大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・137「啓介 災難に遭う」

2020-06-22 13:48:40 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)

137『啓介 災難に遭う』小山内啓介   

 

 

 

 空堀高校は穏やかな学校だ。

 学校も生徒ものんびりしていて、あまりもめ事めいたことは起こらない。

 この一年で最大のもめ事が、部室棟に湧いたダニ・ノミ事件であったというだけでも分かってもらえると思う。

 人の事には干渉しないというのが不文律なので、うちみたいに演劇をしない演劇部でも存在が許され、仮とは言え部室まであてがってもらっている。

 その演劇部の部長がオレなんだから、オレの中身は純正の『ノンビリ』で出来ていると宣言してもいい。

 

 その、ノンビリの代表みたいなオレが、生活指導室にしょっ引かれて取り調べを受けようとしているんだから、大変な事件なんだ。

 

 事の始まりは、昼休みの食堂だ。

 一番人気のランチの列に並んでいる時に事件は起こった。

 ランチの列はランチを始めとする『ご飯系』を食いたい奴が並んでいる。だから、学年や男女に寄る偏りはほとんどない。

 もともと穏やかな校風でもあるので、他校に比べて、わりとノンビリ緩く並んでいる。

 オレの後ろに、一年の女子たちが続いていた。クラスの仲良し同士で、並んでいながらでもピーチクパーチクお喋りに余念がない。

 女子のお喋りと言うのはクラブの三人娘で免疫ができているので、オレには単なる環境音でしかない。

 一年の女子たちは、たとえ食堂の列であっても、必要以上に他人、とくに男子の他人にはくっ付きたくない。だから、オレとお喋り女子たちの間には微妙な距離が空いている。

 たまに松井先輩やお馴染みの生徒会女子たちと並ぶことがあるんだけど、彼女たちには遠慮も油断もない。

 きっちりと感覚を詰めて並んでいる。列が動いた時など、車で言う玉突きになることがある。たいてい肩とか腕がぶつかる。女子でも、肩とか腕だったらどうということはない。松井先輩やミリーは、そういうところにこだわりが無さすぎで、どうかすると、胸でぶつかって来る事がある。むろん、そのままにしているはずはなく、よっこらしょッと、腕を使って押し返してくる。

 反応が「あ、ごめん!」と「気を付けてね!」もしくは無言に分かれるが、ま、そんなもんだ。

 一年の女子たちは、車に例えれば若葉マークで、オレとの間に十分過ぎる車間距離をとって並んでいる。

 

 事件と言うのは、その十分過ぎる車間距離の中に割り込んできたやつがいたことだ。

 

 お喋りが中断したことで割り込みに気が付いた。

 振り返るほどじゃないけど、ちょっと首を捻ったところで、そいつが視界に入ってきた。

 野球部の田淵だ。

 同学年だけど、同じクラスになったことはない。たまに練習に励んでいる姿を目にしているので、ユニホームの名前で、いつしか憶えてしまっていた。

「田淵くん、後ろに周った方がいいんとちゃうかなあ」

 穏やかに言って、後ろの一年女子たち目で示してやった。

「え? ここ最後尾じゃね?」

「一年の女子らが並んでると思うねんけど」

「え? この子ら喋ってるだけちゃうん」

「どいたりいや、迷惑そうな顔してるで」

「迷惑て、そうなんか?」

 よせばいいのに、一年の女子たちをね目回しやがった。こういう威嚇をするやつは好きやないぞ!

「野球部やったら、ちゃんとフェアにやれやあ!」

「なんやとお!」

 田淵は『野球部』という言葉で切れてしまった。

 どっちが先だったのか、互いに胸ぐらをつかんで床を転がりまわった。

 食堂の床と言うのは、うどんの汁やらラーメンの千切れたのやらがあって、それが服につくは、鼻につくはで、他の床よりも狂暴になってしまう。

 転がりまわりながらも、ここに演劇部の女子が居たら、仲裁に入ってくれるんだけどと思ってしまう。

 松井先輩だったら、胸ぐらをつかみ合う前にいなしてくれていただろう。

 で。

 けっきょく、どこの誰かだかが通報してくれて、こうやって生活指導の取り調べを受ける羽目になっている。

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小説学校時代 21『地域との付き合い』

2020-06-22 06:32:26 | エッセー

 21 

『地域との付き合い』  

 

 

 地域で評判のいい学校というのは、あまりありません。

 

 前回触れたように、登下校が地域の邪魔になるとか、勝手に私道や駐車場を通られるとか、ゴミをまき散らすとか、声がうるさいとか、長時間居座られて営業の邪魔というファストフードとか、部活の騒音とか、校舎の窓から水を掛けられたとか、家の中を覗かれるとか……etc

