大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・158『宇都宮 十四餃子飯店・1』

2020-06-04 14:31:42 | 小説

魔法少女マヂカ・158

『宇都宮 十四餃子飯店・1』語り手:マヂカ     

 

 

 あのクラゲ、脚が無いよ。

 

 考え事をしていたので面食らった。

 壬生を過ぎて北に向かっていると、急に友里が指差したのだ。

「あ、あれはギョウザだよ」

「え? あ、ああ、ほんと、ギョウザって書いてある!」

 街道沿いの雑多な店の家並みの上に見えてきた大きなディスプレーに気が付いたのだ。

「あ……ハハハ」

「え、なんかおかしい?」

「なるほど、ギョウザと言うのは足のとれたクラゲに見えるなあ」

 川島芳子と食べた餃子を思い出した。東洋のマタハリと呼ばれた彼女と食べたのは奉天の水餃子だ「僕は焼き餃子なんて下卑たものは食べないよ」とか気取っていたのが懐かしい。

 友里は、期せずして餃子の本質を見抜いたか。

「宇都宮はギョウザの街だからな」

 ワン!

 ツンの一声でギョウザの店に入ることにした。

「おっと、ツンは人間にしておかないとな……えい!」

「え、ツンて女の子だったの!?」

 目がクリッとした、ショートヘアの似合う中学くらいの女の子になった。

「わん!」

「ああ……人の姿にしただけだから言葉は喋れないか」

「お箸とか使える?」

「わん」

「そうか、西郷さんがご主人だけあって、行き届いているな。いいか、無口な中学生で通すんだぞ」

 ツンは『わ』の口で止まって、わははと笑ってごまかした。

 

 繁盛している店で十人ほどの列ができていて『最後尾』というプラカードを受け継いで並んだ。周辺には、他にもギョウザや中華の店が並んでいて、街ぐるみギョウザで繁盛しているようだ。

 

「よそは『来々軒』とか『奉天』とか、それらしいのに、ここは『十四』なんだね……なんかそっけない、あ! うちのギョウザはジューシー! これだね、ジューシーギョウザなんだ!」

「違うと思うよ」

「……そうだ、十三だったら縁起が悪いから。欧米とかは、十三人でテーブル囲むのは縁起悪いから人形を椅子にに掛けさせたりするって」

「よく知ってるな」

「徳川先生に聞いたよ」

「懐かしいなあ」

「そ、そうだね」

 徳川先生はポリ高家庭科の主任で、調理研の後ろ盾になってくれている。

「早く片付けて、調理研の日常に戻りたいな」

 戦いが日常の魔法少女だが、そもそも、この時代には休養の為に来ている、ゆっくりしたいのが本音ではある。

「あ、次だよ」

 ボンヤリしているうちに順番がまわってきた。

 

 厨房には四角いギョウザ鍋が幾つも並んでいて、フル回転でギョウザを焼いている。店の大将が蓋を開けると盛大に湯気が上がり、焼き上がったばかりのギョウザの香りが店内に満ち満ちる。

 

「へい、お待ち!」

 大将をそのまま若くしたようなアンチャンが注文したギョウザを並べてくれる。鼻先に持って来られたギョウザの匂いは格別だ。家や学校で作ってもこうはいかないだろう。

「大将、十四というのは宇都宮第十四師団のことだね?」

「よく分かったね、うちの店はひい爺さんが十四師団に居てね、満州で除隊になって始めたんだ」

「そうだったんだ!」

「感心ばかりしてると、先に食べられてしまうぞ」

 ツンは喋らない分、黙々と食べている。

「大将、もう三人前追加だ」

「了解!」

 店内のあちこちからも追加や新規のオーダーが入って、そのたびに「了解!」の声が上がる。

 それは北支の斉斉哈爾(チチハル)に短期出動した時に馴染んだ十四師団の兵たちの口調そのものだ。

「大将も息子さんも、口元がいっしょだよ」

「ああ、初代の大将もな」

「あ、ほんとだ」

 奥の壁にはビニールに包んで額が掛けてあり兵隊服の初代がにこやかな笑顔で写っている。

「なんか、口元がギョウザみたいね」

 聞こえたのか、大将がアハハと笑った。

「あ、悪い意味じゃなくて(^_^;)」

「分かってるよ、お嬢ちゃん。この顔でね中隊長から『除隊したらギョウザ屋』をやれ、きっと繁盛するぞって言われて始めたってね……はい、追加あがり!」

 息子が受け取ると、体を半回転するだけでカウンターに並べてくれる。まるで、戦闘行動の連携を見ているようで小気味がいい。

 真っ先に箸を構えたツンの手が停まった。

「どうかしたか?」

『わ』の口のままツンの目が険しくなった。大将もギョウザ返しのテコを停めて耳をそばだてる。

 

 敵襲!

 

 大将の一声で空気が一瞬で変わってしまった!

 

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メタモルフォーゼ・13『祝県中央大会優勝!』

2020-06-04 06:23:56 | 小説6

メタモルフォーゼ

13『祝県中央大会優勝!』    

 


 信じられない話だけど、中央大会でも最優秀になっちゃった!

 本番は予選の一週間後で、稽古は勘を忘れない程度に軽く流すだけにしていた。それでも、クラスのみんなや、友だちは気を遣ってくれて、稽古に集中できるようにしてくれた。

 祝勝会は拡大した……ややオヤジギャグ。だってシュクショウでカクダイ。分かんない人はいいです(笑)

 校長先生が感激して会議室を貸してくださり、紅白の幕に『祝県中央大会優勝!』の横断幕。
 学食のオッチャンも奮発してビュッフェ形式で、見た目に豪華なお料理がずらり。よく見ると、お昼のランチの揚げ物や唐揚げが主体。業務用の冷凍物だということは食堂裏の空き箱で、生徒には常識。
 でも、こうやって大皿にデコレーションされて並んじゃうと雰囲気~!

「本校は、開校以来、県レベルでの優勝がありませんでした。それが、このように演劇部によってもたらされたのは、まことに学校の栄誉であり、他の生徒に及ぼす好影響大なるものが……」
 校長先生の長ったらしい挨拶の最中に、ひそひそ話が聞こえてきた。
「あの犯人、みんな家裁送りだって……」
「知ってる。S高のAなんか、こないだのハーパンの件もあるから、少年院確定だってさ」
「どうなるんだろうね、うちの中本なんか?」

 中本は、ちょっとカワイソウな気もした。もとはあたしのことに興味を持ってスマホに撮った。好意をもって見ているのは動画を見ても分かった。道具を壊したのもAに言われて断れなかったんだろう……って、なんで同情してんだろ。あの時は死んでも許さない気持ちだったのに。

 これが、女心とナントカなんだろうか。あたしも県でトップになって余裕なのかな……そこで、会議室の電話が鳴り、校長先生のスピーチも、ひそひそ話も止まってしまった。

「マスコミだったら、ボクが出るから」

 電話に駆け寄った秋元先生の背中に、校長先生が言った。
「はい、会議室です。外線……はい、校長先生に替わります」
 会議室に喜びの緊張が走る。
「はい、校長ですが……」
 校長先生がよそ行きの声を出した。
「……なんだ、おまえか。今夜は演劇部の祝勝会なんだ、晩飯はいらん。何年オレのカミさんやってんだ!」
 そう言って、校長先生は電話を切ってしまった。
「校長先生、県レベルじゃ取材は無いと思います」
「だって、野球なら、地方版のトップに出るよ!」
「は……演劇部ってのは、なんというか、そういうもんなんです」

 祝勝会が、お通夜のようになってしまった。なんとかしなくっちゃ。

「大丈夫です、校長先生、みんなも。全国大会で最優秀獲ったら、新聞もテレビも来ます。NHKだってBSだけど全国ネットで中継してくれます!」
「そうだ、そうよ。美優なら獲れるわよ。みんな、それまでに女を磨いておきましょ!」
「男もな!」
 ミキが景気をつけてくれて、それを受けて盛り上げたのは……学校一のイケメン、倉持先輩だった。

「あの……これ、予選と中央大会のDVD。おれ、放送関係志望だから、そこそこ上手く撮れてると思う。みんなの前じゃ渡しづらくってさ。関東大会の、いや全国大会の参考にしてくれよ」
 倉持先輩が、昇降口を出て一人になったところで声をかけてきた。
「あ、あ……どうもありがとうございました!」
「いいっていいって、美優……渡辺、才能あると思うよ。じゃあ」
 あたしは、倉持先輩が、校門のところで振り返るような気がして、そのまま見ていた。
 振り返った先輩。あたしはとびきりの笑顔で手を振った。

