったでしょ」

「ああ、食えない奴で、口では日本の肩を持っているがね」

「あいつ、JQを狙ってるのよ。他にもいる。JQはレアなパーツを使ってるし、敷島先生の新機軸的なハードやソフトやらが惜しげもなく使われてる。バラして処分してもジャンクとは思えない値が付く。パーフェクトなら北京でもモスクワでも言い値で買ってくれるわ……お願い、昔のよしみで……」

 

 俺は、JQを預かることになってしまった。 

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小説学校時代 16『昇降口』

2020-06-16 06:49:54 | エッセー

 16

『昇降口』     




 割合は分かりませんが、多くの学校が二足制だろうと思います。

 アニメで学校が舞台だと、たいてい出てきますね。

 

 学校に着いたら、全生徒の下駄箱があるところで上履きに履き替えて教室に行きます。

 この下駄箱のある空間をどう呼んでいるでしょうか?

 

 わたしは、ずっと下足室と呼んできました。   

 生徒の時と教師になってからと六校しか経験がありませんが、聞いた限りにおいても下足室が多いようです。

 ライトノベルを読むようになってから気づきました。

 読んだ限りは『昇降口』です。

 登校時は、下足から上履きへ。下校時は上履きから下足へ。

 

 履き替えることに寄って良いと思われることがあります。

 

 校舎内に持ち込む土砂の量がグンと減ります。

 晴れた日のアスファルト道を歩いていても、靴には結構な量の土砂が付着しています。

 一人が少なく見積もって一グラムの土砂を持ち込むとして、生徒数七百で700グラム、月に14キロ、年間では100キロ以上の土砂が持ち込まれます。雨の日や体育のあとなどを計算に入れれば、おそらく一トン以上の量になるでしょう。

 それを未然に履き替えるということで低減できるのですから、優れた制度、あるいは慣習だと思われます。

 もう一つは、履き替えることで気持ちの切り替えができることです。

 むろん、気持ちの切り替えは他にもいろいろあります。

 制服に着替えた時、カバンを持って家を出た時、通学の電車に乗った時と下りた時、ここを曲がったら校門が見える角を曲がった時、校門を潜った時、教室に入った時、他にも色々。

 でも、全生徒が同じ場所で履き替えるという生活習慣を繰り返す下足室・昇降口の意義は大きいと思います。

 日本人には当たり前の二足制も、欧米の高校生には、奇妙にも新鮮にも感じられます。

「二足制と言うのはね、校外で靴の底に付いてきた穢れ……分かるかなあ、学校の外には霊とか、妖怪とか、ほら、ゲゲゲの鬼太郎なんかに、よく出てくるでしょ、ああいうものを校舎の中に持ち込まないためなんだよ」

 二足制を不思議に思う高校生に言うと、日本人なら「なにをアホなことを」と笑い飛ばされますが、外国の高校生なら「そうだね、そう言えば、日本人は畳を使わなくなっても、家に入る時は靴を脱ぐもんねえ、なるほどね……」と感心してくれます。今回のコロナ騒ぎでも、日本での罹患者や死亡者が少なかったのは、この二足制の影響かもと言われています。

 物の怪・妖怪の類はともかく、気持ちが切り替わることに意義は無いでしょう。

 

 では、なぜ下足室・昇降口と呼び方が違うのか、二足制のアレコレと合わせて、次回、また考察したいと思います。

 

 

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あたしのあした・24『タヒチアンダンス』

2020-06-16 06:40:55 | ノベル2

・24
『タヒチアンダンス』
      


 タンタンタンタンタッチャラタンタンタン! タンタンタンタンタッチャラタンタンタン! タンタンタンタンタッチャラタンタンタン! タンタンタンタンタッチャラタンタンタン! タンタンタンタンタッチャラタンタンタン!

 正確には書けないけど、こんなテンポ!

