大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・136「温泉旅行本番!・2」

2020-06-15 13:39:10 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)

136『温泉旅行本番!・2』小山内啓介   

 

 

 浴室内の介助のあれこれも聞いたが、仲居さんの説明の都合でだ。

 オレが千歳の介助をやるわけじゃないぞ(^_^;)。引率者には介助のアレコレを伝授しておくのが宿の建て前らしい、たぶんその筋からのお達しなんだろうが、女子の浴場に足を踏み込むのはなんともなあ(#´o`#)。

 脱衣かごには女子が脱いだ下着やらが入っていて、脱衣棚の前にはタオルで前を隠す女子の後姿というかヒップ、洗面のドライヤー持って髪を乾かす女子からはシャンプーのいい香りが思い浮かんでしまう。

「なに赤くなってんのよ、浴場は日替わりで男女は入れ替わるのよ、今日が女子だから昨日は男子。ちなみに利用者の大半は高齢者だそうよ」

 松井先輩がジト目で真実を伝える。

「え、そうなん(;'∀')?」

 とたんに女子のヒップが弛んだ爺さんのケツに変わる。

 空堀高校はバリアフリーのモデル校だから、障害を持った生徒の率は他校よりは高い。同学年には車いすの男子が二人居る。修学旅行も数カ月後には控えているので、聞いておいて無駄にはならないと自分に言い聞かす。

 

 葛城山を借景にした庭はなかなかのもので、女子たちは陽のあるうちに見ておこうと連れだって出て行った。

 一緒に行こうと誘われたけど、オレは先に温泉に入ることにした。

 船場女学院の発声練習も聞こえないし、庭に出ても彼女らとは行き違いだろう。

 それよりも、基礎練の後だ、ひょっとして入浴の出入りくらいで会えるかもしれない。

 

 備え付けの浴衣とタオルを持って浴室への階段を降りる。

 カッポーン

 踊り場に差し掛かったところで、浴室のくぐもった音やら声が聞こえてくる。

 話の中身までは分からないが、~ちゃんとかの愛称とか、ああ極楽~の声が笑い声と共に聞こえてくる。

 この声は……八人くらいは居そうだなあと想像してしまう。

 女湯の手前の男湯の暖簾をくぐる。

 さっきの下見では気が付かなかったけど、どうやら浴室内の壁は上の所でイケイケになっているようで、脱衣場では楽しそうな声が一段と大きくなってきた。

 女子の嬌声なんか、学校ではしょっちゅうなんだけど、このシュチエーションは興奮するぞ!

 幸い、男湯はオレ一人なので、遠慮なく顔がデレてしまう。

 キャーーー!

 ちょ、サワちゃん!

 タオルを巻いて浴室の引き戸を開けたところで異変がおこった!

 女湯に悲鳴があがって、ドタバタ、パシャパシャ、ザブザブと慌てる気配だ!

 ひ、人を呼ばなきゃ!

 人工呼吸!

 担架持ってきてー!

 事故だ! 船場女学院の生徒たちが裸でうろたえているイベントが脳内画面に浮かんでドキッと……している場合じゃない。

 担架の場所は、さっき確認したところだ。他に人はいない……それ以上は考える前に体が動いた!

 

 担架持ってきましたあ!!

 

 浴室に飛び込んで、心臓が停まりそうになった。

 女湯の浴室には、推測した通り八人の裸の女性がいた……が、ひいき目に見ても五十代から八十代という、熟年の方々ばかりだ。

「人工呼吸できる!?」

 さっき聞こえた声だ。声質は若いが、声を発しているのはお袋と同年配。タイルの上で伸びているのは……描写している場合じゃない!

「や、やってみます!」

「サワちゃん! 今から人工呼吸してもらうからね!」

 中学野球のころから何度も救命救急講習は受けてる。

「気道確保!」

 バスタオルを丸めて首の下に回す。サワちゃんの鼻をつまんで、口を斜めに交差させるように合わせる。

 ああ、オレのファーストキスがあ(;゚Д゚)……。

 

 オレの救命救急措置がうまくいったのか、サワちゃんは事なきを得て、番頭さんが呼んだ救急車に載せられていった。

 振り返って歓迎札を見ると『船場女子演劇部の会御一行様』とあった。

 なんだこれは?