 好き……というんじゃなくて、あたしの中の女子が、そうしろと言っていた。

「恋愛成就もやっとるからね、うちの神社は……」
 突っ立っていたあたしを追い越しながら、受売神社の神主さんが呟いた。そのあとを普段着の巫女さんがウィンクしていった。

 あたしは真っ赤になった。でも、好きとか、そういう気持ちではなかった。

 そういう反応をする自分にドギマギしている別の自分が居るんだ……。

 

 つづく 

 

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あたしのあした12『ゲ、男子校じゃん!?』

2020-06-04 06:14:10 | ノベル2

た・12
『ゲ、男子校じゃん!?』
      

 

 

 ラーメンを注文して空っぽの丼が出てきたら、こんな感じ。

 いや、その何百倍も え!? 

 水が入っていないプールというのは、その何百倍も超えて、シュールな感じ。
 水着になって、プールサイドに出てきた補講女子(あたしも今日から)は、呆気にとられた。

「とりあえず、準備運動しとけ!」

 水野先生は、そう言うとプールのあちこちを調べ始めた。
 水が入っていないのにプールサイドで準備運動ってのも間が抜けてるんだけども、人間と言うものは指示されることに弱い。

 アメリカだったかで、銀行に強盗が入ったのね。
「おい、おとなしく、このバッグに金を入れろ!」
 すごんだとこまではよかったんだけど、窓口のオネーサンが、こう言ったのよね。
「みなさん並んでらっしゃるんですから、列の後ろに回ってください」
「え、え……?」
「お並びください」
「うん、分かった」
 強盗は大人しく列の最後尾に並んで、通報を受けた警察官に捕まったって話がある。
「え、だって、オレちゃんと順番まもって並んでるじゃん……」
 手錠を掛けられながら強盗はプータレていた……という間抜けな落ちがつく。

 その時のあたしたちって、ほんとに、この強盗みたいな指示待ち人間。

「だめだ、ポンプが壊れて水が抜けてしまったんだ」
 点検を終えた先生がお手上げのポーズしながら敗北宣言。
 うちの学校は、あちこちポンコツだけど、プールのポンプまでとは思わなかった。
「先生、このあとどうするんですか?」
「今日は不可抗力だから、成績点けといてやるから」
「「「「「「「「やったー!」」」」」」」」
 みんな一斉に喜んだ。スク水着て喜んでいると、ひどくあどけなく感じてしまう。

 あたし一人あどけなくなくて、着替え終わったネッチに、こう言った。

「こういう場合って、近所の学校のプール借りて補講やるんだよ」
「え、中止とかならないの!?」
「ならないならない、学校って、そういうとこ互助組合みたいだから」
「ハーーーーーーー」
 ネッチは魂が抜けてしまうんじゃないかってぐらいの長いため息をついた。

 あ、ネッチてのは関根さんのこと。仲間内ではネッチと呼ばれてるんで、さっそくそう呼ばせてもらってるんだ。
 あたしは『田中さん』としか呼ばれない。
 あたしは昔から地味子。地味子は、みんなから距離置かれてるから、さんづけでしか呼ばれない。ま、いいけどさ。

 で、大きな不安がある。

「近所の学校って、どこの学校だろうね?」
 中庭でほうじ茶をすすりながらネッチが呟いた。

 とりあえず、クラスの補講女子が集まって、当てのない日向ぼっこをしている。
「いちばん近いのは小学校だけど……」
 ミャー(皆川美耶)が小さく言う。
「それはないっしょ。ターンとかしたらプールの底で怪我しそう」
 と、ノンコ(古田信代)
「借りるとしたら高校からでしょ」
 これはキララ(渡辺きらら)
「一番近い高校ってば、益荒男(ますらお)高校だよ!」
「ゲ、男子校じゃん!?」

 そう、近場の高校は益荒男高校しかない。あたしでも、それはありえない……。
 
 

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新・ここは世田谷豪徳寺・31《尾てい骨骨折・8》

2020-06-04 06:04:31 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺31(さくら編)
≪尾てい骨骨折・8≫    



 

 それは番組が終わってすぐだった。

「わたしの楽屋に寄ってらっしゃい、お姉さんも、どうぞ」
 二輪さんに促されて、付いていこうとしたら、足がもつれた。
「オットトト……!」
「あなたも、どうぞ」
 二輪さんが、あらぬ方向に向かって言った。二輪さんの部屋にいくとマネージャーとお付きの人がいたけど、二輪さんが目で合図すると、阿吽の呼吸で部屋を出て行った。
「お姉さんはそちらに。さくらさんは正面。左端は空けてね。桜子さんがお座りになるから」
「え、ええ!?」
 びっくりした。だって部屋にはあたしの他はさつきネエと二輪さんだけだったから。

「ひいお祖母様の桜子さんがいっしょにいらっしゃるの。驚かなくてもいいから。ね、そうでしょ……ハハ、そうなの。桜子さんお彼岸に帰り損ねたの?」
「ひい祖母ちゃんが、いっしょにいるんですか?」
 あまり不思議な感じはしなかった。
 お姉ちゃんは、あたしの横あたりを見ているが視線が定まらない、見えていないのだ。
「見えるようにしましょう。いいでしょ桜子さん?」
 どうやらひい祖母ちゃんも同意したらしく、お姉ちゃんが後ろにまわって、左隣を空けたツーショットになった。
「はい、これでどう?」
 二輪さんのスマホには、あたしの横に同じ帝都の制服を着たお下げの女の子が透けて写っていた。
「あ、さくらに似てる!」
「そりゃ、血がつながってるし、想いが重なってるんだもの。でも、こんなにはっきり写るなんて、想いが強いのね」

 それから、二輪さんを通してひい祖母ちゃんとの会話が始まった。

 ひい祖母ちゃんは戦後大恋愛の末に十九で結婚した。ひい祖父ちゃんは戦争で復員したら、戦死したことになっていて奥さんは弟さんと再婚していた。ひい祖母ちゃんの家も跡取りの兄が戦死していたので、二つ返事で養子に入ってくれた。当時は、よくあった話らしい。二十歳でお祖父ちゃんが生まれ、お祖父ちゃんが成人した年にひい祖母ちゃんの桜子さんは亡くなっている。

「どうして、女学生の姿で出てくるの?」

「……それはね。桜子さんは空襲のとき熱風を吸い込んじゃって、声帯を痛めて歌が歌えなかったの。で、心残りだったのが女学校の音楽の試験で『ゴンドラの唄』が歌えなかったこと。今年のお彼岸で、さくらちゃんが歌のテストが近いんで、つい、憑依しちゃたって。同じ学校で、同じ音楽のテストで……ハハハ、さくらちゃん、半日一人カラオケやらされたの忘れてるでしょ?」
「あ、さくらひどい声して帰ってきたじゃん!」
「あ、お姉ちゃんにのど飴放り込まれた……」
「恥ずかしいから、記憶から消したんだって……え、それはダメ」
「え、ひい祖母ちゃん、なにか言ってるんですか?」
「さくらちゃん、YouTubeのアクセスすごいでしょ。で、桜子さんは、気を良くしちゃってアイドルになりたいって!」
「エエ……!?」

「それいいかも。あたしマネージャーやります!」

 お姉ちゃんが二つ返事。軽はずみはうちの家系のようだ。

「桜子さんは想いが強すぎるから、さくらちゃんの人格まで支配してしまう」
「どういうことですか?」
「さくらちゃん、あなた、尾てい骨骨折してるでしょ?」
「え、どうしてご存じなんですか?」
「あれで、一瞬心に隙間ができて、悪気はないんだけど、桜子さんジワジワと憑依しちゃった。まあ、いま反省してるみたい。さくらちゃん自身歌の才能があるから、いろんなところから声がかかるでしょうけど、けしてプロになっちゃダメ。むつかしいけど、アマチュアで時々やるぐらいにしておいて。さくらちゃんは自分自身のものなんだから。まあ桜子さんも分かってるみたいだから、大丈夫でしょ。このことは、わたし達だけの秘密にしておきましょう。わたしの番号教えておくわ。困ったことがあったら、どうぞ相談して。じゃ、お引止めしてごめんなさいね」
「いいえ、こちらこそ」
 姉妹そろって頭を下げる。さつきネエはちゃっかりサインをもらっていた。
「では失礼します」
「はい、それじゃ……ちょっと待って!」
 ドアを閉めようとしたら、二輪さんが声を掛けてきた。

「桜子さん、もう一つ秘密があるみたい……」

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