 でもって、間にキャーキャーキャーと黄色い声が入る。
 コスはハワイのフラダンスみたいにセパレートになっていて、腰ミノっての? パレオになってて、手には赤や白のポンポンてかハタキの先っぽみたいなの持って、頭や腰に花がいっぱい。
 でもって、腰の蝶番がどうにかなってしまうんじゃないかっていうほどにプルプル振っちゃう!

 そして、なにより満面の笑顔ってか、弾ける笑顔!

 そんなのが二十人ほどでぶっ飛んでる!!       

 あたしたちが観たタヒチアンダンスを文字で表現すると、こんな感じ。
 もう、みんなプールの補講どころじゃなくなって、プールの水の中で棒立ちになってしまった。

「こら、ちゃんと泳がんか!」

 プールサイドで水野先生が怒鳴ったような気がしたんだけど、あたしたちは完全に飲み込まれてしまった。

 ウ、ウ、ウワーーン!

 智満子が爆発したように泣き出した。
 水野先生は「アレ?」てな顔をしているけど、あたしたちには分かる。
 智満子は一大感動を発してしまったんだ。人間感動しすぎると泣いちゃうものなんだ。
 あたしたちもみんな涙で前が見えなくなってしまったもんね。


「いや、すみませんでした。タヒチアンダンス部の練習とかぶってしまって」
 福井理事長先生が、着替えの終わったあたしたちに頭を下げた。
「いや、無理を言ってお借りしているのは、うちの方ですから……」

 メッチャ感動しました!!

 あたしたちの声が水野先生の社交辞令を吹っ飛ばしてしまった。
「あの人たち、ほんとうに高校生なんですか!?」
「ええ、きみたちと同じ女子高生ですよ」
「なんで、あんなにすごいんですか!?」
「それは、あなたたちの方だ」

「「「「「「「「え?」」」」」」」」

「わたしたちは毎日観てますからね、上手いとは思うけれども、あなたたちのように感動することがありません。いや、あらためて、うちのダンス部を認識しましたよ」

 福井理事長先生がひどく恐縮して、汗を拭いた。

 今日は、ほんとうにありがとうございました!

 送迎バスに乗ろうとしたら、プール棟の方から一クラス分ほどのジャージ姿が出てきてお礼を言った。
 それが、タヒチアンダンス部の子たちだと気づくのには二呼吸ほどの間がいった。
 ジャージ姿の彼女たちは、あたしたちと変わらない高校生だった。
 補講女子たちの方が、女子高生としては今風で、素のこの子たちに出会っていたら単なるモブ子たちとしか認識しなかっただろう。
 あまりに大きな感動をもらってしまうと、身体が動かない。
 もし、彼女たちがAKBとかだったら、キャーキャー言いながら駆け寄れただろう。
 あたしたちは、豆鉄砲くらった鳩みたいに突っ立ってるしかできない。

「ありがとう!」

 智満子が駆け出して、彼女たちに駆け寄った。
 やっとあたしたちも後を追いかけて、智満子の後ろに並んだ。そして、ダンス部の一人一人との握手会になった。

 ……智満子の才能を発見した。

 錆びついていたけど、智満子には人より強く感動する心があるんだ。

 この心が伸びて行けば、智満子は強面のボスではなくてちゃんとしたリーダーになれるんじゃないかと思った。

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プレリュード・1《七月生まれ》

2020-06-16 06:33:44 | 小説3

・1
《七月生まれ》   



 

 本当は七と付けられるところだった。

 七月生まれなので音の響きもいいし、何といっても画数がたったの二画。覚えやすいし書きやすいので、そうつけられるところだったらしい。
 しかし、亡くなったお祖父ちゃんが「あんまり簡単すぎひんか」ということで、苗字の『渡辺』とのバランスやら画数の吉凶を考えた末に、生まれて五日目に「奈菜」と付けられたそうだ。

 
 今日は天神さんの1000人丸かぶりに行ってきました。

 朝の九時から並んで、早い者勝ちかと思ったら十時半から整理券が配られて、時間までに来た人はあらかた整理券もらってた。
 連れの直美といっしょに西南西の方角向いて、1000人の一人としてかぶりついてきました。

 え、なんで高校生が平日の朝から、こんなことができるかて?

