大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

小説学校時代・13『生徒の正義』

2020-06-13 06:17:47 | エッセー

・13

『生徒の正義』   


 

 A君は激怒した!

 キミの学校、いい噂聞かないねえ。通行の邪魔だし、あっちこっちでタバコ吸うし……こないだは小学生どついたいうて問題になってたなあ。

 K大学の面接に行って、書類を見た面接官が、のっけに学校の悪口を言ったからである。

「そんな悪い学校とちがいます!」
「そやけど、ねえ……(鼻で笑った)」
「1200人も居るんです。ちょっとはトラブルもあるけど、いい生徒が多いんです!」
 このあとのA君の記憶は途切れている。
「こんな大学は、こっちから願い下げじゃ!」

 A君は椅子を蹴飛ばして面接会場を飛び出してしまった。

 廊下で面接の順番を待っていた仲間は真っ青になった。

「お前は、なんちゅうことを……」
 A君本人から報告を受けた担任と進路の先生は頭を抱えた。
「ごめん先生、ついカッとしてしもて……」
 いつもの元気はどこへやら、A君は、悄然とうなだれてしまった。
「謝りに行かならあきませんね……」
 進路部長は、ロッカーからネクタイと上着を取り出した。

 A君は、業界用語では「明るく元気な生徒」だった。

 校内の言葉では「やんちゃな生徒」

 有り体に言えば「問題ばかり起こしている生徒」だった。

 生活指導でお世話になることも一度や二度ではなく「このクソ学校!」と言うのが彼の口癖であった。
 本人も、周囲の生徒や教師も「Aは、うちの学校を嫌っている」と思っていたし、本人もそうだった。

 進路指導部長がネクタイを締め終わったころに、大学から電話があった。

――いやあ、感服しました! A君は、近頃珍しい愛校心に溢れた生徒です! どうかお叱りにならないように――

 さすがに合否までは言わなかったが、その後A君は無事に大学に合格した。

「ええか、真似すんなよ。Aは、企まずにやったから評価されたんや。わざとやったら、絶対逆効果やからな!」

 あくる年からは「受験の心得」でA君の話をしたが、絶対真似するなと付け加えた。
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

あたしのあした・21『智満子どうしてるかなー?』

2020-06-13 06:07:29 | ノベル2

・21
『智満子どうしてるかなー?』
     

 

 

 そんなことを気にかけるあたしじゃなかった。

 プールの補講が益荒男高校を借りて行われることに補講女子たちは凹みまくっている。
 だけど、水野先生は平気だ。出来て一年もたたない新品のプールを使えることが生徒の為になると信じて疑わない。
 先生は、あくまで善意なのだから始末が悪い。

 なんとかしなくっちゃ。

 横田智満子が学校に来ない。

 ほんのこの前まで女子のボスとして君臨して、あたしのことをイジメまくっていた。
 あたしは、取り巻き女子たちの目の前で智満子をやっつけてボスの座から引きずり降ろしてやった。
 そのことがショックで、今度は智満子が学校に来なくなった。

 なんとかしなくっちゃ。

 この『なんとかしなくっちゃ精神』には、我ながら戸惑っている。それまでの引きこもりのあたしからは想像もできないポテンシャル。
 智満子にも指摘されたけど、なんだか男みたいだ。それも、議員秘書みたく、事の先々を読んで解決していく上出来な男性。

 議員秘書と言えばあの人……でも、そんなことってあり得るんだろうか……。

「恵には、もっと説教されるかと思った」
 バーゲンの紙袋を両手に抱えた智満子が、エスカレーターの中ほどで、ボソリと言う。
「どうしてよ、あたしだって楽しかったわよ」
「そ、そう?」
「うん、智満子が元気で明るくしてるのは嬉しいよ」
「でも、バーゲン漁っただけだよ。学校にも足向いてないし」
「いいわよ、外に出て元気になるだけで大進歩。引きこもりに関しては、あたしの方が先輩だからね」
「恵子……」
「あ! エスカレーター終わるよ」
「わ!?」
 バランスを崩した智満子が倒れ掛かってくる。予測が出来たので、横から智満子を支える。
 智満子の体温が伝わる……当たり前だけど、智満子も生きているんだとしみじみ。冷血動物じゃないんだ、ふつうの女の子なんだ。
「ウフ」
「アハハ」
 伝わった体温がおかしくって、どちらともなく笑い出した。
「「アハハハハハハハ」」
 犬ころのようにじゃれ合って笑うあたしたちは、完璧に十六の女の子だ。

 たくらんだわけじゃない。

 智満子どうしてるかなー?

