大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記 序・6『興隆鎮』

2020-06-27 15:09:19 | 小説4

序・6『興隆鎮』    

 

 

 それから立て続けに二度の襲撃を受けたが軍服の焼け焦げを増やすだけで乗り切れた。

 

「敵は態勢を整える前に行動に出ています」

 三度目の戦闘には興隆鎮の駐屯地から駆け付けた捜索隊が加わり、状況見分を終えた部隊長が付け加えた。

「JQが加わったのを知って、敵も焦ったんだな」

「はい、JQは10式の特装体として認識されますから、奇襲攻撃の前兆と捉えたのかもしれません」

「すみません、ご迷惑をおかけしました(-_-;)」

 JQは初心な女学生のように恐縮する。敷島博士はJQにいくつものパーソナリティを仕込んでおいたようだ。よく混乱しないものだと感心する。見分作業中の隊員たちのサーチがJQに向けられるのをハンベが知らせてくれる。

「おい、カルチェタランのプリマに失礼だろう」

「習い性なもので申し訳ありません。貴様ら、そこらへんで止めておけ。駐屯地へ戻ります」

「おう」

 全員の馬をクルーザーに変換して、興隆鎮の駐屯地を目指した。

 平時において馬は四つ足だが、戦時には脚を収納して反重力走行のクルーザー変態する。部隊ぐるみのクルーザー変換は国際慣例で戦争状態に入ったことを意味する。

「まるでお浄土に突撃していくみたいですね」

「死に急いでいるとも言えるかもしれんがな」

 興隆鎮は奉天の西にある村落で、地平線に没しようとしている日輪の方角だ。

「敵は、さらに西方。わたしたちよりも死に急いでいるとも言えます」

『今次の戦いは「死に急ぎ事変」と名付けられるでありましょう』

「こら、個人的会話をサーチするんじゃない」

 ワハハハハハハハ

 捜索隊の隊列に笑いが満ちる。全員が八式・十式を中心とするロボット部隊だが、無駄が多いというか、どうにも人間臭い。

「フフ、大昔の馬賊みたい」

 JQが笑う。

 しかし、この人間臭さも、俺の振舞いにロボットたちが適応しただけなんだがな……それに、今次の戦いは部隊長が言うような『事変』の規模には収まらないかもしれない。

 

 興隆鎮日本軍守備隊駐屯地

 

 五つの言語で書かれた営門に入ったのは、日没の三分前だった。

 小学校の敷地ほどのところに五つの建物があるきりで、名前の通りの、せいぜい大隊規模の駐屯地で、とても万余の兵士が屯しているようには見えない。

 二十三世紀初の大戦争が間もなく起ころうとしていた。

 

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お姉ちゃんは未来人・5〔松子ふたたび・1〕

2020-06-27 08:44:17 | ボクの妹

ちゃんは未来人・5 

〔松子ふたたび・1〕   

 

 

 

 東大出て教師なんてありえなくない?

 そーだよ、それも法学部だよ、法学部!?

 

 文句を言っているのはマコとヨッコだ。

 社会の佐藤先生の不満をぶちまけている。

 今週に入って、佐藤先生は板書をしなくなった。

 模造紙に板書の内容を書いたやつを黒板に張り付けて「十分で書いて、書けたら説明するから」と言って廊下に出てしまう。

 十分たつと戻ってきて五分ほどで説明して次の模造紙を張って再び廊下へ、これを三回繰り返して授業が終わるのだ。

「黒板くらい書けっつーのよ!」

「マコ、チョークの粉が嫌だとか言ってなかった?」

「あー、教卓の前になった時言ってたよね!?」

「あー、そーゆーハナシじゃなくって!」

 おちょくってはいるけど気持ち的には分かる。佐藤先生のやり方は明らかに手抜きだし、生徒の事をバカにしている。もともと説明も下手な先生だったけど、ルーズになってから一層熱が感じられなくなった。

 あーそーだねえ うんうん 言えてる わかるー 

 適当に相槌打っておくんだけど、まあ、いいじゃんと思ってるんだ、わたしは。

 佐藤先生は東大の法学部を出ている。普通なら財務省とか裁判官とか銀行とかに就職して上級国民になるんだろう。それが、しがない公立高校の教師。それも生徒や同僚の先生から疎まれたりバカにされながらだもんね。

 佐藤先生は職員室でもシカトされてる。先生が授業から戻って席に着くと、それまで近くに座っていた先生たちが居なくなる。偶然かと思ったら毎回そうなんだ。職員室に用事で行った生徒が言ってる。佐藤先生が居ない時は「東大の法学出てるのにねえ……」的な陰口を叩いている。

 だったら注意してあげればと思うんだけどねえ、へんな悪口ばかり言って「イヒヒ」とか「グヘヘ」とか笑っているってやりきれない。笑っている先生たちも国公立のいいとこや慶応・早稲田の出身だったりする。わたし自身、のんびり平和に日々が過ごせればノープロブレム。ノートさえとっていればスマホを見たり居眠りし放題の佐藤先生の時間をラッキーだとさえ思っている。

 松子姉ちゃんが消えて三か月。わたしは堕落している。

 佐藤先生の事はほんの一例。以前は着替えてから食べていた朝食をパジャマのまま食べたりとかね、それを眉を顰めるだけで文句言わないお父さんを軽蔑したりとか矛盾だらけのだらけぶり。

 忘れていた掃除当番をマコが思い出させてくれて、かったるい掃除当番をこなすと、ゴミ捨てジャンケンにも負けてしまう。

 なんかムカつくので、渋谷で一時間近く回遊してから家に帰る。

 

 ……っだいま。

 

 だるい帰宅の挨拶。近ごろは「おかえり」の返事も返ってこない。お母さんも堕落しているっぽい。

 ガチャ!

 閉めたばかりの玄関ドアが開いてビックリ!

「ただいま! あ、おかえり、竹子!」

 松子姉ちゃんが立っている。

 わたしと同じ制服着て、リボンは一個上の三年の学年色で……。

 

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あたしのあした・36『まあ、ご謙遜を!』

2020-06-27 06:32:34 | ノベル2

・36
『まあ、ご謙遜を!』
      

 

 床の間を背に座って収まりのいい女子高生なんてめったに居ない。

 でも、目の前の早乙女女学院の制服姿は、もともと座敷の一部であるかのように馴染んでいる。
「早乙女女学院水泳部部長の白浜洋子と申します、本日はご都合をつけていただきありがとうございました」
 着物を着ていたら、そのまま時代劇のお姫様が務まりそうな慇懃さで頭を下げた。三つ指を突くっていうんだろうか、こんなきちんとした挨拶は将棋の有段者でしかお目にかかれない……って、なんで、あたしが将棋の有段者を知っているんだ?
「お約束通り田中さんをお連れしました、それでは……」

「「あ」」

 あたしは白浜さんといっしょに声を上げた。察しは付くが、のっけから二人にされてはかなわない。
「関根さんもいらしてください、ほんとうならみなさんにお詫びしなければならないことなのですから」
「あ、そうなんだ……じゃ」
 ネッチは上げかけたお尻をふたたび落ち着けた。
 ネッチも制服姿なんだけど、さすがは安政六年創業のお茶屋の娘。あたふたしながらも様になっている。

 白浜さんが切り出した話はこんな具合だ。

 あたしたちの水泳補講がとても和気あいあいとしていていたので、とても微笑ましく、部員の一人がスマホで撮影してSNSで流してしまい、その動画は本人の思いに反してセクハラととられて炎上してしまった。撮った本人もパニックになり、動画は直ぐに削除したのだけど、すでにコピーされてしまって流されてしまった。撮影した本人に謝らせたいが、テレビ局が取り上げたりして騒ぎが大きくなってしまい、非常に落ち込んでいる。
「……ですので、取り急ぎわたしがお詫びにまいった次第です」
 白浜さんは二度目の三つ指を突いた。
「あの……」
「つきましては、わたしどもの方から放送局に連絡を取り、補講のほんとうの様子を伝えたいと思います」
「白浜さん、あたしに考えがあります」

 あたしは毎朝テレビの姫野さんに提案したことを話した。

「それ、いいと思います!」

 白浜さんは、初めて高校生らしい笑顔になって賛同してくれた。早乙女とうちの両方が言い出せば上手くいくにちがいない。
「そうだ、あたしたちが、こんなに和気あいあいになったのはタヒチアンダンス部のお蔭でもあるんです!」
 あたしはネッチといっしょになって、タヒチアンダンス部との出会いや滋賀県でのコンクールの話をした。
「それ、タヒチアンダンス部も加えることはできないかしら?」
 白浜さんが膝を乗り出した。
「……え……そうなんですか!?」
 意外なことを聞いた。そして、あたしのアイデアは、グッと現実味を帯びて成功の確信へと変わっていった。

「あの、ネッチと白浜さんの繋がりって、どういうところからなんですか?」

 話がまとまると、穏やかに微笑みあっている二人が気になって訊ねた。
「関根さんは、わたしのお茶の師匠なんですが……」
 あたりまえのことを、今さら、なんだというような顔で言う白浜さん。
「え、ほんとう、ネッチ!?」
「教えてんのはお母さんよ、あたしは介添えってか助手やってるだけだから!」
「まあ、ご謙遜を!」

 アハハ、ウフフと笑う二人であった。

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プレリュード・12《アナ雪、アナとナナ》

2020-06-27 06:25:10 | 小説3

リュード・12
《アナ雪、アナとナナ》    



 

 一昨日から『アナ雪』を三回も観た。

 わたしは映画館が苦手。痴漢が出るから、観客、特にガキのマナーは最悪……ほかにも理由はいくつかあるけど、これが一番耐えられない。

 上演時間中ずっと座っていなくちゃならないこと!

 わたしは、本を読むにしろテレビを観るにしろ、じっとしてるいうことができない。あぐらかくのはもちろんのこと、直ぐに横になってしまう。そして、何やらスナック出してきてはホチクリ食べながら観たり読んだり。
 将来、いつか、だれかと結婚することになるんだろうけど、直さないと三日で離婚だろうなあ。

 で、アナ雪を観ると、アナの起き抜けの素晴らしいこと。髪はボサボサ、よだれ垂らして、始末の悪い髪の毛の端が口の中に入ってる。あれには親近感。
 別にアナの起き抜けに親近感感じるために三回も観たわけじゃない。

 戴冠式の感じ方がどうちがうか、直美と話題になったから。

 姉のエルサは、人前に出るのが大嫌い。魔法の力がバレるのを恐れている。
 妹のアナ王女は、久々にお城の門が開かれて、ハイテンションの開放感。で、初対面のハンス王子と婚約までしてしまう。

 そして、戴冠式ならぬ卒業式に、どんな印象を持つか、アナ雪への親近感で感じてみようという企て。

 むろんアナ雪自身いい映画だし、あたしのご贔屓ジブリの『風たちぬ』を抜いてアカデミー賞獲ったことへの興味もあった。
 映画そのものは素晴らしかった。
 ディズニー特有の強引さは目についたけど、アナの一貫した前向きで、思考と行動が止まらないところ、それでいてどこか大きく抜けてるとこに助けられて、あれだけの飛躍がありながら観客を感動させる力はすごいと思った。

――アナ雪はすごい! 特にアナ王女の魅力はディズニーキャラの中でもピカイチ!――と、直美にメール。
――アナと奈菜は相似形。そこに気いついて欲しかった? で、卒業式は?――と、直美から返事。
――忘れてた。ちょっと考えるから待って――

 で、わたしは行動に出た。

「こんな時間から、制服着て、どこいくのん?」
「ちょっと、確かめに」
「なにを?」
「ちょっとね」

 卒業の実感を確かめに学校まで行くとは言えなかった。ふつう、ここまでする奴はいない。やっぱアナのタイプか?
 制服は、明後日の卒業式のためにクリーニングのしたてだから、新品に近い感じがする。
 入学式の朝、緊張しながら歩いたのを思い出す。これは人並み。
 電車から見える景色は見慣れたものだから、特に感慨なし。
 最寄りのU駅で降りる。登校時間と違うのでU学院の生徒はわたし一人。

 学校までの道のりは……緊張感が蘇ってきた。

 やっぱり、わたしなりに新鮮な気持ちだったことを思い出す。しかしアナみたいに期待に溢れてたわけではない。いっしょに歩いてる新入生の子たちとうまくやっていけるだろだうか、勉強と違って人間関係をね。
 あたしは入試の日こそ、周りの子たちが、自分よりも偉いように思えたけど、入学式の日は芋に見えた。多分身に合わないピカピカの制服を着てたせい。中学でもそうだけど、制服いうのは採寸したときよりもワンサイズ大きい。それが、今ではピッタリサイズ。肉体的には発育したのがよく分かる。
 男子は、特にアホに見えた。ニキビ面が段違いに可愛い子に身の程も知らずに告白しに行くみたいで……。

「あの、在学中の思い出を確認に来ました」

 守衛さんにそう言うと、えらい感激してくださった。大人が高校生を見る目は、まだまだノスタルジックだと思う。
 1・2年は授業中なので、校舎の外とはいえ邪魔にならないように、静かに歩く。
 校門を抜けて下足室へ。下足箱にはラブレター……なんか入ってるわけがない。
 こればっかりは、くたびれた上履きに履き替える……これが違和感。それまで、辛うじてあった新鮮な緊張感が、一気に日常の感覚に引き戻される。

 思い切って購買部で新品の上履きを買う。ここでも思い出確認の説明。また、購買のオバチャンが感動。

 そんなんじゃないんです。なけなしの思い出の中から、なんとか原石みたいなとこだけを拾おうとしてるだけ。
 教室の前を避けて、校長室、事務室、職員室、放送室の前を通って中庭へ。

 で、思い出した。

 ここで演劇部の勧誘を受けた。数人立っていた中で、いちばんかっこよかったのが、あのO先輩。覚えてる? 3のUFO劇団の下りで出てきたインチキ演劇のO先輩。
 あのころは、素敵な演劇青年に見えた。あれが間違いのもと。演劇部自体がいいものに思えて入部してしまった。そして、貴重な高校一年と二年の途中までを演劇部に持っていかれた。

 悔し涙が溢れてくる。

「おい、なにを……ああ、三年の加藤か。三年は休みやろ、なに……加藤、おまえ泣いてんのか?」

 なんか言おうと思うたら、生活指導のS先生。後ろに守衛さんと購買のオバチャン。そして間の悪いことに校長先生まで。守衛さんが何か一言……どうやら、みんな美しい誤解をしてる。

「あたしはアナじゃなくって、ナナです!」

 ……言えるもんなら言いたかった。

         ……奈菜♡ 

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