 スマホで検索すると、船場地域で演劇活動をしているシニア女性劇団であることが知れた……。

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小説学校時代・15『イジメの一考察』

2020-06-15 06:37:31 | エッセー

 15

『イジメの一考察』      

 

 

 四半世紀あまりの教師時代、身の回りで自殺した生徒は一人も居ませんでした。

 賃金職員、非常勤講師の四年間で三人の生徒が自殺していることと対照的です。

 教壇に立って授業なりホームルームを、一度やると分かってくることがあります。

 

 聞く耳を持っているかいないか。

 

 前回の都知事選挙で「わたしは聞く耳を持っている」と言った候補者がいましたが、わざわざ言わなくても、佇まいで分かってしまうところがあります。
 ちなみに、聞く耳と言うのは、お行儀の良さとは関係ありません。
 大人しく座っていて、教師が指導する必要が無いような生徒でも、聞く耳を持っていない者がいますし。逆にガサツで切れやすく落ち着きのない者でも聞く耳を持っている者も居ます。

「すまん、ちょっと話があるねん」

 最初の授業を終えて、一人の男子生徒を廊下に呼び出しました。

 友だち同士のように、廊下の窓枠に肘を預け、少しばかり大事な話をする感じで切り出します。

「二列目の一番前に座ってるやつなあ」
「え、うん?」
「去年、おれのクラスでダブリやねん。悪い奴やないねんけど、めっちゃ愛想悪いねん。声かけても返事返ってけえへんことも多い奴や」
 男子生徒は振り返って、その生徒を一瞥した。
「……そんな感じやなあ」
「おまえみたいな奴からしたらムカつくようなことがあるかもしれんけど、まあ、覚えといたってくれや」
「お、おう」
「ほならな」

 これだけを言っておきます。

 ちなみに、この男子生徒はクラスの顔の一人で、ヤンチャクレで、辛気臭い奴は、遠慮なくハブったり、張り倒したりする奴であります。
 その後、二三度「あいつ、どないや?」と、ヤンチャクレに聞く。
 これで、イジメのタネは芽を吹かなくなります。

 生徒個人の中には天使と小悪魔が住んでいて。天使も小悪魔も生徒自身には制御できません。
 早めに天使が動きやすいように道を付けてやることが大事というか、コツなのかと思います。
 前述の件の場合、ダブリの生徒の評判が立ってからでは手遅れになります。
「そやかて、あいつムカつくで!」「あの暗さはゴミやで!」
 そう言わせてからでは、教師が何を言ってもオタメゴカシにしか聞こえません。

 それでも、全てのイジメの芽は摘めません。

 生徒が三日も休むと「あれ?」と思う。
 五日も休むと家まで押しかけます。
 そこで話をすれば、その屈託ぶりで、事の有無が推し量れます。
 時に、深刻なイジメが潜んでいることに気づきます。
 いろいろやって、イジメている生徒が分かったときは、時に荒事に及ぶこともあります。
「イジメられてた奴はなあ、これよりも痛かったんじゃ!!」
 本気で怒って張り倒していました。
 張り倒したことは、保護者や生徒の間にも、言わずもがな式に広まっていきます。
 イジメの重大さと学校の本気度が、生徒にも保護者にも伝わります。
 稀にこじれて、保護者が弁護士を連れてくることがありましたが。

 記録と実績で、なんとか乗り切れました。

 むろん、今の時代、張り倒しは、張り倒したという一点だけで糾弾されます。

 まあ、昔は良かったこともあったというため息であります。
 

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あたしのあした・23『ラッキー!』

2020-06-15 06:17:13 | ノベル2

・23
『ラッキー!』
      

 

 

 グッドタイミングということがある。

 ラッキー!……女子高生言葉ではこうなる。
 人間だれしも、このグッドタイミングとかラッキーという機会があるんだろう。でも、それが生かせるかどうかは本人の才覚だと思う。

 あたしにそんな才覚はあると思っていなかった。

 なんと、あたしが助けた福井というお爺さんは、こないだ風間さんのお見舞いに来た時に、病院の前ですれ違った人だった。
「あの時のお爺さんですよね!?」
 そう聞くと、福井さんはことのほか喜んでくださった。
「反射のいいお嬢さんだ。こんど助けてもらったことも、あなたの反射が優れていることの現れなんでしょうね」
 そう喜ぶと、名刺をくださった。

 早乙女女学院理事長 福井仙太郎

 早乙女女学院⇒デラックスな温水プール⇒早乙女女学院の理事長=頼むっきゃない!

 三段論法で結論が出て、その場でお願いした!

 そうして、あたしたちは早乙女女学院の温水プールで準備運動をやっているのだ!

 プールそのものは標準の25メートルだけど、なんたって温水! プールサイドにいるだけで空気がしっとりと穏やかなのだ。
 それに、プールの中の色が単なる水色じゃなくて輝きのあるエメラルドグリーン。で、突き当りの壁は一面のスカイブルーに入道雲がモクモクの絵だか映像だかになっていて、なんだかリゾートの雰囲気。行ったことはないけどタヒチの海辺って、こんな感じ!?

 十三人の補講女子たちも、益荒男高校の時と違ってウキウキしている。

 贅沢かもしれないけど雰囲気って大事だと思う。

 このことを予想していたわけじゃないけど、智満子に補講に来るように病院で勧めておいた。
 で、やっぱ、雰囲気なんだろう「……気が向いたら」という返事だった。
 あたしが、交通事故の直後で病院のベッドに寝ているってこともあったと思う。智満子にはなんの落ち度もないんだけど、あたし一人が巻き込まれて救急車で運ばれたことに後ろめたい気持ちがあったようだ。こういう反応をするところ、智満子は基本的にはいい子なんだと思う。
 それに福井理事長の何とも言えない温かさもあったと思うんだよね。
 七十前ぐらいの福井理事長は、温厚そうなヘタレ眉。でも、その下の眼はしっかり力に満ちていて、ただ歳がいっただけの穏やかさでは無かった。あたしたち高校生って、ダメなとこ八割だと思うんだよ。でも残り二割が、ときどき輝くんだよね。
 福井さんは、ダメな八割に目くじらたてるんじゃなくて、二割のいいとこを伸ばしてやろうって、そんな感じがする。
 そういうとこが智満子にも伝わったんだと思う。

 智満子は直接早乙女女学院にやってきた。てか、少し早めに着ていたんで、先にプールに行っていた。
「どーよ、みんな、すんごいプールでしょ!」
 あたしたちが着いた時には、ハイテンションで自主練している。

 それにつられて、あたしたちは準備運動もそこそこにプールに飛び込んだ。

 デタラメに遊ぶんじゃないかと思ったけど、みんな、わりと真面目に泳いでる。温水プールの力だよね。

 25メートルの折り返しにきたところで、底抜けに明るいリズムがした。

「「「「「「「え?」」」」」」」

 思わず立ち上がって、リズムのする方を見た。
 なんと、突き当りのスカイブルーに入道雲がモクモクの壁の前、タヒチアンダンスの女の子たちが並んで、笑顔いっぱいでダンスを始めていたんだ。

 一瞬、ここが高校のプールであることを忘れてしまった。

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新・ここは世田谷豪徳寺・42《駅の向こうの温故知新》

2020-06-15 05:59:36 | 小説3

ここ世田谷豪徳寺42(さくら編)
≪駅の向こうの温故知新≫    



 