 そう思って、西川の土手で教えてもらった番号に電話したんだ。

 あたしたちは駅前の交差点まで笑い転げてきた。通じ合うって楽しいもんだ!
「あ、信号変わる!」
 今度は、あたしが停められた。渡って渡れないことはないけれど、ちょっとヤバイというタイミング。智満子は意外に慎重だ。
 その時、右後ろからいやな気配がした。尾てい骨のあたりを筆でくすぐられるような、ゾゾっとした感じ。
 反射的に首をひねると、後ろの車道をセダンが突進してくるのが見えた。突進のコース上にあたしたちと後ろ横にお爺さんがいる!

「危ない!」

 あたしは智満子を弾き飛ばして、後ろのお爺さんにタックル! そのまま歩道の内側に転がる!

 ビシャ!

 運命が引き裂かれるような音が背中でした。

 あの日電車に飛び込んだ感覚が蘇って、意識が飛んでしまった……。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新・ここは世田谷豪徳寺・40《さくらの中間テスト・二限目》

2020-06-13 05:55:51 | 小説3

ここ世田谷豪徳寺39(さくら編)
≪さくらの中間テスト・二限目≫    



 朝からやってもちゅうかん(昼間)テスト……なんて親父ギャグが出てくる。

 要は退屈なんだ。

 今は二限目の日本史。日本史って暗記科目。だから暗記したことをみんな書いたら、あとは退屈なだけ。
 終わりのベルがなるまで、あと15分……ちょっと長い。

 気づくと机の上に蟻が歩いている……消しゴムのカスに出会って、触角で何ものなのか確かめている。
「バカね、それは消しゴムのカスで食べ物じゃないわよ」
 教えてやると、まるで、それが聞こえたみたいに蟻が触角を止めてこちらを見たような気がした。

「そんなこと分かってるわよ」

 蟻が口をきいた。

「え?」とは思ったけど、さほどには驚かない。あたしはひい祖母ちゃんの霊とだって話ができる。
「じゃ、どうして、そんなカスに興味があるわけ?」
「考えてるのよ、なんの役に立つか」
「蟻さんが考える?」
「バカにしちゃいけない。蟻だって考えるわ。ただ人間とは考え方が違うけど」
「どう違うの?」

 蟻さんは、直射日光が苦手なようで、机の日陰になっている方に移動した。

「蟻はね、情報を共有して、何万匹って蟻が一斉に考えてるの。それぞれ何万分の一かの脳みそ使って」
「なんだか、あなたって話し方や言葉が女っぽいけど、女の子?」
「そんなことも知らないの? 蟻はみんな女の子よ」
「へえ、女の子ばっかでたいへんなんだ。そうだ、昔から不思議だったんだけど『アリとキリギリス』の結論て二つあるじゃん。どっちが正しいの?」
「ああ、最後に蟻がキリギリスを助けるか見捨てるかね?」
「そうそう。保育所のころは、助けるって聞いたんだけど、お父さんの図書館で調べたら、蟻はキリギリスを見捨てるの。どっち?」
「両方とも不正解よ」
「両方とも!?」

 あやうく大きな声になるところだった。

「蟻とキリギリスはコミニケーションなんかとらないの。死んだキリギリスは解体して食糧にするけどね」
「へえ、そうなんだ……」
「ちなみに、イソップ童話のもとは見捨てることになってるけど、あれは寓話だからね。それと人間だって蟻が持ってる能力が少し残ってるのよ」
「ほんと?」
「サッカーとか野球とかバレーボールとかの団体競技、なんか全員で一つみたいになることあるじゃない。あれって、蟻同士のシンパシーといっしょね」
「ああ……なるほどね」
「さくら、あなた答え間違ってるわよ」
「え、どこ?」
「硫黄島の読みは『いおうとう』太平洋戦争は『大東亜戦争』が正しいの」
「え、だって、こう習ったよ」
「教えてる方が間違えてるの。注釈付けて書き直す。ほらほら!」
「でも、だって……」
 意志が弱いので書き直すけど、口ごたえしてしまう。
「その読み方と、呼び方は戦後アメリカが日本に強制した呼び方。日本人なら正しい表現をしましょう」
「蟻さんが、どうして、そんな昔のことまで知ってるの?」
「言ったじゃない、蟻は情報を共有してるって。共有って横だけじゃなくて縦にもね……」
「縦って……むかしむかしのこととか?」
「そう、さくらだってひい祖母ちゃんとお話しできるじゃん。それの、もっとすごいの。さあ、もう時間ないわよ急いで急いで!」

 あたしは急いで書き直した。最後の(。)を打ったところで鐘が鳴った。

 鐘が鳴ったら目が覚めた。答案は……ちゃんと書き直してある。消しゴムのカスもきれいに無くなっていた。

 カスにも使い道はあるらしい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする