大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・161『ツン 人になる……ただし七分の』

2020-06-20 13:16:10 | 小説

魔法少女マヂカ・161

『ツン 人になる……ただし七分の』語り手:マヂカ     

 

 

 北斗は一度現れたっきりだ。

 

 おそらく、いろいろ無理を重ねて助けに来てくれたんだ。

 神田明神の裏参道(北門)を出て以来、体感では十日余りだが、リアルでは何日経過しているのか判然としない。

 ひょっとしたら数か月、あるいは数時間の事かもしれない。しかし、みんな心配して、気をもんで救援の道を探ってくれた結果が、さっきの北斗の出現に繋がったのだろう。こちらに現出した一分にも満たない時間で敵を撃破してくれたんだ。引き続いての応援を期待するのは虫が良すぎるだろう。

「次は日光か……ツン、しばらく、その姿でいるか?」

 わん!

 犬の姿に戻すのも不憫なので、こちらの世界に居る限りは人の姿にしておいてやる。

「人の言葉を喋れるようにはならないの?」

「出来ないことは無いが、下手をすると犬の姿に戻れなくなってしまう。西郷さんからの預かりだから、あまり無茶なこともなあ」

 わん!

「だってさ、こんなに役に立ってくれたんだから」

「人になったら、それだけ重いものを引き受けることにもなるぞ」

 わん!

「マヂカぁ」

「じつはな、数百年前に里見八犬伝の犬たちを人の姿にして喋れるようにしてやったのはわたしなんだ」

「さとみはっけんでん?」

「八匹の犬が人の姿になって、伏姫って女の子といっしょに悪党をやっつけるって話だ。寂しがり屋の伏姫にほだされて、八匹とも人にしてやったんだが、ずいぶん苦労をさせてしまったんだ」

 わん!

「そうか、ツンは、それも覚悟の上だと言うんだな」

 わん

「そうゆーところがさ、マヂカとツンだけが通じてるってところが寂しいのよ」

「そうか……友里の言うことももっともだな。じゃあ、人七分というところでいこうか。ツン、わたしの前に立て」

 わん!

 丹田に力を入れて、風切丸を実体化させて静かに抜いた。

「ちょ、何をするの!?」

「犬の筋を三分残して切るんだ。神経使うから静粛にな。ツン、目はつぶらずにじっとして、動いちゃダメだぞ!」

 わん!

 正眼に構えた切っ先の向こうにスックと立ったツン。

 ショートヘアが良く似合うボーイッシュな女子中学生だ。こういうキリリとした女子はなかなかいない。これも西郷さんの薫陶の賜物か……里見八犬伝の子犬たちよりも優れているかもしれない、いっそ、100%人にしてやりたい気持ちが湧いてくるが、静かに呼吸して収める。

 セイ!

 キャ

 切っ先は、ツンの鼻先三ミリほどの所を切り裂く。

 フッっと微かな手応え、小さな悲鳴を上げて友里は目をつぶってしまうが、ツンはしっかり目を見開いて微動だにしなかった。

「ツン、喋ってみろ」

「……あ、あたし……さ、西郷ツン、ツンだよ! マヂカ、友里、喋れるようになった、わん!」

「あ、わんはいいから」

「うん、分かった、わん!」

「いや、だからわんは言わなくていいから」

「うん、わかった友里、わん!」

「三割犬を残したからな、さあ、日光を目指そうか」

「うん!」

「わん!」

 

 決着がつけばいいのだがと願いながら、日光への一歩を踏み出す二人と一匹……いや、三人だった。

 

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小説学校時代 19『学校のプール』

2020-06-20 06:55:23 | エッセー

 19

『学校のプール』    

 

 

 プールが火事になればいいと思っていました。

 

 あんな水たまり、どうやったら火がつくねん?

 そう思われるでしょうが、実感としては毎年思っていました。

 六月のこの時期は、学校の水泳の授業が始まります。

 学校には必ずプールがあって、水泳の授業ができるのは、世界的にはかなり恵まれたことのようです。

 

 日本の学校は、何てクールなんだ!

 

 留学生がやってきて、たいてい設備の充実ぶりに驚くそうです。

 世界的にプールを備えている学校は希少で、欧米の学校でもプールを完備しているところは少ないそうです。水泳を習おうと思ったら、放課後や休日に料金を支払ってスイミングスクールにいくか、自然に存在している川や池や湖に出向くのが世界標準。

 実は、日本国内の数十万のプールに水を貯めておけるのは国のインフラが整備されていることや経済的に恵まれていること以外に水資源が豊かなお陰であると言えます。水質管理も行き届いており、普段は意識しないが、国際的にはかなり恵まれたことのようです。

 しかし、泳げない生徒や人前で肌を晒すのが嫌いな生徒にとっては、プールなんか燃えてしまえ! はなはだ論理的でない呪いの声を上げるほどの苦痛であります。

 高校三年の十月に突入して最も嬉しかったのが『もうこれでプールに入らなくてもいい!』でした。たとえ体育の評価が『2』であっても、水泳の授業を受けなくていいという嬉しさは十代で二番目くらいの喜びでした。

 では、一番の喜びはなにかと言うと、三年生の三学期。最後の体育の授業が終わった瞬間。

 あさはかなわたしは、大学で体育の授業があるとは全然思っていませんでした。大学のオリエンテーションで『体育』のコマを発見した時は、お祓いした悪霊が付いてきたような気持ちになりました。

 いっしょに合格した友だちが、あっさり水泳を選んだのを横目で見て「こいつは化け物か!?」と怖気を振ったものでした。

 いやはや、プールというのは単に忌避するだけではなく忌むべきものとして、情緒的には火をつけて浄化しなければならないものではありました。

 

 この親の敵のような体育やプールについて、時々書いていこうと思います。

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あたしのあした・28『タヒチアンダンス応援少女隊』

2020-06-20 06:25:57 | ノベル2

・28
『タヒチアンダンス応援少女隊』
      


 

 全日本タヒチアンダンスコンクール第32回大会は琵琶湖グランドホールで行われる。

 ホールと琵琶湖の間は広い駐車場になっていて、単にホールの駐車場であるだけではなく、近隣の琵琶湖や様々な施設を利用する人たちに解放されたパブリックスペースにもなっている。折しもハーフマラソンの大会とソーラープレーンのコンテストなどが開催中で、湖西の駐車場はほぼ満杯だ。

 その満杯の駐車場の中でも30トン二階建てのギャラクシースペシャルは目立つ。

 ドアを開けて外に出ると、すでに人が集まっていて、なぜか、あたしたちに拍手してくれた。

「え?」「あ」「ども」「いやはや」「こんにちは」などと適当なことを言って拍手に応えた。
 振り向くと、ギャラクシースペシャルのルーフのところが電光掲示板になっていて「タヒチアンダンス応援少女隊」の文字がキラキラしている。
「あたしたち、応援少女隊だったの……?」
 ポカンとしていると「人数も多いし、道具立てもごっついので、一応の看板です」と手島さんがウィンクする。
 看板のせいか、あたしたちは緩く列を組んだりして会場のホールに向かった。

 1200人も入るホールは一杯で、あたしたちは数人ずつに分かれて席に着いた。

 早乙女女学院の出番は午前の最後。

 それまで五つの団体や学校のプログラムがあって、そのいずれも早乙女女学院と遜色のない仕上がりだった。
「タヒチアンダンスってすごいんだね……」
 五つ目が終わって、ため息まじりに横を向くと智満子が涙でボロボロになっていた。
「すごいよ、すごいよ……」
「そんなに感動していたら、早乙女観たら気絶しちゃうわよ」
「も、もうあたし死んでもいい……」
 なんともいじらしくて、あたしは智満子の手をグッと握った。
「恵……」
「いっしょに死んじゃお!」
 ここだけ聞いたらとんでもないんだけど、次の瞬間、本当に死ぬようなアナウンスが流れた。

――プログラム五番の早乙女女学院は米原付近のバス事故で到着が遅れておりますので、順番を入れ替えます――

 えーーーーーーーー!?

 会場は、1200人分のどよめきに満ちた。
「……玉突き事故らしい、メンバーは無事だけど、バスが動かないって!」
 スマホで事故を検索した智満子の声は震えていた。
 六番目は準備が間に合わないので、昼休みが前倒しで早くなった。
「お昼はギャラクシーの中に用意してあります」
 ロビーに出ると、手島さんがみんなに呼びかけた。
「とりあえず、お昼にしよ」
「みんな、行こ」
 
 で、お昼のお弁当を食べ始めたときに智満子が閃いた。

「ね、このギャラクシーで早乙女の人たちを迎えに行こう!」

 お握りを持った手やおかずを挟んだお箸が一斉にあがった。

「「「「「「「「オー、助けにいっくぞー!」」」」」」」」

 タヒチアンダンス応援少女隊はタヒチアンダンス救助隊に変身したのだ! 