 前々から言ってるけど勉強は好きじゃない。

 だから、二学期の中間テストも後半だっちゅうのに身が入らない。
 日本史のテストなんか、暗記したこと全部書いたら、見直しもしないでい眠ってしまう。そんで蟻さんとお話しする夢なんか見てしまう。一昨日は、試験の後、家の近所まで帰りながら、公園に寄って、ガキンチョのころから乗り慣れたブランコに腰かけて二時間。アンニュイに身を任せながら、結論も出ない考え事をもてあそんでいた。

 来週残っている教科は昨日すませた。ノートやプリント見て、出そうなところをざっと見て。一回ずつ紙に書いておしまい。我ながら雑。定期考査と同じくらいの頻度でショッピングに行くときでも、もうちょっと熱心にネット見たりメモったりする。

 そーゆうデタラメな勉強の中、珍しく印象に残ったのが国語。
 
 太宰治の『富岳百景』がメイン。漢字の読み、代名詞の「それ」とか「あれ」が何を指すか。読書力というか本を読む馬力はあるから、一回読み直しておしまい。「富士には月見草がよく似合う」「棒状の素朴さ」「富士はなんの象徴か」「単一表現」とはなにか。プリントの答えを丸のまま頭に入れる。こういうことの答えを全部集めても、『富岳百景』は分からない。
 例えば「富士」というのは「軍国主義・封建主義・当時の文学などの権威」などと書けば正解。だけど、あたしは、これでは収まらない。権威の否定だけで納得できるほど人生は甘くない。太宰だって、そう思っている。それでも掴みきれない自分のいらだちが見えてこない。でも、そんなことを書いたって減点されるだけ。だから考えない。
 軍国主義への反対? 笑わせちゃいけない。太宰は、そこまで考えて書いていない。御坂峠の茶屋の母子に癒される……とんでもない。
 あの茶屋の主人は戦争に行って中国大陸で戦っている。もし、戦争というものの権威に反対するなら、太宰程の文才があれば、別の形で書いている。失礼だけど、教えてくれた国語の先生は、こんな事実も見落としたまま授業をしたんだ。あの先生の授業からは太宰の苦悩も、そこから出てくる命がけのユーモアも分からない。

 今日は録画したまま見てなかった『エヴァンゲリオン』を見た。

 なんで中学生が、ここまで苦しんでエヴァに乗り込んで、正体不明の「使徒」と戦わなければならないのか? 観ても読み込んでも出てこない。碇シンジが痛々しい。
 あたしの勝手な思い込みかもしれないけど、作者も「使徒」の意味よく分かってないんじゃないだろうか。分かっていないからこそ、面白いと思っちゃうんだろうな。太宰の「不安」と共通する曖昧さ、漠然さ。それが「青春なんだよ」と言われても、あたしは納得しない。まあ、エヴァも太宰も壮大な思わせぶりにすぎない。そいつを大真面目に文学のふりとか大作アニメのフリをしているところが面白いわけですよ。

「あ、しまった!」

 お母さんが台所で叫んだ。どうやら生協に注文しておいた食材に、注文のし忘れがあったみたい。
「あたし、行ってくるよ」
 エヴァも最後まで観て「思わせぶり」を納得。当然消化不良。で買い物に行く。

 買い物は良い。メモしてもらったものを駅前のスーパーまで買いに行って、帰ってくる。お母さんが感謝してくれる。そして晩ご飯は滞りなく食卓に並ぶ。

 あたしは、こういう単純な問題と、問題解決が好き。

 長い話に付き合ってくださってありがとう、中間テストが終わったら豪徳寺名物の招き猫を買いに行きます。

 めったに行かない豪徳寺駅の向こう側、新しいファンシーショップが出来ているのを発見。そのウィンドウに可愛い招き猫があるのを発見したから。むろんレトロに作られた新製品。ひょっとしたら焼き物でさえなくてプラスチックかもしれない、高校生が、ふと買ってみようかと思うくらいの値段だしね。でも、なんちゅうか、温故知新風の感じがいいんだ。

 それを机の上に置いて、新しい温故知新が湧いてきたらね、またお目にかかるかもしれません。

 

 佐倉 さくら

                   新・ここは世田谷豪徳寺 完

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