大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

小説学校時代・11『不法投棄を見つけてしまった』

2020-06-11 06:02:04 | エッセー

 11

『不法投棄を見つけてしまった』   


 

 昔のゴミ捨てはゴミ箱ごと集積場に持って行きました。


 取っ手が付いていたように思うのですが、プラスチック製だったか金属製だったか、記憶はあいまいです。
 とにかく、ゴミ箱を集積場まで持っていき、ゴミを捨てた後、ゴミ箱は教室に持って帰ります。
 労力という点では、その後のゴミ袋時代の倍はかかります。
 
 このゴミ捨てを嫌がる者はいましたが、無精をかましてゴミ箱を放置してくる者は居ませんでした。

 教師になった昭和の50年代、ゴミ捨ては黒いビニール袋になっていました。
 ゴミ箱を教室に持って帰る手間がいらず、労力としては半分になりました。
 またビニール袋なので、ゴミ箱そのものに触ることが無いので、かなり清潔でもあります。

「必ず、ゴミ捨て場(集積場)まで持って行けよ」

 学年はじめのゴミ捨てには、この注意をします。
 気を抜くと、すぐに不法投棄をされます。
 空き教室や、階段のゴミ箱、植え込みなどが不法投棄の現場です。

 不法投棄を見つけた場合。

 事を荒立てずに、自分で捨てに行く先生と、不法投棄したクラスを突き止め、そのクラスの担任に返す先生とが居ました。

 クラスを突き止めるには、ゴミ袋の中身を調べます。

 ゴミの中には、小テストや返却プリントが入っていることが多く、それが無い場合でもクラスを特定できるものは大抵入っていて、その証拠を二つ以上見つけてゴミ袋に貼りつけておきます。
 で、たいていの担任は、あくる日に不法投棄した生徒に捨て直させます。

 正直手間ではありますが、こういうことをやっておくことが学校の秩序維持に繋がってきます。

「やー、やっぱりセンセのクラスきれいなあ」

 去年担任していたヤンチャクレが、教室を覗き込んで呟きました。
 ガサツでアナーキーな学校でしたが、たいていの生徒は秩序と平和を望んでいます。きちんと指導すれば八割がたは指導に乗ってきます。
 迫り方はいろいろだし、迫るレベルもまちまちですが、担任が自分の力量いっぱいにやっていれば、いつの間にか納得しています。

「こら、また不法投棄したやろ!」とゴミ袋を突き付ける。

「俺とちゃうわ!」
 開き直られるのは、気分で怒ったり、それまでの指導にムラがあったりした場合です。
「あ、バレてしもた?」
「バレバレじゃ!」
「しゃーないなあ((n*´ω`*n)」

 こういう風にいけば、入院しない程度のストレスで一年が過ごせました……。

 ちなみに、教師一年目は三月目で入院してしまい夏休みいっぱいベッドの上で過ごすハメにはなりました。

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あたしのあした19『なんだ、さっさとしろ!』

2020-06-11 05:41:16 | ノベル2

・19
『なんだ、さっさとしろ!』
      


 

 一週間ぶりにプールの補講が再開された。

 みんなは覚えてるかなあ、プールのポンプが故障して水が流れ出てしまって使えなくなったこと。
 一週間も空いたんで、ひょっとして補講は無くなるんじゃないかって……淡い期待は裏切られた。

 もう一つ、一週間も空いたんだから、水野先生やら学校は手配してくれて、どこかの女子大の温水プールくらい使えるようになったかな? と、期待した。

「あちこち手配して、なんとかプールを借りられることになった。放課後玄関前に集合、俺が引率していくから」

 それでも体育教官室前に呼ばれて宣告された時には微かな期待があった。

「水野先生、ニンマリ笑ってたわよね?」
 水着やタオルが入った袋を抱えてネッチがすり寄って来た。
「ひょっとしたらホテルの温水プールとか!?」
 ミャーが反対側から身を寄せる。
 うちの街は近隣に観光地が多いこともあって、街の規模の割には宿泊施設とかは整っている。だけど、ホテルの温水プールはありえないだろう。ミャーは楽観的すぎる。
「水野先生、温水プールのメンバーなんだよ!」
「え、うそ!?」
「うちのお母さん、ホテルのパートなんだけど、何度もプールで見かけたって」
 ただの楽観ではなさそう……ちょっと期待する。

 期待は現実になった!

 なんと、放課後玄関前で待っていたのは、ホテルの送迎バスだった!

「ウフフ」「アハハ」「ムフフ」「エヘヘ」「ニシシシ」と盛り上がった。
「ホテルの温水プールならさ、スク水って注目されちゃうわよね!?」
「外人のお客さんとかも多いらしいよ~」
「そそ、先月はハリウッドのスターとかも」
「あ、ケビン・ワイズナー! 彼って日本のアニメとかJKとか大好きなんだって!」
「こりゃ、もー、行くしかないっしょ!」
「そーだそーだ」

「「「「「「オー!!」」」」」」

 到着するころには、てっぺんまで盛り上がってしまった。

「「「「「「「「なにこれ!?」」」」」」」」

 そこの前について、補講女子たちはぶっ飛んでしまった。
「さ、バス下りたらさっさと、オレのあと付いてこい!」
 水野先生は、颯爽とマイクロバスを下りた。

 そこは、益荒男高校本校舎の玄関前であった。

「せ、先生」
「なんだ、さっさとしろ!」
「えと、マイクロバスはホテルのですよね?」
「ああ、無理言って借りてきたんだ。早くついて、その分しっかり補講ができるからなあ」

 あーー、マイクロバスだけかよ……

 早くも、十三人の補講女子に気が付いて、校舎や玄関の周囲から男子生徒たちの熱くもいやらし~視線が集まってきた。
 

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新・ここは世田谷豪徳寺・38《💀 髑髏ものがたり・7》

2020-06-11 05:29:16 | 小説3

新・ここは世田谷豪徳寺38(さつき編)
≪💀 髑髏ものがたり・8≫    



 イケメン中尉さんが戸惑ったような顔して桜子さんのやや後ろに立った……ところで目が覚めた。

 新聞の反応は直ぐには出なかったが、翌週、うちの雑誌が出たころから反応があった。

 反応は二種類。

 戦死者の首を切って骨格見本のようにした猟奇性と残虐性への表面的な興味。いわゆる怖いもの見たさ。
 それと戦争犯罪とまで主張するラディカルな反応。戦闘地域や時期がはっきりしているので、当時のオーストラリアの部隊や兵士まで明らかになった。
 オーストラリア政府は、当初は否定していたが、当時部隊にいた兵士が生きていて「本当だった」と証言した。この証言は証拠写真が付いていた。鍋の中で煮られる首と兵士たちの飯盒炊爨のように喜んでいる姿が生々しく写っていた。当然兵士の名前まで分かったが、すでに故人になっている。
「父がやったこととはいえ、これは死者に対する冒涜です。たいへん残念に思います。父に代わってお詫びします」
 年老いた故人の娘さんが涙ながらに謝っていた。
「写真は、野生のブタを煮ているところ。言いがかりだ!」
 という人もいた。

 科学技術というものは凄いもので、写真を鮮明にし、鍋の中の首と、頭蓋骨の特徴から90%の確率で同一人物のものであるということが分かり、オーストラリア政府が声明を発表するところまで行った。

 あたしは山下公園にいる。阿部中尉が「山下公園に行きたい」と夢の中で言ったから。

「ここはね、関東大震災の瓦礫を埋め立てて造った公園なんだよ。子供の頃から、よくここで遊んだもんだ」
 阿部中尉が言う。もう目が覚めていても姿が見える。あたしは人が見たら独り言を言っているように見えたかもしれない。
「あんまり嬉しそうなお顔には見えないんですけど、ひょっとして、あたしがやっていることって、余計なことだったですか?」
「……さつきさんや、惣一君には感謝している……」
「なんですか?」
「あれは異常な戦争だった、我々も褒められたことばかりやってきたわけじゃないしね……敵の兵隊を恨む気持ちは、自分にはない」
「そうなんですか……」
「あれは氷川丸だね、アメリカ航路の豪華客船だ」

 あやうく「大人二枚」と言うところだった。

 二人で氷川丸に乗った。陸軍中尉さんは子供のようにデッキを走り、タラップを上り下りした。

「そうだ、タイタニックごっこをしよう!」
「タイタニックごっこ?」
「ほら、二十世紀の終わりごろに映画になったじゃないか。アメリカでテレビ放送されるのを観ていた」
「案外ミーハーなんですね」
「ME HER? 英語かい?」
「いや、そうじゃなくて……」
 案外俗語の説明というのは難しい。
「ああ、思い出した。ミーハーのことか!」
「分かるんですか?」
「ああ、昭和の初めにはあったからね。ある事象に対して(それがメディアなどで取り上げられ)世間一般で話題になってから飛びつくことだ。ミーはみつまめのことで、ハーは林長次郎のことだ」
「林長次郎?」
「ああ、僕らの時代の二枚目スターさ。女の子の好きな、その二つをくっつけてミーハーになったんだ」
「そうなんだ」
「さあ、舳先に行こう」
「あそこ立ち入り禁止ですよ。監視カメラもあるし」
「なあに、五分ほど見えないようにすればいいんだ」
 阿部さんの言うことを信じて舳先の方へ。すると、動かないはずの氷川丸が白波を立てて、いっぱい向かい風を受け大海原を走り始めた。あたしたちは、無邪気にタイタニックごっこをやった。

 不思議なことに、映画と同じアングルでスマホに映像が残された。

 誰にも見せない、あたしだけの宝物になった。

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