 そういうマイナスイメージを少しでも払しょくするために、地域の清掃をやることがあります。

 グラウンドに全校集会の要領で生徒を集めて「これから、地域の清掃活動にかかる!」と宣言し、クラスごとに担当地域を割り当て、ゴミ袋と金バサミを持たせ、全教職員が指導と監督に当ります。

 主に通学路で、ところによっては私有地まで(ちゃんと断って)入ります。

 時間的には、たいてい一時間目で、通勤の人もまばらに居て、地域の会社やお店は営業にかかる時間帯です。ご近所の主婦の方々が掃除をしていらっしゃったりします。

 普段、シャクに触る生徒たちが、甲斐甲斐しくゴミ拾いをしていると、たいてい喜んでいただけます。

 学期に一度くらいのわりで行って、地域の評判を取り戻します。

 

 こんな対策を立てる生活指導部長の先生もいました。

 

 地域の神社に御神酒とのしを付けた酒瓶をぶらさげて生徒の安全祈願や学業祈願に行かれます。

 神社というのは、地域の情報センター的な存在でもあり、地域との結びつきは確固たるものがあります。

「いやあ、先生がお参りに来られるなんて初めてですわ!」

 神主さんに感動していただけます。御神酒にも○○高校と書かれて、しばらくは拝殿に置いてもらえます。

 神社には氏子の組織があって、噂は結構広まります。中には神社のホームページに載せてくださることもあります。

 むろん、お神酒も祈願料も個人もちであることは言うまでもありません。

 この先生は転勤されるまで、この年一回のお参りを欠かしませんでした。

 

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あたしのあした・30『これでいいんだ秋の夕暮れ』

2020-06-22 05:49:17 | ノベル2

・30
『これでいいんだ秋の夕暮れ』
      


 

 智満子はいっしょに乗っては行かなかった。

 あたしたちへの遠慮なら、ギャラクシースペシャルに放り込んででも行かせた。
 インターチェンジまで歩いてきた早乙女女学院と飯館女子の子たちは女子高生の雰囲気じゃなかった。

 太宰治の『走れメロス』のメロスが四十人居て、それがみんな女の子だったらこうなる。そんな感じ。

 メロスと言っても、途中投げ出そうという気持ちと闘っているときのじゃない。シラクスの街を目前にし、どうしても友人セリヌンティウを助けるんだ! と決意に満ち溢れたメロスだ。こんな圧の高い人たちといっしょに行ったら、その情熱と圧で息が止まってしまう。

「この人たちを送ったら拾いに来ますから!」

 いつも冷静な手島さんもまなじりを上げてハンドルを握りなおした。
 なんだかエヴァに乗り込む碇シンジをサポートする葛城ミサトのようだ。

「SNSとかで中継とかやってないかなー」

 スマホをいじりながらベッキーが呟いた。
 他のみんなもスマホをいじっていたが反応が無い。
 女子高生がヒマするとスマホをいじるってのは相場なんだけど、この反応の薄さは……と思ったら、みんなも同じ思いで、あちこち検索を掛けているようだ。
 会場はスマホのスイッチは切らなきゃいけないことになっているけど、1200人も居るんだ、こっそり撮っている人が居るに違いない。
「あ、あったよ!」
 ネッチがヒットしたので、みんながネッチを囲んで集まった。
「ちょ、押さないでよ!」
 たちまちネッチは押しつぶされそうになる。
「みんな自分のスマホで観ればよくない?」
 理論派のノエチンが提案すると、みんなその場でスマホとにらめっこを始めた。
 広いインターチェンジなんだから、それぞれ好きなところに散ればいいのにと思う。
 一ところに固まっている様子は、まるで猿山のお猿さんたちみたいだ。

 ん……一瞬ちがう光景が浮かんだ。折りたたんだ新聞に鉛筆を持たせたら競馬場のオッサンたちと変わらない。

 競馬場なんか行ったこともないのに、そんな気がする自分がおかしい。
 てか、あたしは、その猿山の真ん中に居る。あたしはボス猿じゃないわよ。
「ち、切れちゃった!」
 スマホで撮り続けていては電池がもたない。ずっと撮っていろというのが無茶だろう。
「ちょ、お花摘み!」
 ミャーが宣言すると、たちまち八人ほどが右へ倣えになった。

「ね、待合室のテレビで中継やってるわよ!」

 ミャーが手を拭きながら、待合室の入り口で叫んだ。
 そうなんだ、これだけのイベントなんだから地元ローカルならやってるかもしれない! なんで思いつかないかなあ!