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プレリュード・5《1キロの長さ、2キロの重さ》

2020-06-20 06:15:47 | 小説3

・5
《1キロの長さ、2キロの重さ》    



 北村先生に倣って、即実行に移した。

 なにを? 

 忘れた人は前回の『豚の星に願いを……』を読んでください。
 昨日から、近くのO川の土手道をジョギングすることにした。
 グーグルマップで見ると、家から一番近いジョギングコースが、そこだと分かったから。
 家を出てから二回角を曲がったらO川の土手道。土手道までは歩いていく。
 亮介は「家の前から走ったら時間も距離も稼げるのに」と余計なことを言う。

 亮介は女心を分かっていない。

 いきなり家の前から走ったら近所の目があるんだよ。
「やあ、奈菜ちゃんジョギング始めたん。偉いねえ」と向かいのオバチャンから話が広がって御町内の噂になる。
 噂になったら、やめられない。
 わたしは、とりあえず二キロ痩せたらいいので、それ以上やる気はない。
『奈菜ちゃんの三日坊主』という噂をたてられないためにも家の前から走るわけにはいかない。

 土手道を外環と交差するとこまで走ったら、ちょうど一キロ。折り返しは無理には走らない。無理したら長続きはしません。

 まあ、このへんのとこは正直自信の無さの現れです。

 しかし、一キロがこんなに長いものとは思わなかった。グーグルのストリートビューで周りの景色は一応確認済みなので、景色でだいたいの距離感は掴める。もう八百は走った感じになっても、実際は四百ほどしか行ってない。

 ああ、しんどおおおおおおおおおおおお。

 初日から、三日坊主の予感。

 あかんあかん、初日で顎を出してどないすんねん💦

 足腰は、ちゃんとジョギングシューズ履いてるのでこたえないけど、呼吸がえらい。心臓もバクバク。
 それでも十二分かけて、なんとかクリアー。荒い息を整えて、そのまま回れ右。

 帰り道、幼稚園の年長さんぐらいの男の子が、流行りの幅の狭いスケボーの練習してるとこにでくわす。
 この子も初心者。スケボーの新しさと、へっぴり腰の走り方で分かる。
 子どもと言うのは、すぐに調子に乗る。
 まっすぐ走るのがやっとなのに、スラロームの練習に入った!
 案の定、最初に捻ったとこで転倒。二拍ほどおいてから、膝を抱えて泣きだした。
 通行人は他にもいたけど、誰も声をかけない。泣き声は苦悶の表情で、時々途絶える。

――骨折かもしれへん!?――

 そう思うたっら声を掛けていた。
「ぼく、大丈夫?」
 痛さのあまり声も出しにくい様子。
「ちょっと触るけど、ええか」
 ぼくは、苦悶のまま頷く。触ると、ちょっと腫れてる。いよいよ骨折か!?
「足伸ばしてごらん……今度は曲げて……」
 一応足は伸びるし曲がる。まあ、骨折ではない様子。せやけど腫れようから、かなりの打撲に見える。
「ぼく、どこの子や。お姉ちゃん送ったろか?」
 そのとき、はじめてぼくは、あたしの顔を、痛さに顔をゆがめながらも、チラ見の観察。

 あきらかに、あたしを変なネエチャンやいう目をしてる。

――アホか。人が親切に声かけてんのに、怪しむやなんて、失礼なガキや!――

 ムカついているうちに、ガキはスケボー持って泣きじゃくりながら歩き出した。目線の先には自分の家と思しき三階建て。
「うちの人居てはるの?」
 これには答えず、泣きながら怪しそうな目線だけ送ってくる。
 よく見たら、メットこそはしていたけど、膝にも肘にもプロテクターはしてなかった。
――ちゃんとプロテクターぐらいは付けさせろ!――
 と心で毒づいて、家に帰る。
「ハハ、慣れんことするから、怪しいネエチャンやと思われてんで」
 たしかに、このごろは、子どもが変な大人から理由もなしに連れ去られたり殺されたり。だけど、あたしの知ってる限り、それはオッサンか、オッサンと呼んでいいニイチャンだ。こんな見目麗しい女子高生というか女子大生のタマゴと言っていいかがそんなことするわけないだろ!

 ムカつきながら、スポーツドリンク飲んだのがまずかった。体重は昨日と一グラムも変わっていない。
「当たり前でしょ、たった一日一キロ走ったぐらいでは変わらへんよ」
 と、おかあさん。
「奈菜、ウンコしてから測ったら四百グラムは違うぞ」
 と、亮介。

 デリカシーのないのは、うちの家系か!?

     奈菜……♡
 

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