大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

小説学校時代・04 大人扱い・3

2020-06-03 16:05:18 | エッセー

学校時代 04 

大人扱い・3『書体』  

 

 1970年の安保改定を前にした二三年、全国的に学園紛争の嵐が吹き荒れました。

 大学の正門やピロティーにベニヤ製のパネルに独特の書体でスローガンやアジ文が書かれて、何枚何十枚と立てかけられていました。ヘルメットにタオルの覆面、ハンドスピーカーでアジ演説しながらアジびらが配られ、時にはカンパの募金箱。

 学生会館やクラブハウスには学校はおろか学生自治会の人間も立ち入れません。講義中にメット姿の活動家学生が乗り込んできて、講義を中断して演説したりカンパを募ったり。意に沿わない教授をつるし上げたり、大衆団交をやって高齢の学長や女子学生が倒れて救急車を呼んだり、とりまいたり。ストをやったりピケを張ったり、学内デモをやったり、騒然とした数年間でした。

 

 これを高校でもやっていました。

 

 制服の廃止、進路別学級編成の反対、生徒の職員会議傍聴要求、中教審答申の反対声明の要求、食堂の値上げ反対……。
 要求は様々でしたが、今から思うと無理難題やイチャモンでありました。

 簡単に言えば、カッコいい大学生の真似っこでありました。正門横に張り出されたアジ看板は、向かって右が見事な東大風、左が京大風です。

 

 ある高校では、制服は非人間的な画一化教育の現れであり、廃止すべきと生徒たちが要求しました。

 そもそも詰襟は、明治日本の軍服が元になっている! セーラー服は水兵服だ! 制服で学校が知れてしまう! 高校生にファッションの自由を! まあ、いろんな理屈がありました。

 結局、その学校は次年度からの制服を廃止しして私服に変えましたが、新入生の大半は自由購買になった旧制服を着て入学式に臨みました。

 どういうルートがあったのか、国連で「わたしたちは、こんな制服を強制されているんです!」と演説する機会を得た高校生たちが居ました。

「そんなに良い制服を着られて、どこに文句があるのか?」

「クールじゃない、制服があったら、毎朝着るものに苦労しなくて済むんじゃない?」

 世界は大半、そういう反応でした。

 その学校は今世紀に入って再び無事に制服に戻りました。

 ある学校では、進路別学級編成を教育差別だとして、半年にわたる紛争になりました。校内のあちこちで討論集会や生徒集会、あるいは大衆団交が行われ、その都度授業がストップしました。ガラスが割られ、空き部室が活動拠点として治外法権になり、酒やたばこも持ち込まれていました。

 学校は手を出せません。手を出せない学校を活動家の生徒たちはバカにして、ほとんど授業にも出なくなりました。

 夏休みを挟んで、朝夕が涼しくなると、多くの生徒が冷めていき、活動家の生徒たちも正気に戻って自分の進路が心配になってきました。

 あっさりヘルメットを捨てて、進路相談のために進路指導室に通うようになりました。相談相手は徹夜の大衆団交でドクターストップのかかった進路指導部長。「こんなことをやっても、学校のためにも君らのためにもならない!」と叫んでいた先生に「反動!」「ナンセンス!」と封じてきた生徒君ですが、先生は咎めません。むろん、生徒も「すみませんでした」の一言もありません。

 ノンポリの大学生の兄に見てもらった書類は完璧な内容でした。生徒は内心『どんなもんだ』とつまらないプライドを守りました。ありがとうございましたの一言も言わずに席を立ちました。

「あ、ひとつだけねえ」

「なに?」

「内容には問題ないがね、その字はだめだよ。アジビラの書体でしょ、書き直した方がいいよ。ま、君の自由だけど」

 そいつは、近場の京大に通って一年がかりで書体を身に着けたのですが、なかなか元に戻らず、それが原因なのか、志望校は全て落ちました。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

メタモルフォーゼ・12『オトンボのミソッカス』

2020-06-03 06:14:55 | 小説6

メタモルフォーゼ

12『オトンボのミソッカス』      

 


 最優秀賞 受売(うずめ)高校 大橋むつお作『ダウンロ-ド』!