 100インチのプロジェクターの前に、あたしたちは陣取った。

 プロジェクターは8Kの最新型で、迫力も臨場感も満点だ。
「会場じゃ、みんなバラバラだけど、こうやってみんな揃って観られるのもいいよね」
 智満子が言う。
「うん」「そうだね」と賛同の声が上がる。
 いくら8Kがクリヤーだと言ってもテレビはテレビ、ライブで観るのがいいに決まってる。
 だけど、みんなで決心して早乙女女学院を助けて、揃って観られることを喜ぼうという空気があった。

 けっきょく手島さんが迎えに来た時は早乙女女学院には間に合わなかった。

 でも、これでいいんだ! と思う秋の夕暮れだった。

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プレリュード・7《平凡な二人の非凡な出会い》

2020-06-22 05:39:06 | 小説3

・7
《平凡な二人の非凡な出会い》    




 加藤と鈴木という日本の苗字ベストテンに入る平凡な二人は、非凡な出会い方をした。

 前も言ったけど、わたしは去年まで演劇部にいた。
 もっと早く辞めたかったんだけど、義理と人情でコンクールも手伝ったし、朱雀ホールでのO先輩らの芝居も観に行った。
 朱雀ホールの芝居にむかついたのは第三回に書いた通り。

 問題の非凡は、この帰り道に起こった。

 四天王寺前の赤信号で引っかかったらアクビが出てきた。人間の心理は面白いもんで、こらえてたムカつきが、こんなところでアクビと言う反応になって表れた。
 で、バカみたいに開けた口の中にたこ焼きが飛び込んできてビックリ。大阪人の悲しさで、たこ焼きが口の中に入ると、むせながらでも美味しく咀嚼してしまう。
「あ、ごめん! ごめんなさい! 火傷しなかった!?」
「え、ああ、いいえ……」

 これが鈴木君との縁の始まり。

「加藤さんも、あの詐欺みたいな一斉送信に引っかかったんや」
 鈴木君は、たこ焼きのお詫びにお茶に誘ってくれた。同じ芝居のパンフ持ってたし、会場でも見かけた顔。そして、何よりたこ焼きの飛来で、気持ちがシンクロしていた。鈴木君もむかついて、帰りにたこ焼きを買ってやけ食い。赤信号に気がついて急に立ち止まったら、勢いでたこ焼きが、爪楊枝から外れて空中を飛翔して、偶然にもあたしの口の中に飛び込んだというわけ。

 鈴木君はA高校の演劇部だけど、連盟には加盟してない。一年の時にコンクールに出て、バカらしくなったので、クラブの実権を握れた二年のときに連盟を脱退。自分の演劇人生のプログラムをしっかり持っていて、演劇部は芝居の鑑賞に特化。将来はプロを目指すことにしている。
 あっちこっちの芝居を観ては、その感想をブログに載せて、そのころには、いろんな劇団から招待券やら割引券をもらえるようになっていた。

「一人で観るより、二人の方が楽しいから」

 そういうことで、時々芝居に連れていってもらうようになった。招待券の半分くらいは二名様というのが多いので、無駄にならなくていいと、鈴木君。
 芝居を観たあとは、お茶しながら感想の言い合い。彼は、そうしながら自分の考えをまとめている。わたしも鈴木君と対等に喋りたいから、真剣に芝居観るし、パンフ読んだりネットで検索したり勉強する。

 いつの間にか「奈菜ちゃん」「貫ちゃん(貫太郎)」と呼び合うようになった。

 ある日、平凡について話題になった。

「あたし『奈菜は変わってる』て言われるんだけど、自分では、そうは思わない」
「同感。平凡というのは量の問題と違って、質の問題やと思う。例えば僕らみたいに好きな芝居を観て回ってるのは平凡で、自己満足の芝居やって事足れりとしてる大概の演劇部の方が異常いうか非凡な感性やと思う」

 この話題が出た時は、面白いことがあった。

「ほんなら、今日は、僕のオゴリね」
 お茶代は、一回ごとに交代でオゴっている。お互いにイーブンな付き合いにしたいから……それに、いちいち何度目か勘定なんかしてないから「次はどっち」ということになり、暗黙のうちに、その次会えることの了解にしていた。

 程よく男女の境を超えた付き合いだと思っていた。

 それが、バレンタインデーでは、あんなに悩んだ。過ぎてしまったら、アッサリだけど。

 そんな、早春のころ、貫ちゃんから「ちょっと話がある」というメールがきた。芝居のお誘いではない初めてのメール。

 平凡が非凡に変わる予感……。          奈菜……♡ 

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