 わたしは、U学院高校の三年生なのです。

 進路も決まって、事実上高校生活はおしまい。二十七日の卒業式まで、予行やらなんやらで三日行ったらジエンド。だから、今はほ毎日好き放題にやってます。

 大げさに言ったらモラトリアムかな……ちょっと心理学用語としては不正確。大学入学までは二か月。モラトリアムというのには短い。

 エピローグ……きれいに言えるほど、わたしの高校生活は美しいというか、充実していなかった。それになんだか店じまいみたいで今の気分には馴染まない。

 そこで、なんとなく浮かんだのがプレリュード。英語の授業で習ったんだけど、はっきりした意味は忘れた。

 それでも、電子辞書引くと、前触れ、前兆、前奏曲というような言葉が並んでた。けっこう本質的なところで理解してると自画自賛。そして、この方が前向きな雰囲気なので、大学入学までの二か月余りを記録に残すことにしました。

 繁盛亭に寄って古典芸能にいそしんでみよかと思ったけど、懐事情と時間を秤にかけて、繁盛亭の前にある赤い人力車の前で写メとっておしまい……と思ったら、その横に教科書で見た日本初の郵便ポスト。習った通り、真っ黒いボディー。よう見たら、なんとこれが現役のポスト。シャレが効いてますなあ。

 丸かぶり食べてお腹大きいから、喫茶店でお茶にする。

 天神橋筋商店街は、日本一長い商店街だけど、飲食店の数もはんぱじゃない。せっかくなので、古そうな店を探して入る。
「え、創立七十年なんですか!?」
 ウエイターのおにーさんに聞いたら、即返事。
「いやいや、戦前の分入れたら、あらかた百年や。そうだ、これをどうぞ」
 

 マスターがくれたのはお店の絵葉書。開店七十周年記念に作ったと言う絵葉書セット。昔の天六界隈のイラストが描かれている。常連客のイラストレーターさんが自分も勉強になるというのでコーヒー券十枚と交換で描いてくれたものらしい。

「あら、天神さんのが二枚入ってる」

「あ、プリンターで作った手作りやから、数え間違うたんやなあ(*´ω`*)」

「そうだ……」

「え、誰かに出すの?」

「自分宛てに、ほら、さっきのポスト」

「ああ、繁盛停の!?」

「それやったら、切手、原価で分けたげるよ」

 マスターに切手を分けてもらって、今日の日付と『プレリュードの始まり始り』とだけ書く。直美もその気になって天六商店街入り口のを選んで書きはじめる。

 直美と徒然なるままに喋って、もう一度繁盛亭に寄ってエア葉書を投函。投函して、なぜかポストに手を合わす二人。

「なんだか、神社にお参りの雰囲気になってる!」

 アハハと笑い合って、そういえば天神さんのお参りを忘れてるので、もう一度天神さんに寄って、きちんとお参りしておく。

 あっという間に三時半。

 天満の駅で、直美とは外回りと内回りでお別れ。

 わたしは外回り。桜ノ宮と大阪城公園の駅では、外の景色に注目。桜の木が、いかにもプレリュード。パッと見ではガリボチョの裸の樹だけど、枝のあちこちに硬い蕾を孕んだ春の勢いが感じられる。
 これが満開になるころには大学生。高校入る時とは違う嬉しい期待感。

 アイムホーム!

 ちょっと気取って英語で玄関に入る。

 そのまま三階の部屋に上がって着替えて降りる。
 で、ダイニングのテーブル見たら、なんと恵方巻のデッカイのんが人数分。正直ゲンナリ。
「ほんなら、西南西の方向いて」
 お母さんの言葉に、お父さんも亮介(アニキ)は素直に従う。わたし一人ちょっとだけ方角向いて、あとはテーブルでボソボソ。

「奈菜、調子悪いんか?」と亮介。

 天神さんに恵方巻食べに行くいうのん言い忘れてたとは、言えませんでした。     

 奈菜……♡

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