 嬉しいショックのあまり息が止まりそうだった。なぜか下半身がジーンと痺れたような感覚。
 え、なに、この感覚? こんなの初めてだよ……!?

 あ、おしっこをチビルってのは、こんなのか……括約筋にグッと力を入れて我慢した。

 賞状をもらって壇上で振り返ると、秋元先生はじめ、助けてくれた人、心配してくれた人たちの拍手する姿が目に入り、ニッコリしながらも目頭が熱くなった。
 それから閉会式の間、あたしは嬉しい悲鳴をあげながらもみくちゃにされていた。

「あ、剣持さんが来てる……」

 ホマの声で、みんなが一斉にそっちを見た。
 あたしでも知っている三年生で一番のナイスガイと評判の倉持健介……さんが来ていた。ユミがスマホを出してシャメろうとした。
「チッ……!」
 シャメる前に、他校の女子生徒が三人来て取り巻き、その子達がチヤホヤしだした。倉持さんは慣れた笑顔であしらいながら出口に向かった。女の子達が後に続く。
「ま、もてる人だから、オッカケの子たちの義理で来たんだろうね」
 クラス一番モテカワのミキでさえ、倉持さんは別格のようだった……。

 家に帰ると、みんな、それぞれにくつろいでいる。

 お母さんはルミネエといっしょにミカンの皮を剥きながらテレビドラマを見ている。
 ミレネエは、お風呂から上がったとこらしく、パジャマ姿にタオルで頭くるんでソファー。やっぱ、テレビが気になるよう。頭を左右に振りながら「見れねえ」とシャレのようなグチを言ってる。親と姉が邪魔でテレビが見づらそう。
 レミネエは、我関せずと自分の部屋でパソコンらしい。キーボ-ド叩く音がしている。
「ただいま。コンクールで最優秀とった……」
「やっぱ、エグザイルはいいわ。犬の娘が結婚するわけだ」
「進一兄ちゃんも、ここまで努力したら、トバされずにすんだのかもね……あ、美優帰ってたんだ。ただいまぐらい言いなよ」
「言ったよ」
 女子になったころは珍しくて、うるさいほどに面倒みてくれたけど、もう慣れたというか飽きたというか、進二だったころと同じく空気みたいになってしまった。ま、いいけど。
「先にお風呂入っていい?」
「うん」が二つと「どうぞ」が一個聞こえてきた。
「じゃ、お先……」

 着替え持って、脱衣場でほとんど裸になったときにミレネエが、入浴剤の匂いをさせ、なにか喚きながら、あたしをリビングに引き戻した。
「美優の学校大変だったんだね、侵入者に演劇部の道具壊されたって、で、犯人掴まったそうだよ!」
――今朝、受売高校に侵入し、演劇部の道具などを壊した容疑で、S高校の少年AとB、それに同校の少年が、侵入と器物損壊の容疑で検挙されました――
「大変だったんだね、美優……美優、なにおパンツ一丁で。あんた女の子なんだから……」
「ちょ、ちょっと!」
 テレビが、続きを言っていた。
――なお、受売高校演劇部は、この御難にもかかわらず、地区大会で見事最優秀を獲得いたしました――
「美優、やったじゃん! なんで言わないのさ!?」
「言ったわよ、ただ今といっしょに……あの、寒いんで、お風呂入っていい?」
「さっさと入っといで!」
 と、引っぱり出してきたミレネエが……言うか?
「上がったら、お祝いしよう!」
「ほんと!?」
 あたしは、急いでお風呂に入った。しかし女子になってから、お風呂の時間が長くなった。
 お風呂から上がると、祝勝会は、すでに始まっていた。改めて乾杯はしてくれたけど、話題は、いつの間にか、職場、ご近所のうわさ話になった。

 やっぱ、あたしは男でいても女になっても、オトンボのミソッカスに変わりはないようだ。

 つづく

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

あたしのあした11『関根……さんと仲良くなる』

2020-06-03 06:04:41 | ノベル2

た・11
『関根……さんと仲良くなる』
      


 

 覗き魔事件はおさまったけど、あたしの気持ちはおさまらなかった。

 水野先生の反応でも分かったとおり、学校はあたしの復活を本物とは思っていなかった。
 だって、あたしもプールには一回も入っていないのよ。だったら、他の補講女子といっしょに水泳の補講を受けているはず。
 あたしには補講の連絡もなかった。
 つまり、あたしの復活は気まぐれで、いずれは来なくなると、先生たちは踏んでいたのだ。

「今からだと、十月の下旬まで入らなくちゃならないぞ」

 水野先生は脅かすように言う。

 学校の不手際なんだから、文句の言いようは幾通りもある。場合によっちゃ教育委員会に直訴する手もある。その時の弁護士の立て方さえ浮かんできた。
 良くも悪くも、深く学校に関わるつもりなんかない。
 だから「承知しております!」と男のように返事をする。
 むかしは寒中水泳だってやったんだから!……え、寒中水泳なんてしたことないよ!?
 啖呵を切って体育教官室を出てから驚いた。あたしの記憶は錯綜してる。
 なぜだろうと考えていると、食堂からトンカツを揚げる良い匂いがしたので吹っ飛んでしまった。

 食堂のトンカツは脂身が多い。その上ラードで揚げているのでコテコテだ。

 でも、それが美味しいんだ!

 クスクス

 小さな笑い声が聞こえた。
「ン…………?」
 一つ向こうのテーブルで関根が笑っていた。目が合って、思わず笑ってしまった。
「あ、あの……幸せそうに食べるのね」
「え、あ、うん。だって美味しいんだもん!」
 いっそう口元がほころんでしまう。
「なんだか、オヤジみたいね」
「オヤジ?」
「え、あ、ごめん。そういう意味じゃなくって……えと、えと……」
 関根はオドオドしながら言葉の接ぎ穂に困っている。
「ハハハ、いいわよオヤジで、あたしもそう思うから……うわー、ギットギトだあ!」
 口を拭った手の甲は、トンカツの油でギトギトになってしまう。
「「アハハハ……」」
 きっかけなんて簡単なもんだ。ここでいっしょに笑いあえたことで距離が縮まった。
「よかったら、このお茶試してみて。油物のあとがスッキリするわよ」
 関根は、紙コップに保温ボトルのお茶を注いでくれた。

 関根のお茶はとっても美味しかった。ほうじ茶なんだけど、香りの密度が高くて、とっても爽やかだ。

「あたしんち、商店街のお茶屋だから」
「へー、そうなんだ! お母さん、いつも商店街でお茶っぱ買ってくるけど、ひょっとして関根さんちのかも」
「あ、きっとそ-よ! 商店街のお茶屋ってうち一軒だけだから!」
「そうか、お世話になってたんだ!」
「どーも、毎度ありがとうございます!」

 昨日までクラスの女子ナンバー2で、あたしをイジメていた関根、いや関根さんと仲良くなった。

 あくる日、関根さんたちと水泳の補講に行くと、プールが大変なことになっていた。

 なんと、プールの水が無くなっていたのだ!! 
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新・ここは世田谷豪徳寺・30《尾てい骨骨折・7》

2020-06-03 05:51:57 | 小説3

新・ここ世田谷豪徳寺30(さくら編)
≪尾てい骨骨折・7≫      



 タクシーの中ではずっと眠っていた。

 先週ひい祖母ちゃんの夢を見てから、おおげさじゃなく人生がおかしい。
 いくら寝ても寝たりない。そいで、今まで歌ったこともない『ゴンドラの唄』を音楽のテストで歌い始め、それが自分とは思えないほどうまくって、校長先生の耳に入り、校長先生のお母さんが本格的な機材を使って録画してYouTubeに投稿。あっという間にアクセスが3万件超えて、昨日は帝都テレビがバラエティーの生中継まで来た。

 昨夜寝る前にアクセス調べたら4万に迫る勢い。

 そして今日は、こうして帝都テレビが差し向けたタクシーにお姉ちゃんといっしょに乗っている。
「さくら、着いたよ!」
 わき腹に衝撃。起こしてくれとは言ったけど、ボクシングみたくカマセとは言っていない。
「もー……」
 と、機嫌の悪い牛のような返事になってしまう。
「これくらいしないと、起きないでしょーが!」
 ごもっとも。
「行くよ、とりあえず控室……」
 受付で聞くと出演者の入り口は違うらしく、半分眠ったままお姉ちゃんに引っ張って行かれる『佐倉さくら様』と紙が貼られたドアを開けてもらったところまでは覚えている。

 気が付いたら、昨日中継のため学校にやってきた二階堂アナが目の前に座っている。

「……と言うわけで、あとはゲストの二輪さんと、MCの新保さんがいろいろ聞くから適当に返事、明るくね。じゃ、ボク仕事に戻るから」
 お姉ちゃんが頭下げてると、入れ違いにメイクさんが入ってきた。

 えと、なんで、こういう状況になってるかと言うと、夕べ帝都テレビから電話があって、日曜の『帝都の朝』って番組に急きょ出演することになったから。
「え、なんで!?」と聞いたら「あんたが自分でOKしちゃったんでしょうが!」とさつきネエに言われてです、はい。

 あたしって、こんなに可愛かったっけ! メイクさんの腕はたいしたもんだ。

 ディレクターさんがQ出し。番組のテーマが流れて、スタジオの真ん中でMCの新保康子と二輪明弘さんが上品に話している。
「では、話題の佐倉さくらさんに歌っていただきます『ゴンドラの唄』」と振られた。目の前のカメラのランプが赤になる。

 いのち短し 恋せよ乙女 あかき唇 あせぬ間に 熱き血潮の 冷えぬ間に 明日の月日は ないものを
 
 いのち短し 恋せよ乙女 いざ手をとりて かの舟に いざ燃ゆる頬を 君が頬に ここには誰れも 来ぬものを

 いのち短し 恋せよ乙女 波にただよう 舟のよに 君が柔わ手を 我が肩に ここには人目も 無いものを

 いのち短し 恋せよ乙女 黒髪の色 褪せぬ間に 心のほのお 消えぬ間に 今日はふたたび 来ぬものを


 歌い終わって、新保さんと二輪さんの間に座る。
「こうやって生で聴くと、とても高校生とは思えませんね」
「いえ、高校生です。帝都女学院二年A組28番……」
 慌てて生徒手帳を出すと、新保さんも二輪さんも、スタッフまで笑い出した。
「なんなんでしょうね、この佐倉さくらさんのギャップは?」
 新保さんが、肩震わせながら笑った。
「ホホ、そういう性格なのよね」
 二輪さんがフォロー。でも微妙に視線が左右している……。
「ねえ、この曲も歌ってみないこと?」
 目の前のテーブルに楽譜がさしだされた。自慢じゃないがサバと空気と譜面は読めない。
「はい、喜んで!」
 心にもないことを口が勝手に喋る。で、二輪さんといっしょにピアノのとこへ。すると初めて聞くメロディーなんだけど、なんか懐かしく自然に歌詞が口をついて出てきた。

 待てど暮らせど 来ぬ人を 宵待草の やるせなさ 今宵は月も 出ぬそうな

 暮れて河原に 星一つ 宵待草の 花が散る 更けては風も 泣くそうな


「やっぱりね」

 二輪さんが満足そうに微笑んだ。
 あたしは、ただびっくり。初見で歌えて涙まで流れて、とても気持ちいい……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする